これが噂の……
そこから一時間程で、叡嗣は見つけた村のような場所にたどり着いた。
見れば見るほど、本当にRPGの村のようであり、叡嗣が辿ってきた馬車の跡もこの村に続いているようだった。
「おいっ、早く!冒険者さんたちに剣を教えてもらうんだろ!」
「待ってよー!」
そんなことを言いながら、小学校中学年くらいの子供達が走っていくのを叡嗣は村の門の辺りで聞いた。
「冒険者……?」
まるでなにかのゲームやラノベなどでしか聞かないような言葉にハテナマークを浮かべながら、叡嗣は村へと足を踏み入れた。
その村のような集落は中央に大きな広場のようなものがあり、それを囲むように家がまばらに建っていた。
しかし、数が多くないためか、それほど乱雑な印象は受けない。
そんな村の中心である広場では、まだ若い20代くらいの男たちと子供が剣を振っていた。
「ウソでしょ、マジか」
叡嗣はその光景を見て、思わず呟いた。ふつう、こんなのありえないでしょと。
同時に、剣を振っているなんて、いつの時代だ……と思うとともに、外国人風の顔立ちをしているし、実はこれ死後の世界とかじゃなくて、やっぱRPG風の夢なんじゃないかと考え始めるには十分だった。
だが、とりあえずここがどこなのかくらいは聞いておこうと近くでその様子を見ていた男性に近付いた。
「こんにちは」
「はい、こんにちは」
「……!?」
「どうかされましたか?」
声を掛け、帰ってきた言葉に叡嗣は困惑の色を浮かべた。
挨拶に挨拶で返ってくるのはいい。ふつうのことだ。
しかし、その言葉……と、いうより言語が叡嗣の知っているものとは大きく異なっていたのだ。
にも関わらず、意味もわかるし、よく考えてみると自分の発した「こんにちは」という言葉も日本語とは異なっていたような気がする。
なんというか、脳では日本語として考えられていても身体では別の言語を発しているような、そんな感じだ。
「い、いえ。あの、ここには初めてきたのですが、ここはどこなのでしょうか?」
内心の動揺を隠すようにしながら、叡嗣は男性に質問をしてみた。
「ここですか?ここは、アヴァール領のコリョウ村ですが」
「アヴァール……領?」
「はい」
男性は不思議そうな表情を見せながらも叡嗣の質問に答えてくれた。だが、その答えは更に叡嗣の疑問を深めてしまったのは言うまでもない。
「えっと、ここはなんという国なのでしょうか?」
「……?シェライン王国ですよ」
「シェライン王国?」
思わず繰り返した叡嗣は、相当混乱していた。
(シェライン王国?アヴァール領?コリョウ村?聞いたことないんだけど……え、なに?俺の夢だとしたらどっから出てきたのその名前?)
「えっと、大丈夫ですか?」
「あ、はい。大丈夫です。少し混乱してるだけです。ところで、あの剣を振っている人達はなんなんでしょう?」
「混乱してるだけって……」
叡嗣の言葉に、男性は少し心配そうな顔を向けるも、丁寧に質問に答えてくれる。
「ええと、あの人達は街から商人さんの護衛で来られた冒険者の方たちです。やさしい方たちで、今は子供たちに剣を教えてくれているんです。まあ、お遊びみたいなものですけど……」
「は、はあ……冒険者」
なんかもう、さらにわかんなくなってきた。
「おー、坊主は筋がいいなぁ。もしかしたら剣術スキルを持ってるかもなぁ」
「ホントに!?やった、なら俺冒険者になるよ!」
そんなことが聞こえてきて、叡嗣はまたも質問する。
「あの、剣術スキルっていうのは……?」
「スキルをご存知ないのですか?」
「恥ずかしながら」
知らないことはないが、叡嗣の知っているゲームのシステムであるようなスキルと同じなのか。叡嗣はそれが気になった。
「スキルというのは、その人の持つ技能などを表すものです。
例えば、剣術を修めていればその練度によってレベルが変わります。また、レベルが上がることでなにかしらの能力……例えば剣術なら《強斬撃》というような技を使えるようになります」
「そういうものなんですか」
まんまゲームのシステムじゃないか、と叡嗣は思う。
同時に、夢ならこんなもんか、とも。
「そうです」
「そのスキルっていうものの確認っていうのは出来るんですか?」
「はい。『オープンウィンドウ』、こんな風に」
ブンっと、目の前に半透明の板のようなものが現れる。
ゲームのユーザー・インターフェース──UIそのものだ。
見る限り、名前や職業、スキル、称号が書いてある。
ここまでゲームみたいなのかと、叡嗣は思うが気になったことを聞いてみる。
「それは、どのように?」
「『開け、我が物』と唱えれば10歳以上ならだれでも出てきますよ。勿論、人に見せないようにも出来ます。というよりそれがふつうなんですがね。仕舞う時は『閉まれ、我が物』と唱えれば消えてしまいます。これもご存じなかったですか?」
