1-5 乳と誤解とバトル!
修道士達が気圧されて離れると、少年はリリアンに近づいてきた。
「その年で、身体を売るなんて真似はよせ」
少年はリリアンの真横でぼそりと言い、そのまま立ち止まらずに歩いていく。
(――身体を売る?)
言葉の意味が理解できなくてリリアンは暫し考えてから「あっ」と声を漏らす。
「……もしかして、あなたは、わたしを売女と勘違いしているのですか?」
とととっと彼女は少年に駆け寄って声を掛けた。
「売女じゃなきゃ、色情狂か、朝から乳見せつけたい変態だろ」
「わたしは身体を売ってるわけでも、色に狂ってるわけでもございませんし、朝から乳を……きゃあ、乳がはみ出てます……っ」
「わざとらしいな」
「いいえ、違うんです!」
リリアンはぷるっと露出していた胸の谷間を抑えて、少年の後をついて行く。
「これは誤解です。わたしは、今まさに襲われようとしていたのですっ」
「自分でボタン外してただろうが」
「これには深いわけがあり――そのわけを説明するのはあえて省きますが、まずは、あなたは思いがけずに善人だと判断いたしました」
少年が足を止めて「は?」と言いながら振り返る。
露骨に嫌な顔をしていた。
「わたしの行為を愚行だと思い、止めに入ったのですね。その心に感動いたしました」
「……いや、通ろうとしたら、あんたらがいただけだし、別に本気で止めようと思っていないし、俺、自分以外の命どうでもいいし」
「ありがとうございます。なんだか空気もひんやりと冷えて、あの人達のよこしまさも消えたように感じます」
その時だった――。
「スタート、メイバール!」
二人の後ろから叫び声が聞こえ、リリアンは修道士達の方へ視線を流す。
「スタート」これは修道詩会で、グリモワール内の魔法を発揮する場合に用いられる言葉である。
続く「メイバール」というのはグリモワールの名だ。
魔法はグリモワールに『詩を始める』という宣言をしてから発動される。
なぜ詩なのかというと、魔石に入っているグリモワールの呪文が詩の形になっているからだ。
さきほど声を張り上げた修道士の手に、魔法の長剣が出現した。
「修道詩人っ」
リリアンが叫んだ。
魔法を刃にして扱うのは、修道詩人である。
(彼らは正義のために魔法をふるうはずなのに、何故こんな愚行を……)
だが、今はそんな理屈を言っている場合ではないだろう。
リリアンは悪人面の少年を庇おうとしたが、それより先に少年が動いた。
「開詩。戒王、逆流」
少年は戒王というグリモワールを作動させ、右手を鉄砲の形に握って修道士達に向けた。
するとその手は一瞬のうちに変化し、醜くぼこぼこした銃の形となる。
ちなみに銃化の力を持つ者は魔導詩人だ。
彼らは詩を始める時に「開詩」と唱える。
「コレクト、ウィンド!」
相手が魔導詩人であることに慌てながらも、修道詩人は呼び出す魔法の名を告げる。
ウィンドという名の魔法が風を伴って動き出す。
修道詩会系の魔法はここまでだ。
修道詩人は剣を大きく振るった。
刃が直線的な碧い風となり、甲高い音を鳴らす。
「雷砂、装填――、発射!」
少年が、相手に向かって魔法名を叫ぶと、ダンッ、と銃から氷点下の咆哮が飛び出す。
魔導詩人は魔法を逆流させる後押しの単語を唱える必要がある。
この場合は「発射」だ。
「上々!」
少年が放った魔弾に向かってさらに言葉を放つと、彼の魔弾は勢いを増して修道詩人のウィンドという魔法を打ち砕いた。
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