第六話 隣町
翌朝。
「ユウリはこれからどうするの?」
「え? ああ」
なにも考えていなかった。
逆に聞いてみることにする。
「トランプはどうするんだ?」
「わたしは隣町まで行くわ」
「おお、それじゃあ俺も一緒に隣町に行くことにするわ」
「そう……」
あからさまに嫌そうな顔だ。
「なんだよ、嫌なのか?」
「……まあ、いいわ。でももうご飯はあげないから」
「おう」
そこまで話すとトランプは荷物を例の小さな魔道具カバンにしまい始めた。
俺も一応、昨日のガムをポケットに入れておく。
腹痛もすっかり治って、気分がいい。
やはり腹痛の原因は陣痛ではなくただの食中毒だったようだ。
なんて考えていると、後ろからトランプが声をかけてきた。
「そろそろ行くわよ」
「よし、行くか」
「あ、そうだ。わたし走るから」
えっ?
「おい、ちょっと待て。俺の足が極めて遅いのは周知の事実なわけだが」
「わたしにとっては初耳なわけだが」
「その魔道具バックの中に入れて連れて行ってくれ」
「やだ」
「…………」
即答。
そして、沈黙。
「たのむよおおおおおおお! 一緒に歩いてくれよおおおおおおおおおお! 俺、役に立つから! 俺、元勇者パーティーメンバーだから!」
「やだよ! ていうかまず湯沸かし師ってなんだよ! そんなケトルで失業しそうな奴が役に立つわけないだろうが! お前が勇者パーティーにいたことが一番の謎だわ!」
「謎じゃねぇよ! それ言い出したら勇者パーティーには俺以外にも、ゆでたまご作り師とかもいたぞ!」
「なんなんだよ、勇者パーティーはお料理集団なのかよ! ここまでくると、むしろ他のメンバーの職業が気になってくるわ!」
「お料理集団じゃねぇよ! あと他のメンバーの職業は油沸かし師とシェフ」
「じゃあ、お料理集団じゃねえか! シェフなんか戦場に連れて行くなよ!」
「大丈夫めっちゃ強いシェフだから」
「めっちゃ強いシェフってなんだよ……ワンピのサ○ジかよ……」
「だからぁ! ……ゼー、ハー、それはぁ……フー、」
「ハァ、ハァ、な、なによ……」
大声を出したらお互いに息が持たなくなってきた。
そうして、しばらく息遣いの音のみの時間が流れたあと、トランプが気を取り直したように言った。
「じゃあ、わたしもう行くから」
「ああ、おいちょっと……」
俺はトランプを引き止めようとする。
しかし前を見ると、歩き出したはずのトランプが立ち止まっていた。
「おい、どうしたんだよ」
「いや、そこに女の子が」
「え?」
俺たちの進行方向、つまり隣町の方面に、いつのまにか黒髪の少女が立っていた。
と思えば、その少女はいきなりこちらに向かって話しかけてきた。
「やぁやぁ、お兄さん方。元気?」
「元気だが」
俺が応じる。
すると少女は笑顔と真顔の中間のような、つかみどころのない表情を浮かべ言った。
「そりゃよかった! あたしも元気といえば元気?なカンジかな!」
妙なテンションの子だ。
ふわふわとした雰囲気をしている。
「あなた、なんの用?」
痺れを切らしたのか、トランプがそう聞く。
「あーうん。お兄さんたちさ、隣町に行こうとしてる?」
少女は質問に質問を返す。
トランプに代わって俺が、
「ああ。俺たちは今隣町を目指してる」
と答えると、少女は顎に人差し指を当てて言った。
「やっぱりそうなんだ。……んーと、ね、」
少女はそのまま顔を斜めに傾け、何かを考えるような仕草をしながら言った。
「隣町はね、消滅したよ」
……。
俺とトランプは、顔を見合わせる。
「「はぁっっっっっ!?」」
衝撃展開。




