表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
3/5

「灯台の街3」空の灯台 完結

灯台守さんに連れられて、猫さんと一緒に公園の隅にある灯台守さんの宿舎らしい木造の家屋に辿り着く。懐かしい木の匂いが私を歓迎してくれた。彼は見た目の割に落ち着いた雰囲気を持つ人で、私を全く緊張させなかった。彼は手慣れた手付きで食事の準備を始める。魚料理のようで、迷いなく捌いていく。捌いた魚に小麦粉をまぶして、フライパンで焼いていく。私はその一連の動作にすっかり見とれて眺めていた。まるで精巧な機械人形のような手の動きは、この料理を作り慣れていることが伺えた。猫さんは「もう待ちきれない!」とでも言うように、身を乗り出して魚をジッと見ていた。灯台守さんは塩コショウを簡単にまぶして、最後に輪切りにしたレモンを載せた。

「完成だ。」

私達のもとに料理が運ばれる。魚のムニエルだ。

「わー!灯台守さんお料理上手!私がどんなに修行しても作れなかった魚のムニエルをこんなにあっさりと…。」

「それは旅人さんが料理下手すぎるだけだと思う…。」

猫さんはそんなことを言いながらムニエルにがっついていた。お昼を食べ忘れたからお腹が空いていたのだろう。かくいう私もがっついていた。シェルホテルの薄いパンと冷たい目玉焼きとは比べられないくらい美味しい。暖かな食事、万歳。

灯台守さんが嬉しそうに笑う。

「俺の料理を喜んだのはあんたらが初めてさ。食い終わったら灯台に案内してよう。夜のほうが美しい物が見れる。」


私達が家屋から出ると、風景は一変していた。灯台が淡く照らされていたのだ。

「どうだ?すごいだろう?らいとあっぷとか言うやつらしい。」

灯台守さんは子供みたいにニッと笑った。

小道のライトアップは必要最低限。だけど、絶対に迷って草むらに踏み込まない程度に照らしていた。猫さんはそんなの気にせず草むらのバッタを狙って行ってしまった。この街ではここでしか味わえない優しい香りの夜風が舞い、草原と私の心を揺らした。

道中。灯台守さんは寝物語を語るように優しい声で、ある昔話を聞かせてくれる。

「大昔。この街にある灯台守がいた。ここは港町だったんだ。灯台守は毎日夜空を見ていた。火を絶やさないで見張るのが彼の仕事だからな。…夜空はいくらでも目に入る。あるとき灯台守はこの夜空を何かに残したいと考えた。彼は愉快な性格でな、自分のやりたいことにはとことん忠実だった。それに夜空の知識で負けるやつはいないと自負していた。だが、彼にはキャンバスを何枚も買うほど生活に余裕が無かったし、彼にはもっと愉快な計画があったんだ。」

灯台守さんはそこで言葉を区切る。私達はまた灯台までやってきたのだ。

「彼は灯台全体を、自分のキャンバスにしちまったんだ。」


私は灯台をつぶさに眺める。満天の星空がしたためられた灯台。深い藍色をベースに、繊細な赤や青の星々が煌めく。彗星が尾を引く一方で、よくよく見れば小さな光の一粒一粒が再現されている。まるで情熱と遊び心が手を取り合っているようだ。

「その灯台守が死んだあと、この灯台はゲイジュツテキカチとかレキシテキカチとかに選ばれて、海以外に大したものもなかったこの街のしんぼるになった。」

灯台守さんは灯台に入ってき、私も続く。灯台守さんは螺旋階段を登りながら話す。

「この街からは次第に海が消えていった。だが、人々はこの灯台を守り続けた。そして今に至るってわけさ。」

私はその時「国家が国民の帰属意識を高める」という、何処かで聞いてよく分からなかった言葉を思い出した。今ならなんとなく分かる気がする。この街の人々の故郷はこの草原と灯台なのかもしれない、と思った。

階段を登りきり、火を灯す部屋まで辿り着いいたとき、私は思わず絶句した。開放感のある灯室の壁中には夜空が刻まれていた。それがまるで外の星空と一体になったように精巧だった。屋内なのに、まるで宇宙空間…あるいは大海原に投げ出されたようだ。

「まだ海は残っているのさ。それも誰にも手付かずな海が。ここはその一部なんだ。」

灯台守さんは夜空を見上げながらそう言った。

私は灯台守さんに聞く。

「灯台守さんは、幽霊さんなんですか?」

灯台守さんは重大なとっておきの秘密がバレてしまったみたいにニンマリと笑った後、なるたけ感情を抑えてこう言った。

「…まさか。灯台の管理を任されている、「灯台守」という役職についているんだ。つまりしがない公務員さ。」


「…い!おい!旅人さん!起きろ!」

「なに〜猫さん…。朝からうるさいよ…。」

朝目覚めると、灯台守さんの宿舎の客室だった。灯台守さんはあの後、仕事があるからと言って私を先に返してくれた。しかもフカフカのベッドとシャワーにお風呂付き。これ以上の贅沢は世界中探してもないかもしれない。私は心の底からそう思った。

「…猫さん…もう少し私を幸せで居させて…。」

「それどころじゃないぞ!灯台守さんが居ないんだ!」

猫さんはフカフカのベッドの上で飛び跳ねてそう言った。

「ああ…そっか猫さんはどっか行ってたから…大丈夫だよ、猫さん。あの人は実は幽霊さんだから…。」

猫さんはキョトンとした後、

「何バカなこと言ってるんだ!そんなことあるわけ無いだろう!」

猫さんの訴えで、それからお昼すぎまで公園で遊びながら灯台守さんを待ったが、灯台守さんはやはり現れなかった。

「猫さん。そろそろシェルホテルに戻らないと。受付さん心配してるだろうし、荷物も引き取らないと。」

猫さんは渋った。

「そしたら、今日中に出発できるのか?」

「いや、シェルホテルに一泊しないと。夜中に次の街に出発するのは危ないし。」

「なんてことだ!なんなら私はここに住む!」

嫌がる猫さんを捕まえて、公園を出た。そのとき一瞬だけ、潮の香りのする風が吹いた気がした。


「次はどんな街に行こうか?」

「もっと緑のあるところに行きたいな。こんな街にいたら干上がってしまうよ!」

灯台の街。いかがでしたでしょうか?

かくいう私は連載小説は初めてで、自信がないです。

キャラぶれとか、ここが退屈だったりとかは、是非コメントをお願いします!

究極の癒し系旅小説を目指して。

「灯台の街」は完結しましたが、彼女たちの旅もまだまだ続きます!優しく見守ってあげてください!


皆さんのお気軽なご感想をお待ちしてます!

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