マースピアン
三日間草原を歩き、ようやく村にたどり着いた。
果ての見えない水面に、マングローブ林が点々と島を作り、そのテントのような支柱根がそのまま家となり集落を形作っている。
いくつもの船がその間を往来し、その上で人影が釣りをしていた。
偶然にも、川沿いを下ってきたおかげでここにたどり着けたらしい。
しかし、ここまできてちょっと怖くなってきた。
元より人と話すのは苦手だが、よく考えると言葉が通じるかもわからないのだ。
なんか変なこと言って襲われたり、村を追われたりしたらどうしよう…と。
「というか、トゥリーは水に浸かっても大丈夫なのですか?」
「問題ありませんわ。私の体はコーティング処理がなされておりますので」
トゥリーと駄弁りながら、僕は沿岸を回りつつ、水面に浮かぶ村の様子を見ていた。
しかしいよいよ、沿岸に存在する村を見つけると、彼らはこちらの意思などお構いなしにやってきたのだった。
彼らの風貌はというと、顔の大きさが人間より一回り大きく、代わりに頭身が低い。
僕と身長的には差がないのに、あからさまに見た目が『幼い』のだ。
しかしまあ、特筆すべきは尻尾が生え、お腹には袋のようなものがついていることだろう。
下半身も心なしかガッチリしていて、平原で見たカンガルーのようだった。
「なになになに!?誰このにーちゃん!!」
「かっこいい腕!これどうなってるの!?取っていい!?」
どうやら精神面も、見た目と同じく幼いようで、彼らはまるで小学生のように僕に群がってくる。
「おやめくださいませ。私と瑛太様は完全に接続され、引き剥がすことはできませんわ」
「なんかしゃべったー!!!!」
「ちょっ…! ひ、引っ張らないで…ください…ませ…」
トゥリーが珍しく焦ってる。面白いな。というか焦るんだなトゥリーも。
「おいお前ら、やめろ!失礼だろうが!」
すると、奥から誰かがやってきて止めに入った。
「あ、村長!」
「ごめんなさい村長!」
彼の一言で、僕に群がっていた子供たちは散っていった。村長と呼ばれていたが、頭身は僕と同じくらいの中坊だ。
しかし近づくと、大人ぐらいの身長がある。これまで数多の巨大生物を見てきたので驚くほどではないが。
「悪ぃ、ウチの村の奴らが迷惑かけた。俺がこの村の村長、トリクスだ。お前は…見たところマースピアンじゃないようだが…」
「マースピアン?」
「瑛太様、彼らの特徴を見てわかる通り、彼らは有袋類から進化して人型になったようですわ。マースピアンは有袋類を表すMarsupialiaから来ていると思われますわ」
なるほど。有袋人類か。
納得したは良いが、トリクスの目つきが怖い。三白眼の僕が言えたことじゃないが。
「有袋人類じゃない人間は、ここでは王様だけだ。オラリア王の知り合いじゃないのか?」
「オラリア王…? いや…よくわからないんですけど、気づいたら向こうの山で目が覚めたんです」
「向こうの山……って、お前、あの距離を歩いてきたのか!?」
「ま、まあ…」
トリクスは少し悩んだ後、口を開いた。
「本当は有胎盤人は王様の許可なしでは村に入れられないんだが…大変だったろう。それに、ウチの村の奴が迷惑かけちまったみたいだしな」
そう言うと、怖かった顔つきから一転し、トリクスは笑って僕を歓迎してくれた。
「明日には王様がこっちの方まで来る。その時に許可を貰えばいい。それで、お前、名前はなんて言うんだ?」
「えっと、紫香楽瑛太です。この喋る義手はソーラクトゥリー」
僕が自己紹介をすると、トリクスの顔は今度は驚愕の顔に変わっていった。
「砲…!?」
ここまで読んでくれてありがとうございます。
よければブクマと評価していってね。
有袋人類①
哺乳綱 有袋猿目 有袋猿科 有袋猿属 マースピアン
有袋類から進化した『収斂人』。胎盤を持たないため脳容積が小さく、成人でも中学生ぐらいの頭身・知能。
※この作品に登場する動物は、一部を除き創作されたものです。現実を元に創られていますが現実には存在しません。