第四話 暖かな愛
ポエムな才能が欲しいところです……。
いくら貴族の子といえど、8歳ではまだまだ幼く無知だ。
現に今日の反応を見れば明らかで、正しい判断などできはしない。
瞬く間にシルフィアが魔法が使えないことは、貴族はおろか領民の耳にまで入るようになるだろうことは予想がついた。
夕食後の席、のんびり家族と過ごす大切な団欒の時間。
言うならばここだと静かに決意を固めたシルフィアは、声のトーンが沈んでしまわないよう気をつけながら、小さく深呼吸を繰り返し目の前で雑談を交わす両親に声をかけた。
「……お父様、お母様。お話がございます」
思ったよりも強張った声が出て、失敗したと思いながらも言葉は止めないようにと心がける。
止めてしまえば、きっと何でもないと誤魔化してしまうとそう思ってのことなのに、中々次の言葉を紡げない。
俯いてしまった頭をどうにか上げようと自身に喝を入れる。
(……今の私は公爵令嬢、でしょう。しっかりしなさい)
小さな深呼吸の後で顔を上げると、交わった両親のシルフィアを見つめる視線の優しさに、強張っていた心が少し解れるのが分かった。
おそらく今日、何かあったのだと従者から報告を受けているだろう。
それでもシルフィアが自らの言葉で話すのを待っていてくれていたのだ。
そう理解した途端、先ほどまで詰まっていた言葉がまるで嘘のように口から溢れ
「お父様、お母様。私、魔法はおろか、使い魔の召喚もできませんでした。……公爵家の名に泥を塗るような結果となってしまい、申し訳ございません」
謝罪と同時に深く深く頭を下げると、言い切った安堵からか途端にほろりと涙がこぼれた。
(どうしましょう。……泣くつもりなんてなかったのに、こんなの)
焦る心とは裏腹に一度溢れてしまった涙は次々に溢れて止まらず、嗚咽を含んだ声まで漏れてしまう。
しかし次の瞬間、ふわりと花の香りが舞い力強くぎゅっと抱きしめられた。
「……よく話してくれたわね。ありがとう、シルフィア。頑張ったわね」
顔をおずおずと上げれば、瞳に涙を溜めた母、フィリアローズが美しく微笑み、シルフィアの瞳に未だ溜まる涙を優しく拭ってくれる。
そんなフィリアローズの肩に手を置きながら、シルフィアの頭を少し乱暴に撫でた父、シェルビートは
「あぁ、よく頑張ったよ。……今日は思いきり泣くといい。その後で、また明日から頑張りなさい」
最後に当主の顔でシルフィアをすくい上げた。
(……あぁ、私。今もこんなに恵まれているのね)
シルフィアはたまらず、ぎゅっと回しきれない腕と手で力を込めるように、自ら両親に抱きつく。
止まりかけていた涙が、再度滝のように溢れて止まらない。
シェルビートに同意したフィリアローズの言葉に甘え、シルフィアは涙が涸れるまで泣き続けた。
しかし、そこは流石に8歳の身体というべきか。その日、泣くだけ泣ききり、体力を使い切ったらしいシルフィアはいつの間にか深い眠りについていた。
――それは生まれ変わってこの世界に生を受けてから、【シルフィア・ベクトリア】としての初めての行動だった。