受講すると仕事が紹介されるスクール(その2)
前回は契約を検討している間に参考にする広告のお話をしたので、今回は契約とそれ以降のお話です。
【契約と書面の交付】
さて、いよいよ契約について。
業務提供誘引販売業を行う者は、業務提供誘引販売取引について契約する場合には、契約の前と後にそれぞれ以下の書面を消費者に渡さなければならないことになっています。
まず、契約を結ぶ前には、該当する事業の概要を記載した「概要書面」を渡さなくてはなりません。
こちらに記載されなければいけない事項は以下の7項目です。
・業務提供誘引販売業を行う者の氏名(名称)、住所、電話番号、法人にあっては代表者の氏名
・商品の種類、性能、品質に関する重要な事項(役務の種類及びこれらの内容に関する重要な事項)
・商品名
・商品(提供される役務)を利用する業務の提供についての条件に関する重要な事項
・特定負担の内容
・契約の解除の条件その他の契約に関する重要な事項
・割賦販売法に基づく抗弁権の接続に関する事項
え?いっぱいあっていちいち読んでいられない?
そんな事言わないで。
お金を払って購入する商品や、紹介してもらえる仕事の内容や条件など、とても大切なことが書かれています。
どれか一つでも欠けていれば、その企業は「法律を守る気がない」か「守らなければいけない法律を把握できていない」かのどちらかです。
個人的にはとても危険な香りがすると思います。
特に「特定負担の内容」つまり消費者側が負担しなければならない金銭や物などの条件や「業務の提供についての条件」は勧誘時に受けた説明と違っていたり、説明時にはぼかされていることが多々あります。
最近私が見かけたとある企業の例ですが、SNSでの宣伝では「最大で単価1万5千円の依頼を月間30本」としているにもかかわらず、概要書面には「毎月最低一本は依頼を発注する」「報酬最低額は一件一万一千円とする」となっていました。
「最大」は嘘ではないつもりかもしれませんが、ツイッターで確認できる発言では報酬最低額についての言及はなく、最低発注数についても「忙しさに合わせて受注する量を調整できます」という表現に留めていて月に一回依頼をすれば会社側の義務は果たせる契約になっているという説明はありませんでした。
概要書面のこの文言に対する質問も、まともに回答しなかったり「忙しさに合わせて仕事の量を調整できます」という回答に留めていて、発注側の都合で件数が少なくなる可能性についてはいくら訊かれても答えませんでした。
もちろん、これらをどう判断するかは個人の自由と責任におけるものですが、面倒だからとまともに確認せずに契約した場合、どのような損害を被ったとしても誰のせいにもできませんのでご注意を。
また、「契約の解除の条件」に無理な条件を付加している業者もいます。くれぐれも注意しましょう。
次に、契約を結んだあとです。
契約が成立したら、事業者は速やかに契約内容について明らかにした「契約書面」を渡さなくてはなりません。
こちらには以下の10項目が記載されます。
・商品の種類、性能、品質に関する事項(役務の種類及びこれらの内容に関する事項)
・商品(提供される役務)を利用する業務の提供についての条件に関する重要な事項
・特定負担に関する事項
・ 業務提供誘引販売契約の解除に関する事項
・業務提供誘引販売業を行う者の氏名(名称)、住所、電話番号、法人にあっては代表者の氏名
・契約の締結を担当した者の氏名
・契約年月日
・商品名及び商品の商標又は製造者名
・特定負担以外の義務についての定めがあるときには、その内容
・割賦販売法に基づく抗弁権の接続に関する事項
はい、たくさんありますね。全部とても大事なものなので、面倒くさがらずにしっかり確認しましょう。
最初の三つは契約前に渡された概要書面と相違ないかよく確認しなければなりません。
4項目目は解約のために必要不可欠です。
5~8番は契約する当事者に関する情報。
9番目は特定負担、つまり商品の代金以外の負担についてですね。
10番目はローンを組んで支払う際の、クレジットカード会社からの請求差し止めに必要な情報です。
ね、どれも大事でしょう?
ちなみに契約書面が交付されない場合はクーリングオフの期限の起点が来ていないという事で、いつでも無条件に解約できます。
ちなみにこれらの書面には「消費者に対する注意事項として書面をよく読まなければならないこと」を赤枠の中に赤字で記載しなければなりません。
また、契約書面におけるクーリング・オフの事項についても赤枠の中に赤字で記載しなければいけません。
さらに、書面の字及び数字の大きさは8ポイント(官報の字の大きさ)以上であることが必要です。昔よく見聞きしたような「契約書や説明の書類の字が小さすぎてまともに読めない」というトラブルを防ぐためです。
え? 8ポイントでも読みにくい?
