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もちろん二人はそんな関係です、みなまで聞いてはいけない

「おかげで路頭に迷う事はありませんでしたが」

「ならばいいではないか。

 ついでに俺の……」

「それは諦めてください」

「断固として拒否する」

 言いかけた言葉を遮るメイドの声。

 それを更に主は否定する。

「社内の面倒を解決する良い手段ではないか」

「余計な面倒が更に増えるだけです」

「そうであっても、俺に損は無い」

「私は面倒をもっと抱えそうなんですが」

「今の状態の方がよっぽど問題だろう」

 肩をすくめる主。

「体だけの関係なんだから……」

「──余計な事は言わないでください!」

 突発的な怒鳴り声。

 それまでの冷静なそぶりからは想像できないような大声だった。

 それを主は笑みを浮かべて見つめる。



「いいじゃないか、今更なんだし」

「今更なのが問題なんです!」

「だったらなおさら一緒になって……」

「余計に悪化してます!」

「悪化とは酷い。

 世間一般ではめでたい出来事に分類されるんだぞ」

「私とあなたとでは最悪の選択でしかありません」

「それは社内問題的にか?」

「その通りです」

「では、俺個人との関係との事ではないのだな?」

「……何を言ってるのかさっぱりわかりません」

 とはいうが、それが回答をはぐらかすおとぼけであるのを主はしっかりと理解していた。



「なんにしても今更だろ。

 こんな関係になりはしたが、だからといってそれを気にする必要もない」

「そうはいいますが……」

「お前が嫌だというなら強要はできんが、そうでないならなんの問題もない」

「しかし……」

「まあ、社内の問題は確かにある。

 それが余計に大きくなる可能性もあるだろう」

 それは主も危惧してる事だった。



 財閥が財閥として巨大化する途中、様々な競合企業との対立があった。

 それらに勝利し、相手を倒産に追い込む事で財閥は巨大化した。

 そして、倒産しそうになった相手を吸収してより大きくなってきた。

 その為、財閥は複数の企業を抱える巨大複合体となっている。

 単純な規模としてはかなりのものだろう。

 だが、その内実は決して良いものではない。



 穏便とは言いがたい形で行われた吸収合併である。

 同じ企業となったとしても、出身企業の違いによる摩擦や衝突はある。

 それらは時に財閥の動きを阻害するほど大きなものになる。

 そんな問題を財閥は大量に抱えている。

 元社長令嬢のメイドもその一つである。



 もし彼女と結婚となれば、それはそれで大きな波紋を起こすことになるだろう。

 悪いものばかりではないだろうが、良いことだけという事もありえない。

 結果がどうなるかは予想がつかない。

 それを吸収合併の最終形態として、元の会社を完全に財閥の中に吸収して消滅させる高位ととらえる者も出てくるかもしれない。

 その逆に、両者の結びつきにより対等の関係に、そして何らかの形で吸収された企業の存続のしるしととらえる者もいるかもしれない。

 その他様々な考えや憶測が出てくるだろう。

 実態がどうであるかを考える事もなく。

 それが更に余計な騒動の理由となって財閥を揺るがす可能性もある。

 メイドである元社長令嬢はそれを危惧していた。

 そして、そんな事も織り込んでなお主はメイドを求めていた。



「どうしたって問題なんて起こるんだ。

 それを最小限に押さえ込もうったって無理がある」

「ですが、起こさずに済む問題をわざわざ起こす必要もないでしょう」

「どうしたって起こるんだから、そんな考えが間違ってる。

 何をしたって穏便な結果なんて出てこないんだから、やりたいようにやった方がいい」

「だからって波風立てなくても」

「何をしたって立つもんだ。

 だから、起こることを気にしても仕方ない」

 二人の話は平行線である。

 ただ、この話あえて言うならば主の方が正しいだろう。

 余計な問題を起こさないように気をつけても、どうしたって起こってしまう。

 ならば、望む事を望むようにした方がまだましであろう。

 望まぬ事をして波風立てるより、好き勝手やって面倒が出てくる方がまだ納得もいく。

 財閥の主は少なくともそうしてきた。

 だからこそ、財閥を財閥と言える程巨大化出来た。

 もし何かを気にしてたら、こんな事は出来なかっただろう。



「だいたいだ。

 そうやって何かを気にしていて本当に安定などあるのか?

 望みを捨てても何も得られず、それで問題を抱える事になる。

 そんな事になるなら、好き勝手やって欲しいものを手にいれた方がよっぽど良い」

 それは財閥の主の人生そのものだった。


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