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第三話 魔法試験と使い魔召喚

 魔法が主体の世界だということは、勉学に励んでいれば自ずと知ることだった。

だからこそ、前世では夢であったものが現実に、自分で出来るのだと楽しみにしていたのだ。

「……どうして」

小さく呟いて、思わずぎゅっと握り拳をつくる。

夢にも、思わなかったのだ。

高い魔力を持っているといわれていたシルフィアの淡い期待が、一瞬にして打ち砕かれることになろうとは。

珍しく浮かれていたシルフィアの番が、まさか最悪の展開を招こくことになろうなど、誰が予想できようか。

握り拳に力を込めようと、どうしたって何も変わらない。

今まで色とりどりに輝いていた属性を判定するオーブが、一切の反応を示さないのだから。

「原因を調べてまいります。……皆様、少々お待ち下さい」

そういって出て行く試験官の姿を見送りながら、ふいに周りがゆっくりと動く感覚に、思わず心で苦笑するしかなかった。

向けられていた視線が、妬みから段々と嘲笑うような視線に変わっていくのをイヤでもわかる。


 試験官の気配が完全に遠のくと、誰かの口からぽつりと‘落ちこぼれ’と無慈悲な言葉がこぼれた。

それを皮切りにシルフィアを馬鹿にする空気が広がり、次々に心ない言葉が飛び交っていく。

クスクスと声を立てて嘲笑うもの、堂々と悪意ある言葉をぶつけてくるもの。

(……あぁ。表情を作れるようになっていてよかった)

これ以上の失態をオモテへ出さなくてすむと、傷ついた心は見ないフリで酷く安堵した。

祖父が父が守ってきた大事な公爵家の顔に、たった今ただでさえ塗ってしまった泥をこれ以上重ねるわけにはいかない。

前世も今も、周りが盛り上がるためのターゲットは一瞬にして決まってしまうものなのだ。

シルフィアがこれからいくら言い訳をしようともこれだけ多くの目撃者がいて、魔法を使う場面で使えなければどうしようもないだろう。

ふと、リタとダリアと視線が混ざり、その顔と視線をみれば、この会場内で二人だけは心配してくれていることは分かった。

しかし今欲に負けて動いてしまえば、シルフィアだけに向いていた批難と悪意が彼女達にまで向きかねないことは容易に想像できる。

シルフィアは冷静な表情のまま、二人からスッと視線を外し背を向けることでかけ出していきたい衝動を抑え込んだのだった。



 結局、オーブには何の異常も見受けられず、ハッキリしたことと言えば原因が【私】であるということだけ。

前世の記憶を持つ故なのかとも思ったが、

「コントロールは本当に完璧なんですけどね」

そう言われてしまえばますます分からなくなってしまう。

使い魔召喚は出来るかもしれませんからと意気込む試験官に、シルフィアはもう曖昧に微笑むしかなかった。




 先ほどまでとは違い、どうなるか分からないシルフィアが初めに使い魔召喚の儀を執り行うことになった。

シルフィアの周りを包む会場の雰囲気が、それらを彩る人々の視線の数々が、絡みついて気持ち悪い。召喚のための呪文を魔方陣に届く程度の声で詠唱する。

(……どんな子でも大切にするから。お願い。どうか、どうか応えて)

祈るよう閉じていた瞳を開けると、魔方陣が淡く光を放つ。

ここで気を抜いてしまわぬように、同じだけの力を込め続けた。一層魔方陣が輝きを増したと思った次の瞬間。

光ははじけ飛び、元の色のない魔方陣に戻ってしまった。

もう一度だけやってみてはという試験官の一言でもう一度同じように挑戦してみたが、今度は淡く光ることはおろか一切の反応を示さない。

困ったように微笑んでいる所を見るに、これにはもう試験官も言い様がないのだろう。

ハッキリとしたのは、コントロールの才能があっても、使用する才能は一切ないということだろうか。

「……申し訳ございません、気を遣って頂いたのに」

次の受験者と入れ替わるために試験官の横を通りながら、シルフィアはそう謝罪することが精一杯だった。




 試験が終わった人から解散という仕組み(システム)だったため、リタやダリアの侍女に伝言を残し自分を待つ馬車へ向かう。

一刻も早く立ち去りたい心奥の本音が、歩く速さをいつもよりも上げているようだ。

時折聞こえてくる子供のはしゃいだ声に、成功しているのだなと俯きたくなるのをすんでの所で堪えて。予定よりも早く戻ってきたシルフィアの

「屋敷までゆっくり戻って貰えるかしら」

有無を言わせない少し強い言い方に、何かしらを感じ取ったのであろう。

少し驚いた顔のままシルフィアを馬車に乗せると、静かに扉を閉めゆっくりと走り出した。


試験会場を視界に入れないように、瞳を閉じてふちに寄りかかると誰も見ていないのをいいことに小さく溜息を落とす。

何の問題もなく無事に試験を終えるだろう二人と今日共にお茶をするのは、確実に気を遣わせてしまうだろうことは短くない付き合いで分かっているからこそ断ってきてしまった。

いやそんなことはただの言い訳で、自身が惨めな想いを抱えることを無意識に避けただけなのかもしれない。

チクリと胸を刺す鈍い痛みは、見ないフリで更に奥に奥に追いやって蓋をして。

御者の気遣いで開いている窓の隙間から入り込んだ暖かい風が、シルフィアを慰めるようにふわりと頬を撫で吹く。

(……お父様とお母様になんて謝ればいいのかしら)

お願いした通りにゆっくり進む馬車が、家に着くまでにはまだたくさん時間がある。

蓋をした痛みを忘れるために次なる問題に頭を切り換えたものの、こちらの方が難しいことかもしれないと、今度は深い溜息を一つ落とすのだった。

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