1-5 給与明細、見てビックリ
社は管轄外。どうすれば高天原へ行けますか。えっ、違う。派遣元ですか?
「人事課長。元の部署へ戻して下さい。」
「桜くん、元気そうだね。」
「課長の目は節穴ですか。見えませんか、隈。」
「怖いよね、熊。」
広葉林を好む、雑食性の獣ではありません。戻せないなら、行政指導して下さい。
江戸時代に松山藩の代官所がおかれた? 久万ではありません。糈米でもありません。えっ、御存じない。神仏に供える白米ですよ。
『くま』は神に供えるもの、『しね』は稲という意味です。じゃなくて、疲れた時に目のまわりに出来る、黒ずんだ部分。これです、コ、レ。
「仁、人事課長。白洲で会いましょう。」
「さ、桜くん。冗談だよね。」
「本気です。奉行所へ行きます。」
勧告なんて生ぬるい。情け容赦なくババンと。それくらいしないと。いいえ、改善されません。
「世のため、妖怪のため。お願いします。」
「わかった。改善を要求する。」
「要求が通らなければ、更生課に戻してください。」
「わかった。わかったから、落ち着いて。」
念書を取ったし、休暇も取った。久しぶりだな、寮に戻るの。相部屋の楓さん、元気かしら。おやつも買ったし、一緒に食べよう。
「へぇ、そんなことが。」
「そうなのよ。」
時間外手当て、すごい事になってました。給与明細、見てビックリ。いえ、ね。ここから通うはずだったんです。住み込みではなく、通いだったんです。
それなのに、労働24時間、休みなし。帰りたくても帰れない。帰れなかったんですよ、本当に。
愚痴ったらスッキリしました。楓さん、ありがとう。
「グゥ。」
って、オホホ。
お夕食の時間だわ。今晩の献立は、まぁステキ。いなり寿司定食!
「いっただきまぁす。うぅん、美味しい。」
作ってもらえるって、贅沢ね。
部屋に戻って、一休み。
あら、お風呂の時間だわ。ルンルン。湯上りに檸檬水。
「ククゥゥ。」
五臓六腑にしみわたるぅ。
お肌の御手入れ、忘れずに。睡眠不足は美容の敵。
「わぁぁ、お布団フカフカ。おやすみなさい。」
スヤスヤ、グゥ。
一方。人間界、稲山社。
「た、大変です。桜さんが、帰ってきません。」
慌てふためく神使。
「その辺にいるだろう。」
気にしない神。
「それが、どこにも。」
動じない狛犬、動ずる。
「代官所に訴えましょう。」