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1-8 修道女のはじめて

 リリアンの開かれた視界に映るのは、コーラの自販機、メリーゴーランド、風船売り、棒キャンディーを舐める子供達……。


 とっても穏やかな公園に来られたのに、リリアンの心は波立っていた。


「……安全な場所ってここですか?」

「もう少し先にあるらしいぞ」

「あなたもご存じないのですか?」

「さっき、大通りに看板あったから、こっちに走ってきただけだ」


 少年はリリアンを軽々持ったまま公園を横断し、【公園前警察】と書かれた場所まで駆け抜けていく。

 建物の中に警官の姿が見えた時、彼はリリアンをどさっと地に下ろした。


「目的地はここだ」

「わざわざ警察まで……あなた、本当に良い人ですね」

「お前みたいなの放置したら夢見わりぃだろ」


 リリアンは喉を鳴らし、呆然と少年を見つめる。


(この人は、とても素敵な人です……)


「ほら、立てよ。あとは一人で警察に行くか、逃げろ」

「……無理です」


 足に力が入らないし、なんだか心臓がどくどく言っている。


「胸はだけさせて道端に座り込んでいるつもりか、このド阿呆っ」


 少年が乱暴にリリアンの腕を掴んで立ち上がらせた。

だが、彼女の足はふにゃふにゃしていて蹌踉よろめいてしまう。


「危ねぇな、おい」


 少年が腕を伸ばして、倒れかけるリリアンを強く抱きしめた。


 きゅん、と心臓が潰されるような感じがする。


 少年の腕がリリアンの背に周り、少年の胸はリリアンの鼻に押しつけられ、二人の足は触れあってしまっている。


 きゅんきゅんと、リリアンの心臓が変な音を連続して鳴らす。


 音が鳴るたびに、喉が詰まるような感じがして、肌がカッと火照ほてっていく。

 その火照りは身体の芯まで到達し、頭がのぼせ、新たな何かが身の中で生まれた気がした。


(生まれた……?)


 リリアンは、今の状態を確認した。

 少年に強く抱き締められている。

 つまり、抱かれている。

 しかも、身体が熱く火照っている!


(――こ、これは)

 

 事態を理解して、リリアンは声を上げる。


「な、なんてことをするのですっ。わたし、わたし……っ」


 彼女はキッと少年を睨んだ。


はらみました!」


「……は?」


「わたし、はらみました!」


 バッ、と少年は彼女を己の身から乱暴に引きはがした。


「でかい声で、何いってんだ、変態っ」


 リリアンは仁王立ちし、自分のお腹に手を当てる。


「あなたは、今、わたしを抱いたではありませんか!」

「おい、こら。すげー違うだろ、それ!」


 後退りすると、彼女は潤んだ目でじっとアベルを見た。


「結婚いたしましょう。責任を取ってください」

「いや、おかしいだろ。色々と間違ってるだろ」

「大勢の前で犯したくせに、逃げるのですか!」

「黙れ!」

「あんなに、いやらしいことしたのに……そんな態度酷いです!」


 通りにいた人々が、二人を見てぼそぼそと話している。


「妊娠させたのに逃げるつもりよ、あの男」

「やだ、さいてー」


 少年は猫目を険しくして、リリアンに背を向けると――その場からシュンっと逃げ出した。


 女をはらませたのに責任を取らないつもりである。


「待ちなさい!」


 リリアンは後を追おうとしたが、あまりにも身軽な少年は寒気で割れていく人混みの奥へ奥へと消えてしまうのだった。


********

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