生きるための戦い
僕は、人間というものが嫌いだった。
感情という不合理なものに支配されて、何の益にもならないことばかりする。
それが人間の賢さだというのなら、僕は人類を馬鹿だと軽蔑する。
余計なことなど考えずに生きる動物の方がよっぽど堅実だ、と。
だから僕は、この義手を恐れた。
自分が『愚かな人間』の輪の中に入れられてしまうのが怖かった。
僕はこの力を、生きるためだけに使おうと決意した。僕が殺した一匹の命は、ただ生きるために僕らを襲ったに過ぎないのだから。
「……これが現在使用可能な魔術一覧ですわ」
義手からウィンドウのようなものが浮かび上がる。こんな機能もあるのか。
僕は感覚的に、指で操作するものかと思ったが、触れるよりも先に画面は僕の意思に従って動く。
「さっき使った震光灼ってのは…これか」
すぐ下には『ランクS』と書かれている。ざっと見たところ、Sより上のランクはないらしい。
僕は『ランクE』『ランクD』と書かれたものに絞って、魔術表を読み込んだ。
「トゥリー、魔術の名前は覚えなくても、さっきみたいに頭に浮かんでくるんですか?」
「どのような魔術を使いたいか申していただければ、私が類似の検索結果を提示いたしますわ」
「わかりました、じゃあなんとなくの効果だけ覚えておけばいいですかね」
魔術一覧に書かれた魔術は数千にも及んだが、E、Dクラスのものは数えるほどしかなく、読むのに時間もかからなかった。
僕が読み終えるとウィンドウは勝手に閉じた。
立ち上がり、ウォンバットの巣穴から出る。
ウォンバットはこの先に行くつもりはないようなので、ここでお別れだ。
一度は絶望すら感じた大草原。だが、今はあまり怖くない。
「燃魂響」
僕がそう唱えると、僕の周囲に火の玉が出現した。心霊現象を演出して他人を驚かせる、いわばドッキリに使われる魔術だそうだ。
生産性のない、人間らしい術だが、僕にとっては重宝するだろう。
「この火の玉、もっと出せますか?」
「了解ですわ。思考を元に出力を調整」
火の玉が増え、さらに僕の足元付近を囲うように整列する。考えてた通りの形だ。
あとは食べきれなかった鳥肉を担いで、これで準備万端。
「……行きますか」
流れる川に沿って、だだっ広い平原を歩いていく。
迷わないように、水に困らないように、というのもあるのだが、やはり平原なので、さっきの山みたいに景色が変わりにくい。
なので、少しでも進んだことを実感できるように、流れる川の景色を見ながら進むことにした。
降りてみると、草の背が思っていたより高くて、見晴らしもやや悪かったが、ウサギ、カンガルーなどがいたのは確認できた。
近づいたら例のごとく巨大なのだろうが、向こうから襲ってくることもなさそうなので、刺激はしないように遠くから見るようにした。
危険らしい危険、といえば……
「瑛太様、また鳥が獲物を探していますわ。ご注意くださいませ」
「みたいですね。それも今度は群れのようです」
空をぐるぐる回りながら、獲物を探す怪鳥。
草の背が高いので、しばらくは見つからなかったが、数分も歩けばさすがに見つかった。
鳥たちは照らし合わせたかのように僕めがけて連続で突撃してきた、少なくともそのつもりなのだろう。
しかし、五匹の攻撃どれもが僕の4mほど横に逸れていく。
それもそのはず、周囲の火の玉によって僕は陽炎に包まれている。
加えて火が生み出す上昇気流が飛行の妨げとなり、僕への攻撃は一切届かない。
「上手くいったみたいですね」
陽炎程度で誤魔化せるかどうかは少し不安だったが、流石は魔術といったところだろうか。物理法則では測れないものがある。
しばらくすると鳥たちは諦めて別の獲物を探しに行った。
それから三日。
高すぎる気温、想像よりもすぐ痛む食糧、見つからない寝床代わりの巣穴……と、何度も困難に見舞われ、何度も心が折れそうになった。
だけど、だけどだ。僕は歩き続けて三日、ようやく見つけることができた。
「……村だ、やった、やった…!」
僕は喜びを噛みしめて、それから大きく叫んだ。
ここまで読んでいただきありがとうございます。
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オラリアオオイヌワシ
鳥綱 タカ目 タカ科 イヌワシ属 オオイヌワシ亜種
前回から登場している、巨大なオナガイヌワシ。キングウォンバットの天敵。
※この作品に登場する動物は、一部を除き創作されたものです。現実を元に創られていますが現実には存在しません。