「ええ、まあ」
試しにやってみよう。
そう思い、叡嗣も男性にならい、唱えてみる。
たしか、文言は…………
「『開け、我が物』」
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エイジ(天宮叡嗣) 17歳 人族 男性
Lv.1 魔力総量:36800/36800
《技能スキル》
【剣術Lv.Ⅴ】【体術Lv.Ⅳ】【水泳Lv.Ⅲ】【歌唱Lv.Ⅲ】【弓術Lv.Ⅱ】【研磨Lv.Ⅱ】【騎乗Lv.Ⅰ】【五感強化Lv.Ⅰ】【身体強化Lv.Ⅰ】【鷹の目Lv.Ⅰ】
《耐性スキル》
【苦痛耐性Lv.Ⅱ】【恐怖耐性Lv.Ⅱ】【火炎耐性Lv.Ⅰ】【溶解耐性Lv.Ⅰ】【不撓不屈Lv.Ⅰ】
《魔法スキル》
【収納Lv.Ⅰ(未実行)】
《固有スキル》
【幸運と不運Lv.‐】【深遠なる才能Lv.‐】【悠久の成長Lv.−】【進化Lv.Ⅲ】
《特殊スキル》
【異世界言語習得】【魔の叡者】【武の猛者】【天賦の才】【鬼才】【魔術の逸材】【魔術の至宝】【武の逸材】【武の至宝】【魔術適性】
《称号》
〔不運な男〕〔幸運な男〕〔才限無き者〕〔オールラウンダー〕〔異世界人〕
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「へぇ……しっかり出るんだっ!?」
夢なのにすごいなと関心しながら、上から順に読んでいき、最後の称号を確認し、思わずそんな声が出た。
「!?……どうかしました?」
「あ、いえなんでもないです」
顎が外れんばかりの驚愕の表情を見せた叡嗣に男性はビクッと少し驚いた様子を見せ、次いで怪訝そうな表情を見せた。
「あの、魔法っていうのは……」
「ああ、魔法スキル関係を持ってたんですね。それはおめでとうございます」
「ありがとうございます……?というべきでしょうか?」
「ええ、十分に。あまりお喜びになっていないようですね」
「はい、あまりよくわかっていないもので」
「よろしければ説明しましょうか?」
「すいません、お願いします」
「いえいえ。まず、魔法というのは魔力というものを使ってあらゆる現象を起こす技術、技能を指します。そして、その魔法には種類というものが存在し、人によって得手不得手があります。俗に、適性なんて言いますね」
その後もスラスラと男性の口から魔法に関しての説明が出て来た。
男性から聞いたことを纏めてみると。
魔法とは魔力によって現象を起こす技術、技能のこと。
その魔法には種類があり、人によって得手不得手があり適性と言われる。
魔法を術として使えるものを、一般的に魔術士と呼び、中には魔導士、魔法使いと呼ぶものも居る。
魔力は誰もが持っているものだが、その量は差が存在し、量が多くても、そもそも魔術に対する適性や素養といったものを持つ者が少ないため魔術士の数は少ない。
また、魔力というのはなにも人間だけに備わっているものではなく、世界に満ちている。また、魔力が集まり結晶化することで魔石というものが作られ、それを備えた生物を魔物またはモンスターというが、モンスター自体はまだ謎の多い存在であるというようなことが、わかった。
「ありがとうございます」
「いえいえ。他になにか知りたいことがあれば、遠慮なく聞いてください」
「それじゃあ……お言葉に甘えさせてもらって。【魔術適性】というスキルがあれば魔法というのは使えるものなんでしょうか?」
「【魔術適性】……?なにかしらの属性魔術適性ではなくですか?ふむ、恐らくは可能でしょうね。普通なら、なにかしらの特定の魔術適性スキルを持っていたり、【魔術の素養】といった具合のスキルを持っているのですが、もしかしたらその【魔術適性】というものは魔術というもの全てに対しての適性を持つのかもしれませんね」
「なるほど……なら【収納】というのは?」
「なんと、【収納】ですか!いやぁ、良いですねぇ、羨ましいです。収納というのはその名の通り物を収納できる魔法のことです。詳しいことは知りませんが、異空間に物を収納でき自由に取り出せるという便利なものらしいですよ」
ゲームにあるようなインベントリのようなものだろうか、と叡嗣は思う。ともあれ、今は知識を得るよりも先に一度落ち着くことが必要だろう。幸い、気になったことは知ることができたわけであるし。
「すごいものですね。色々、ありがとうございました」
「どういたしまして。何かあったらまた声を掛けてください」
「はい、ありがとうございます」
礼を言い、叡嗣はその場をあとにした。
修正 剣術、体術スキルのLvを1ずつ引き上げました。これに伴い、次話でのスキルレベルも上昇しています。
修正 【鷹の目】スキルを追加