……ワタクシもですが、適宜眼鏡を使いましょう。
いや官報読みにくすぎなんですけど。
【クーリングオフ】
契約するまでは違和感を覚えなくても、契約してから「話が違う」と気づいて解約したくなることもあるでしょう。
契約成立後も契約書面を受け取った日から数えて20日以内であれば、消費者は書面又は電磁的記録により契約の解除=クーリングオフをすることができます。
この際の理由は問いません。どんな理由でも解約できます。
クーリングオフが成立した場合、業者は契約の解除に伴う損害賠償や違約金の支払を請求できず、商品の引取り費用も業者の負担となります。
ただし、原状回復義務については、契約を解除する双方が負うことになります。業者は支払われた代金、取引料を返還するとともに、消費者は引渡しを受けた商品を業者に返還しなければなりません。
また、クーリングオフを申し出た際に業者側が脅すなどして契約解除できなかった場合は、20日経過した後であってもクーリングオフが可能です。必ず脅迫を受けた証拠をのこしておきましょう。
また、契約解除の申し出にあたっては事故や行き違いを防ぐためにも書面であれば内容証明郵便にて送付し、電子メールやウェブサイトのクーリング・オフ専用フォーム等であれば画面のスクリーンショットを残しておくことなど、証拠を保存しておく方が望ましいです。
なお、勧誘の際に事実と違う事を告げられたり、逆に事実を告げられないことで誤認して契約した場合は契約の申込み自体を取り消せますが、たいていの業者はうまく言い逃れできるように細工しているのでこちらは割愛します。
【契約を解除した時の損害賠償】
代金の支払遅延など、消費者の債務不履行を理由として契約が解除された場合には、事業者から法外な損害賠償を請求されることがないよう賠償額の制限がかけられています。
賠償額の上限は以下の通りです。
・ 商品が返還された場合、通常の使用料の額
(ただし販売価格から転売可能価格を引いた額が、通常の使用料の額を超えているときにはその額)
・ 商品が返還されない場合、販売価格相当額
・役務を提供した後である場合には、提供した役務の対価に相当する額
・ 商品をまだ渡していない場合(役務を提供する前である場合)には、契約の締結や履行に通常要する費用の額
これらに法定利率による遅延損害金の額が加算されます。
早い話が、実際にやり取りした商品の代金と法定利息以外の「損害賠償」は要求しちゃだめだよ、って話ですね。
【今回のまとめ】
・「スクールを受講するとライターとしての仕事を紹介する」「登録料を払うことでライターとしての仕事を紹介する」といった形態のビジネスを「業務提供誘引取引」と言う。
・「業務提供誘引取引」の勧誘では嘘をついたり都合の悪い事実を告げないまま契約に及んではいけない。
・「業務提供誘引取引」の勧誘や解約の時に消費者を脅して契約させたり、解約を思いとどまらせてはいけない。
・「勧誘だ」と伝えずに公共の出入りのない場所(自宅や事務所、SNSのチャットなど)に呼び出して勧誘を行ってはいけない。
・HPに事業者や代表者の名称、氏名、住所などの「連絡先」や、発生する代金などの「消費者の負担」と「仕事を紹介する条件」を明記していない業者は法令を守っていない。
・契約をする前(契約の検討中)に詳しい契約内容が説明された「概要書面」が渡されなければならない。
・契約前に「概要書面」を熟読しよう。特に「特定負担」と「業務の提供についての条件」は何度も読み返してしっかり理解しよう。納得できなければ契約は見送ろう。
・契約後すぐに契約内容について明らかにした「契約書面」が渡されなければならない。
・契約後、契約書を受け取った日から数えて20日以内であれば《《無条件で》》(これ超重要)クーリングオフできる。
・クーリングオフを申し入れるときはできれば内容証明郵便で。電子メールや専用フォームしか受け付けない業者の場合は必ずスクショ保存!!
・契約解除後の事業者に対する損害賠償は、その商品の価値+法定利息を超えない範囲で。
え? 「まとめなのに多すぎ。八文字以内にしろ」ですって?
特商法はとてもトラブルの多い商取引について、消費者に泣き寝入りをさせないために、業者の逃げ道を極力ふさいで安全な取引をうながすための法律です。
したがって、業者がついてきやすい様々な穴をふさぐために、契約にかかわる様々な場面で起こりえるトラブル一つ一つに対応する文言があります。
どれ一つ欠けても悪意のある業者に利用されてしまうので、フリーランスとしてやっていきたいのであれば、めんどくさくても最低限これだけはきちんと理解してください。
文言を丸暗記する必要はありません。理解しておいて、いつでも確認できるようにしておくことが大切です。
厳しいようですが、その程度の努力すら拒むようであれば、自分に無限に責任が降りかかってくるフリーランス=個人事業主としての独立は夢に見ることすらできません。
どこか貴方を法的に守ってくれる企業に雇用していただいて、その業務で上司の指示の範囲内の活躍にとどめた方があなた自身のためです。