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幸運

ふつうに考えて、見知らぬ土地でなにか職に就くというのは困難なことだろう。

ましてや、そこが自分の知るものと異なる世界────異世界なのだとしたら。


そんな中で、叡嗣が冒険者というものになろうと思ったのには理由があった。

冒険者、叡嗣の予想が正しければ、彼らは依頼を受けそれを達成することで金銭を得るのだろう。

なにも知らないこの世界で、例えば商人なんかができるとは思わない。

しかし、冒険者ならば。自分の持つスキルが本当なのであれば、生きるだけの金銭を稼ぐことはできるのではないか。そう思った。


だが、叡嗣は詳しいことはなにもしらない。

厚かましいが、ここは先程の男性に聞いてみよう、そう思う。

この村で教師をやっているあの男性ならば、教えてくれるかもしれない。そんなことを考え、叡嗣は立ち上がった。








「冒険者になる方法、ですか?」

「はい。教えてもらえませんか?」

「かまいませんが……」


チラリと、子供たちに群がられている冒険者達を、正確には子供たちを見る。


「子供たちには話さないでくださいね?それが条件です」

「わかりました」


何故?というのは訊かない。

子供たちに話すなと言われたのは疑問だが、初対面の自分に親切にしてくれている相手に対しそんなことを言うのは失礼だ。


「まず、エイジ君。君は冒険者がどういう存在かご存知ですか?」

「いえ、詳しくは」

「そうでしょうね。なら、冒険者についての説明からはじめましょう。冒険者というのは、冒険者ギルドという組織に属しているおり、ギルドから斡旋される依頼をこなす人達を指します。冒険者と言っても、もちろん冒険────というより探索ですが、それだけをするわけではありません。この時代では主にモンスターの討伐や護衛、採取といったものの依頼が多いそうです。彼らもこの村には商人のアガットさんの護衛で来ています」


男性────ギークは子供たちに囲まれている冒険者を指して言う。


「冒険者ギルドでの細かい規則や区分については詳しくないですが、冒険者というのはクラスによって分けられるそうです。そこら辺は、冒険者ギルドに聞いてもらったほうがわかりやすいでしょう。

それで……冒険者になる方法でしたね。冒険者になること自体は簡単です。ギルドに行き、登録料である銀貨一枚を払い、登録する。どういう理論かはわかりませんが、重複して複数のギルドで登録することはできないそうです」

「登録料を払い、登録する」

「そうです」


反芻する叡嗣に対して頷き、しかし、とギークは続ける。


「登録は簡単であってもそこからが大変だそうです。

冒険者は基本的に危険な場所で仕事をします。どれだけ気をつけていても死と隣り合わせの状態が常です。そのため、命を落とす人が多いのも現実として受け止めなければなりません」

「そうなんですか……」

「はい。エイジくん、ここまで聞いて君は冒険者になろうと思いますか?」


ギークは叡嗣を見詰める。

「男に見詰められる趣味は無い」という冗談を言えるような雰囲気ではない。なんとも真剣な雰囲気だ。


「まあ、他にできることもなさそうですし」


叡嗣はそう口にする。


「エイジくん。君とは初めて会ってからまだ1時間も経ってはいませんが、それでもこうして話すことができている縁に感謝をしています」


「私達はまだそれほど親しいわけではないですが、私は君を応援させてもらいます」

「ありがとうございます」


叡嗣は頭を下げる。


「頭をあげてください。それで、聞きたいのですが君は、こういってはなんですが、常識を知らない……のではないでしょうか?」


図星である。


「それを責めるつもりも追求するつもりもさらさらありませんが、常識というものは知っていたほうがいいと思います」

「そう思います」

「エイジくんさえ良ければ、私が教えますが?」

「お願いします」

「わかりました。では、なにから教えましょうか……?身分からでしょうか」


この国において身分は大きく分けて3つあるとギークは前置きした。

特権階級であり国王から任命され土地を治めたりする〈王侯貴族〉

貴族や王族の治める領地の街や村に住み、生産などを担う〈平民〉

犯罪者や身売りした者であり、意識のある物として扱われる〈奴隷〉


「これに例外として聖職者を含めたものがこの国での身分ですが、聖職者に関しては各教会の下に置かれるので今回は無視をします」


基本的に貴族には逆らってはいけない。それを覚えておけばいいとギークは語った。


「貴族というのは絶大な力を持っています。中には、気に入った人間が居れば無理矢理奴隷にしたり連れ去ったりするような者も。しかし、逆らえば重い刑罰を受けてしまうので、多くは泣き寝入りするしかありません」


だから逆らってはいけないのだと。

それを聞き、叡嗣は少し不快になりながらも話を聞き続けた。


次に、通貨。


「通貨は主に共通交易貨幣と呼ばれるものが使われています」


白金貨1枚=金貨12枚

金貨1枚=半金貨9枚

半金貨1枚=銀貨6枚

銀貨1枚=半銀貨4枚

半銀貨1枚=銅貨7枚

銅貨1枚=半銅貨12枚


貨幣の種類は7種。金銀銅貨に、その半分程度の大きさの半貨、そして白金貨。

この世界の街に暮らす一般的な家庭なら1ヶ月に稼ぐのは半金貨1枚ほどらしい。そして、1ヶ月暮らすのに必要なのも大体半金貨1枚〜銀貨5枚程。白金貨に関しては平民は使うことはおろか、見ることさえほとんどないらしい。


「ところでエイジくん。君はお金は持っていますか?」


通貨の話になった流れからか、ギークはそんなことを訊いた。

それに対する叡嗣の答えはもちろん否である。


「いえ、持ってないです」

「なら、今日はウチに泊まっていきませんか?」

「……お言葉に甘えさせてもらいます」


なにもない叡嗣にすれば、ギークの申し出というのはありがたいものだった。

金も無いし、伝手もないのでは叡嗣は野宿をするほかない。それが、こうして屋根の下で寝られることになったのだ。


これは幸運というほかなかった。



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