プロローグ
期待を膨らませた高校生活の初日、私は期待以上の幸運に恵まれた。
入学式が終わり、自分の教室に入ると、席順が貼り出されていた。
私の席の隣には、どストライクの男の子が座っていた。
この男の子、何処かで見た事ある気がする。
この学校は、クラスも席順も成績順だ。
だから、彼の隣になれたのは、単なるラッキーではなく、特待生枠2位で入学した私の努力の賜物とも言える。
この茶髪の男の子が特待生1位?
挨拶くらいしておいた方が良いかな。
「あ、あの私、氷室 沙月と言います。よろしくお願いします」
「小鳥遊 流生です。よろしく」
少し吃ってしまったが、彼は気にせず挨拶を返してくれた。
教室内を彷徨く生徒がいる中、担任の先生が教室に入って来た。
先生は教壇に立つと、クラスメイトに着席を促し、ホワイトボードに自分の名前を書いた。
「今日から1年間、皆さんの担任を務める長瀬 美玖です。今日は、皆さんの自己紹介とクラス委員の選出で解散になります」
思いの外若い女性教諭に、男子生徒が色めき立った。
フェミニンロングの黒髪に、モデル顔負けのプロポーション。
身長は160cm代後半で、胸はEカップオーバーだろう。
服の上からでも腰の括れが想像できる。
その上、その腰の位置が高い。
思春期の男子には刺激が強すぎるのではないだろうか。
先生の容姿に圧倒されていると、自己紹介の1番手として、小鳥遊君が指名された。
「ご存知の通り、当校は成績の良いものが露骨に優遇されます。自己紹介は、成績順に行いますので、クラス委員になる事を承諾するかどうか、その場で意思表示して下さい。拒否権の優先順位は、成績順になります。承諾する者がいない場合は、自動的に成績最下位の者が、クラス委員になります。それでは、特待生1位の小鳥遊君からお願いします」
(ヒィ〜)
(うわぁ、マジで露骨)
(エグい)
(このルール、他にも適用されるよね)
(多分…)
教室内が騒がしくなったが、そんな事など気にする様子もなく、小鳥遊君が立ち上がった。
「小鳥遊 流生です。趣味はネトゲです。廃人の域に達してます。プライベートでは、殆どVRの世界にフルダイブしてますので、クラス委員を引き受ける時間は有りません。以上」
小鳥遊君が、いきなりカマしてくれた。
この自己紹介に、教室は更に騒ついた。
反応は、大雑把に分けて3つ。
1つ目は、ネトゲ廃人を自称する茶髪男子に、テストの成績で負けた怨嗟の声。
2つ目は、ネトゲ廃人がフェイクだと言う疑いの声。
3つ目は、小鳥遊君を知るゲーム好きのクラスメイトの驚きの声。
「私、あの人、見た事あるよ」
「TGO(True Genesis Online)のルイスか?」
「アバターのまんまじゃん。HNがルイスって、身バレ上等かよ?」
ゲーム初心者の私でも、TGOのタイトルは知っている。
昨年夏より3度のβテスト期間を経て、今週遂に本サービスを開始するVRMMORPGだ。
既に社会現象になる程の盛り上がりを見せている。
私も1学年下の幼馴染の女の子とパーティを組んで、第3期のオープンβに参加し、ハマってしまった。
明日が前夜祭で、その翌日がサービス開始だ。
どうやら彼は、そのTGOで有名人らしかった。
何処かで見た事あると思ったら、ゲームの中だったのか。
その後、クラス全員の自己紹介が終わり、予定調和で成績最下位(と言っても、このクラスにいる時点で学年上位なのだが)の田中君がクラス委員となった。
この日の予定は直ぐに終了し、11時前には下校の時間となった。
帰ろうとする小鳥遊君の周りに、TGOに興味のあるクラスメイトが集まる。
「小鳥遊君って、あのルイスだよね?」
「前夜祭のPvPトーナメント、カリンちゃんとペアで出場するんだろ?」
「カリンちゃんがリアル彼女って本当?」
容赦なく質問が浴びせられる。
「その辺の事は、バレバレでも一応マナーとして聞かないでくれ。その内オフ会とかあったら話すよ」
小鳥遊君は質問に対しては、否定も肯定もしなかった。
クラスメイト達は、TGOで小鳥遊君とパーティを組もうと誘っていたが、彼は誘いを尽く断り、帰ってしまった。
そして翌日、小鳥遊君はアッシュグレーに髪を染めた美少女と手を繋いで登校し、思い切り注目を集めた。
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