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1-1 桜

 女は中学へ行けない。だから女学校へ進む。桜だって、進学したかった。夢見ることさえ許されず、家事を一人でこなす日々。

 

 必要なことなのに、誰からも感謝されず、虐げられる。怒り爆発。もう、知らん。家出だ!

 

 家事能力を活かし、住み込み奉公。目指せ、女学生!それゆけ桜。負けるな桜。その運命や如何に。


春が来た。思い出すのは、痛み。私は、桜。桜が咲いた朝、生まれたから。名前負け? そうね。私は、要らない娘。だから虐げられる。


家事は、好き。誰よりも早く起き、誰よりも遅く休む。炊事、洗濯、掃除。素早く、丁寧に。くノ一みたい。時々思う。忍法、使えるかしら?


皸だらけの指。荒れた手。台所の隅で済ませる食事。捨ててしまうような材料で作る。味がしない。私にはもう、味覚がない。どうせなら痛覚がよかった。痛みを感じなければ辛くない。考えないようにしよう。私は空気。


家事は必要、誰かがしなければ。なのに感謝されない。両親に兄、妹、弟。この家の人たちは、欠けている。歪んでいる。



「愛想のない子で。」


笑えない。笑い方なんて、忘れた。


「気の利かない娘で。」


なにそれ。私が悪いの?


「生きていて、恥ずかしくない?」


家事一つ出来ないくせに。


「目ざわり。消えろ。」


私は、虫か?犬猫か。


「遅い。呼んだら、すぐに来い。」


なに言ってるの?



誰にも似ていなければ、夢が見られる。どこかに本当の両親がいる。いつか迎えに来てくれる。そんな夢。幸か不幸か、私は似ている。どちらにも。


鏡が嫌い。見たくない。だから見ない。私、何かしたかしら。そうでなければ、前世で何か。着物は妹のお下がり。そりゃね、小柄よ。だからって、一枚くらい新調してくれても。


報酬は雀の涙。有難く思え? もらえるだけマシ? どうせ、使い道がない? 決めつけるな。家事を一人で担っているのに、少なすぎる。もう、知らん。家出だ!




勤労って、素晴らしい。決められた労働時間、週休二日、時間外手当に特別報酬。給金も良い。三食、おやつ付き。住み込み、個室つき。日当たり良好!


女学校へ行く、それが私の夢。無駄遣いせず、貯金。勉学に励み、休日は読書三昧。月に一度、甘味処へ。ちょっとした贅沢。


心身ともに健康で、文化的な生活。物理的、精神的な衝撃とは無縁。とても充実した日々。あっと言う間に三年経った。



「桜、帰ってきなさい。」


「どちら様でしょうか。」


誰が戻るか、あんな家。真っ平御免だ。


「みんな、あなたの帰りを待っているわ。」


「お人違いでは。」


散散、貶したくせに。何を今さら。



家出娘、連れ戻される。しかも、強引に。不条理だ。私が何をした。十八だ。大人だ。





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