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従者アルベルト・ドキャバン

 さて、先ほど唐突に出てきた従者だが、もちろん彼が不幸な男アルベルトである。彼と彼女の出会いも軽く説明せねばなるまい。


 とはいえ語ることはそう多くない。出会いはいたってシンプルだ。


 ベアトリーチェが5歳の時父親に連れられて領地の巡回についていくと、とある農村でムチに打たれている子供を発見した。ベアトリーチェは家の外に出るのが初めてで、また、叩かれている人間を見るのも初めてだった。


「お父様、どうしてあの子は叩かれているの?」


「ん?ああ、例えばベアが悪いことをしたとき、言葉で叱ったらベアは分かってくれるだろう?」


 ベアはコクリと頷いた。


「それはベアが賢いからだ。でも下賤の子供は叩かなきゃわからないからね」


 父親の語る貴族ルールはよくわからなかったが、しかしベアはこれだけは理解した。


(あの子供は叩いてもいいんだわ!)


 それからベアトリーチェのお願い攻撃により、従者としてこの8歳の子供、アルベルト・ドキャバンが買われたのだった。


「アルベルト・ドキャバンと申します。誠心誠意お仕えいたしますお嬢様」


 幼い従者アルベルトは、農村でムチを打たれる生活から逃れられ、それはそれはベアトリーチェに感謝し淡い恋心も抱いていたのだが、それはまあ一瞬の儚いことだった。これからベアトリーチェにこっぴどく苛め抜かれるからである。


 ~~~~~~~~~~~


 アルベルトは最初はベアトリーチェの異常性に気付かず、ちょっとおかしいな、と思う程度だった。


「じゅうしゃー」


「はい、お嬢様」


「木登り見してぇ」


「了解いたしました」


 従者アルベルトは可愛い女の子のお願いを叶えるため難なく木を3メートルほど登って見せた。木の上からベアトリーチェを振り返りアルベルトは達成感満面に声をかけた。


「いかがでしょうお嬢様!」


「じゅうしゃー」


「はい!」


「飛び降りてぇ」


「……はい?」


 アルベルトは耳を疑ったが、しかしベアトリーチェの目は期待に爛々と輝き、これから喜ぶ準備をしていた。


「あ……う……」


 果たして、追い詰められた従者アルベルトが飛び降りるのにはそう時間はかからなかった。


 雄たけびに似た掛け声とともに飛び降りたアルベルト。何とか足は着地の衝撃に耐え、全身にしびれが走ったが、彼は倒れなかった。足は無事、折れたりしなかった。


「お、お嬢様!どうですか!」


 脂汗を流しながら振り返ると、ベアトリーチェは、全く笑っていなかった。折れる所が見たかったのである。


 ~~~~~~~~~~


 こんなことが何度も続き、アルベルトはとうとう公爵家の誰も気づいていないベアトリーチェの本性に気が付いた。


 お嬢様は……化け物だ……。


 しかしここ以外にアルベルトに居場所はない。しかも自分の身柄は公爵家に買われているのである。


 彼はこの令嬢の異常性の原因は何かとしばらく調べていた。その原因を治療すれば彼女を()()()()()()に戻すことが出来ると信じていたからである。


 しかし結局、「原因などない」という絶望に陥ることになった。両親には十分な愛を貰っていて、まともな教育も受けている。彼女の性質は生まれつきなのである。


 これからアルベルトは「彼女にとっての普通」を何とか許容できるようになり、また同時に彼女に「アルベルトの普通」を教え込むことに成功したり失敗するのだが、それはまた別の話。


 結局彼はベアトリーチェの成長期と思春期をそばで支え、ずるずると冒険者パーティーを一緒に組むことにまでなるのである。


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