1-4 辞令
なぜ、こうなった。確かに、実務経験ありますよ。御屋敷で奉公してました。家事なんて、御手の物。でも、ね。違うと思うのよ。人事課長!
「桜、御神酒。」
「昼間っから、飲んだくれると。」
「フン、妖め。」
「妖怪ですが、何か。」
なぜ、こうなった。更生課に戻りたい。真っ白だったもの。残業なし、悶着なし。
「桜、散歩。」
「運動不足ですものね。」
「いや、頼む。」
「仔犬を拾ったのは、どちらの神ですか。」
「私だ。しかぁ、行ってきます。」
なぜ、こうなった。
ここは都。はい、都です。閑静な住宅街から徒歩半日。広々とした田んぼ、美しい泉。住めば都。帰りたい!
「桜さま、終わりました。」
「そうですか。で、これは。」
「綿埃です。」
「やり直し。」
「鬼ぃ。」
「妖怪です。」
「妖ぃ。」
「あなたも、ね。」
お気づきでしょうか。ここは社。そう、社。神様の御宅です。自称ではありません。歴とした証拠があります。実は、斯く斯く然然。え、わからない?
神使に逃げられ、求妖。しかし、応募なし。困った狛犬、考えた。そうだ、代官所へ行こう。
「それは、それは。」
「誰か、いませんか。宮使え経験者。」
「宮仕え、ですか。」
「はい。未経験者では務まりません。」
宮仕え。確かに生前、奉公しておりました。それは立派な御屋敷に。神の邸宅ではなく、人の邸宅。
真っ白でした。
決められた労働時間、週休二日、時間外手当に特別報酬。給金も良い。三食、おやつ付き。住み込み、個室つき。日当たり良好!
隠り世も真っ白。
妖怪関係に悩むことも、強制奉仕させられることもありません。給与は振込、寮完備。安全第一、法令遵守。申請なしの残業、および副業禁止。隠り世界における社会的信用、花丸!とっても好待遇。
現在。
労働24時間、休みなし。真っ黒。人間界、怖い。出向って、黄泉行き急行だったのね。片道切符?冗談じゃない。労働基準監督署へ通報します。今、すぐに。