オラリア王国
砲。伝説上の英雄。
誤解をようやく解いた僕は、その存在を教えてもらった。
「いやー悪かった!『シガラキエータ』な!エータ!」
「いや、気にしないで大丈夫ですから」
「気にするべきですわ瑛太様。村民総出で揉みくちゃにされた挙句、あろうことか最高峰の魔術デバイスであるこの私の……あ、機関部や発光部を触るなんて…!」
トゥリーがいつになく感情的だ。というかこんなキャラだったか?
「それより…あの、聞きたいことが…」
「聞きたいこと?」
「はい、気付いたら一人でこの土地にいたので…ここが何処かとか…お、教えていただけたらなと」
それから、トリクスを中心に、色々なことを教えてもらった。第一に、ここは『オラリア王国』と呼ばれる国らしい。
部族のような暮らしでありながら、国王がいるらしく、村それぞれに米などの食糧を分け与えてくれているらしい。
「トゥリー、オラリア王国について何か知ってることはある?」
「いえ、わかりません。私の地理データは古いものでして」
他にも、僕が元いた国についての質問もいくつかしたが、誰もわからないと答えた。
この先どうするか、というのは何も考えていなかったが、帰る場所もないとなると、やはりこの国に住まわせてもらって生きていく方がいいのかもしれない。
「今度はこっちから質問してもいいか?」
「あっ、はい」
「俺達の王様は、有胎盤人なんだ。もちろん悪い奴じゃない」
胎盤を持たない有袋類に対し、僕らのような哺乳類の人間を有胎盤人と呼んでいるらしい。
「だが…魔術に関することは何も教えてくれないんだ。俺は王みたいなかっこいい魔術師になりたい!」
トリクスはグッと力強く拳を握った。
「聞いた話によると、有胎盤人は皆魔術を使えるらしい。なあ、俺に教えてくれないか、魔術を…!」
「私も!」「僕も!」
いっせいに湧き上がる村民たち。
「すみません、確かに魔術は使えるんですが…」
「ですが?」
僕は細々と声を上げる。言葉が出てこない。
すると、トリクスがハンドジェスチャーで村民を黙らせてくれた。
「…自分でもどうやって使っているのかはわからなくてあの、えっと、むしろ僕が教えてほしいというか…あ、いや、すみません…」
魔術について知っていることは、フォトンという謎の物質を使うこと、デバイスを介する必要があること、あとは…魔術ごとに、よくわからないランクが設定されていることぐらいだった。
「……知らないなら無理に言おうとしなくていい。変なこと聞いて悪かったな。」
トリクスの言葉に救われる。だが、僕の発言に、皆が落胆しているのも事実だ。
すると、突然誰かが話に割って入ってきた。
「面白そうな話してるじゃないか。そうだな、知らないならアタシが語ってあげようか?」
「お、王!?」
「えっ、ええっ!?」
王、と慕われたその女性は、短い銀髪で、端正な顔立ちをした有胎盤人だった。
…と、言えば聞こえはいいが、その格好は明らかに渋谷で待ち合わせしてる女子高生のそれだった。
この人、王の威厳とファッションリーダー的カリスマを混同してるんじゃないか…?
いや、見た目で人は判断できない。もしかしたらこの部族では正装として扱われてるのかも……
「やあやあ始めまして紫香楽瑛太君。何を隠そう、アタシがオラリア国王、オラリア・ドミトリーだよ。親しみを込めてドミちゃんと呼んでくれてもいいよ」
僕の予想も虚しく、彼女は、自分のことをいきなりあだ名で呼ぶことを推奨してきた。
ここまで読んでいただきありがとうございます。
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有袋人類②
有袋類最大の特徴であるお腹の袋。これが隠れないような服を着ている。
ドミちゃんが最も得意とする魔術『星波裁断』は、様々な素材から糸を作り、有袋人類の洋服作りに役立てている。
(ちなみに、お腹に袋を持ってるわけでもないドミちゃんもヘソが出てる服を着ている。)