1-8 背に腹は
皆さん、覚えていますか。『真面目な労働者、桜。享年十八。』の家族を。
「すべて、桜のせいよ。」
桜は、旅立ちました。人としての生を終え、隠り世にいます。本来なら発見され、葬られます。けれど、妖怪になりました。つまり、骸が残されていない。
「兄さん、ちゃんと確認したの。」
「したさ。お前だって、確認しただろう。」
「したわよ。」
兄妹仲良く、言い争っています。
「息を吹き返したってことだろう。」
「アンタ、何を。」
「他に考えれれないだろう。」
弟参加。
「三人とも、落ち着きなさい。」
「父さん。」
「それ以外、考えられないわ。」
「ほら、母さんだって。」
一家は考えた。桜は生きている。あの時は、臨死状態。何かの拍子に戻り、逃げたんだ。そうに違いない。
桜、見つからず。高い掛け金、家計を圧迫。保険金を手に入れるため、騙くらかしたよ、お婿さん。黄泉行き列車、発車します。
これで一安心。書かせた遺書をもって、警察へ。捜索願も受理された。すべてが上手く?
「どうするのよ。」
義理の息子は、発見された。すぐに病院へ担ぎ込まれ、助かった。そして。もう、手が出せない。
「は、働きに、出るか。」
「どこに?働き口なんて」
「ある。」
差し出されたのは、求人広告。
「稲山神社? どこにあるのよ。」
「都の外れらしい。」
はい、そうです。妖怪も鬼も外方を向く、あの広告です。応募者の中には、この一家も。
何の躊躇いもなく、応募。外面だけは良い一家。面接を受け、即採用。
「何で掃除なんて。」
「仕事ですから。」
「アンタがやりなさいよ。」
「何で洗濯なんて。」
「仕事ですから。」
「オマエがやれ。」
「ちょっと、何で」
「文句言わずに、働け。」
自称、犬格者たち(狛犬)。牙をむいて叫んだ。
一方。義理の息子は、ツイていた。
担当、桜。更生課、相談係きっての凄腕である。しかも、特別啓蒙中。後遺症なし。目覚めてすぐ、彼は言った。
「今回のこと、黙っておいてやる。その代わり、オレに近づくな。」
その後、人生バラ色。よき人と出会い、再婚。子宝にも恵まれた。家庭運と同時に、金運も上昇。生きてて良かった。