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そんなこんなで世は事も無し、めでたしめでたしで締めくくろう

 悪逆非道ではないにしても、傍若無人。

 それが財閥の主である男のしてきた事だった。

 確かにやり方は強引であっただろう。

 無理を通した事もある。

 道理というか常識を押しのけた事もある。

 しかし、それで悪い結果が出たというわけではなかった。

 結果だけ見れば、それで上手くいった。

 それは単に財閥の巨大化というだけではない。



 確かに財閥という中での軋轢や衝突はある。

 しかし、それでも一つの傘下に入る事で企業間での無駄な争いもなくなった。

 財閥内にある企業は、何はなくとも一つになって事業にあたっている。

 相互協力も取り付けやすくなっている。

 以前に比べれば争いは減ってると言えるだろう。

 安定や安泰という状態に近い。

 それをもたらしたのは、強引な拡大拡張と吸収合併である。

 それらを為した、主の意思である。



「下手に問題を小さくしようとしてたら、こんな風にはならなかっただろう。

 面倒を押さえ込もうとして面倒を増やしていたかもしれん。

 そうなってないのは、したい事をやってきたからだ。

「私からは、好んで問題を起こしてるようにしか見えませんでしたが」

「そうとも言うだろうな」

「…………」

 絶句するメイド。

「何かをしようというよりは、

『こうなりゃ自棄だ。

 死なばもろとも』

って気持ちだった」

「最悪です、それは最悪です」

「だが、今こうしている。

 どのみち、あの時何もしなければ、俺はとっくに路頭に迷っていただろうよ」

 そこまで追い込まれていたわけではなかった。

 しかし、やけくそになって好き勝手していなかったら、今は無い。

 それもまごう事なき事実である。

「だから、この方法が一番なんだろうさ」

 自分の考えに確信を抱く主の声に迷いやブレはない。

 それは危険だとも思うが、しかしメイドもまたその言葉になにかしらの真実を感じていく。

 しなければならない事を避けるわけにはいかない。

 主の言ってることはそういう事ではないのだろうとは思う。

 だが、そういった要素をいくらかでも含んでるように思えた。



「というわけでだ」

 真面目な話を切り上げ、主はメイドに向く。

「余計な事を考えず、波風を大きく立てるつもりでいこうと思う」

「やめてください」

「今まで大丈夫だったんだ。

 今度も上手くいく」

「自重してください」

「なんなら強引な手段をとる事もやぶさかではない」

「これ以上はやめましょう、もう既に何度もやってるんですから」

「だいたいにして、我慢する必要性がまったくない」

「あなたには己を律する心が必要です」

「俺はお前をものにする。

 既にしてるようなものだが、名実ともにそうする」

「もっと良いものがこの世にはありますから、そちらをおすすめします」

「というわけで、お前との婚姻をだな……」

「断固としてお断りします!」



 それでも財閥の主は話を強引におし進めていく。

 もともとの力関係では上位だった会社の元令嬢を。

 それを手に入れる為に奮闘した彼は、目的をようやく目の前にまでとらえられるようになったのだ。

 この機会を逃すつもりはない。

 かつては家柄やら会社の規模や格などでそんな可能性は無かった。

 だが、今は自分が上に立っている。

 この立場を利用しない手は無い。

 今は今で、立場が下になったメイドを迎え入れる事に反対する者もいる。

 だが、自分の意思で全てを進める事が出来る立場だ。

 そんなものに遮られるいわれはない。

「必ずやってやる」

 様々な波風を立てるながら事を為してきたのだ。

 今更それがまた発生しようと、気にするほどの事ではなかった。

 むしろそれは、その先に必ず安泰がある事を示す道しるべにしか思えない。

「だから、あえてやろう」

「今度ばかりはやめましょう」

 そんなやりとりを繰り返しながら。



 その後。

 結局、メイドが主の申し出を受け入れる事はなかった。

 両者は名目上は独身を貫く事になる。

 しかし、公私にわたって同じ空間で暮らす二人は、実質的に夫婦のようなものだった。

 その事実上の正妻がいるおかげで、余計な政略結婚から逃れる事が出来たのは、主と財閥にとっては大きな利益になっただろう。

 また、立場上表に出られないメイドであるが、それ故に不毛な家同士の争いに巻き込まれる事もなかった。

 それ故の面倒も発生したが、損失よりも利得の方が大きい。

 ここだけ見ても二人の関係は成功だったと言えるだろう。



 社会的・企業的な部分を抜きにした個人的な部分においても、

「なあ、いいだろ」

「知りません」

といったやりとりが繰り返されつつも、概ね関係は良好であった。

 戸籍上は他人のままであったが、二人の間に何人も子供も生まれたし、それらを主は当然ながら我が子として名実ともに認めていた。

 加えて言うなら、両者ともに他に誰かと関係を持つこともなかった。

 なんだかんだで良好な関係を作ったのではなかろうか。

 それを証明するように、

「あの万年バカップルの間柄をどうやって疑えと?」

と子供達からの証言もあがっている。

 そして両親が正式に結婚してるわけでないと聞いても、

「そんなの法律でだけの話だろ」

と一蹴している。

 子供にとって両親は、どこに出しても恥ずかしい円満夫婦であったようだ。



 そんなこんなで、結婚を徹底的に拒否して名をとったメイドと。

 そんなメイドをなんだかんだで手中にして実をとった主の。

 二人の関係はそれほど悪いものではないはずである。

 そんな人生を振り返り、主は尋ねる。

「本当はこういう関係を狙ってたのか?」

「さあ、知りません」

 メイドは相変わらずな答えを返してくる。

 それに主は、

「そうか」

とだけ応えた。

 二人ともどこか満足そうな顔をしながら。



「まあ、来世では必ずものにしてやる」

「来世はもう少しおとなしくしててください」

なお、


主の声:関智一

メイドの声:川澄綾子


でお願いします。



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