1-2 怨念
真面目な労働者、桜。享年十八。
なぜ、こうなった。連れ戻された実家は、とても狭かった。だだっ広い屋敷は人手に渡り、残念なことに。
「桜、最後の親孝行だ。」
目の前には、保険証書。受取人は、両親。戻ってすぐ、悟る。終わった。
「こんな端金。三年もあったのに、恥を知れ。」
こつこつと貯めたのに。意味が分からない。
「迷惑料として、没収。」
むしろ、慰謝料よこせ。
「まぁ、厄介払いできるんだし。」
連れ戻しておいて、何を言う。
「それも、そうね。」
そうねって、何が?
「感謝しろ、桜。準備は出来ている。」
どうしましょう。話が通じない。
私は桜。この木も桜。風が心地良いわ。フフッ。ブランコみたい。揺れてる。思い出が走馬灯のように浮かぶって、嘘ね。お迎え、まだかしら。そろそろ、いいんじゃない?
「『死神さん、おいでなさい♪』現実逃避って、難しいわ。歌っちゃった。ねぇ、まだなの。」
「かわいそうに。」
「同情するなら降ろしてよ。いくら身軽でも、そろそろよ。コロコロしたくない。」
「面白い娘だね。」
「どちら様でしょうか。」
「鬼火です。」
「はじめまして、桜です。」
「これは、ご丁寧に。って、なぜ。」
「私も知りたい。なぜ、こうなったのか。」
「いや、ね。ないの?怨念とか。」
「恨みも辛みも、あります。」
「あるんですね。」
「もちろん。でもね、時間は巻き戻らない。」
鬼火は言った。妖怪として生きませんかと。私は言った。雇用条件によりますと。大事よ、確認しなきゃ。
数年後。
真面目な労働者、桜。隠り世の代官所。更生課、相談係勤務。しかも、係長。部下は三妖怪。狐のゴン太くん、狸のタヌ吉くん、兎のウサさん。みんな、働き者。
それに何より、助かるわぁ。ココは真っ白。妖怪関係に悩むことも、強制奉仕させられることもない。
「隠り世ぉ良いぃトコ、一度はぁあ、おいで♪」
いけないわ、桜。勧誘なんて。