目が覚めたら、ピンク色の蜘蛛になっていた日
<目覚めたら、ピンク色の蜘蛛になっていた日>
ある日、瑠奈は変わった夢を見た。
わたしは蜘蛛になっていた。
小っちゃくて、足は8本もあって、そして体はピンク色だった。
ケバケバしいその模様に見とれたりもしたが、
すぐにそれどころではないことに気付いた。
蜘蛛の世界はわたしが知っている世界とは全く異なり、蜘蛛たちが生きる方法、交流する方法、考える方法はそれとは全く違うものだった。
わたしはこの世界で生きるために、自分の小さな脳をそこだけに、最大限に使わなければならなかった。
危険を避け、そして食べ物を手にするために糸で網を張る。わたしは蜘蛛たちの生きる術を身につけていった、驚くほどの速さで、しかもとても自然に。
それはとても清々しかった。
わたしは生きている心地よさを感じた。
蜘蛛の脳は人間のそれよりはるかに小さい。
必要な情報のみを処理し、脳を生きることだけに最大限にコスパよく使う。ムダなことには使わない。
一方、人間の脳は無駄なことばかりに使っている。
相手がどう思うか?
未来がどうなるか?
外の世界はどうなっているのか?
蜘蛛からすれば思いもつかないこと。
それは人間だけに与えられたギフテッドだった。
でもそのギフテッドこそが、生きているという実感をわたしたちから失わせているのかもしれなかった。
そう思うと、突如今の世界が狭く感じるようになった。
そして何を思ったのか、でもそれは自然に「蝶の羽根を頂いてそっちに行こう」とつぶやき、わたしはさっき自分で張った網に引っかかった蝶の元へ向かっていったのだった。