「灯台の街2」海面の公園
私は「シェルホテル」で一泊すると、受付さんに地図を貰って灯台を目指した。「シェルホテル」での一夜は快適…とは少し言い難かった。ベッドは棺桶みたいに狭いし、色んな人と相部屋だった。ベッドには厚いカーテンがあったし、部屋のみんさんは物静かな人達だったけど、逆にそれが私を緊張させて、なかなか寝付けなかった。だが、それは明日への興奮もあったかもしれない。そして今日。昨日とは打って変わって私の手の中には紙の地図が一枚ある。それだけで私はどこへでも行けるのだ。バイクは受付さんのご好意で空いたスペースにこっそり置かせてもらった。車通りの少ない住宅地を猫さんと共にゆっくりと、新しい料理を食べるような感覚で歩く。住宅はどれも似たような形で、まるで魚の卵だ。猫さんは私の横にピッタリと張り付いて歩いている。猫さんは私とは逆に紙の地図が苦手なのだ。だからはぐれないようにしているらしい。そんなに緊張しなくても、私は猫さんを置いてなんか行かないのに、変な話だ。私の横を育ちの良さそうな子供たちが元気に通過していく。公園の木陰で猫さんを物欲しそうに眺めている小さな子がいたので、私は猫さんを抱きかかえて触らせてあげた。猫さんは最初不服そうな顔をしていたが、撫でられると次第に寝息をたててしまった。
お昼時。太陽が一番優しい時間。木陰で木漏れ日に当たりながらうとうとしていると、猫さんが起きてきた。
「おい、旅人さん。はやく目的の場所にいこう。」
「んー…。灯台は足が生えてないんだから逃げないでしょ…。」
「またシェルホテルに泊まる気が。私はもうあそこはゴメンだぞ。」
「じぁあ、この公園に泊まろう。」
「だが、まだ夜は冷えるぞ。」
私の言葉を猫さんは本気にしたらしい。私は猫さんのためにも、しっかり目的地へ向かうことにした。
「街立記念公園」それが目的地の名前だった。私は蔦の巻きついた石門のその文字と地図のそれを見比べて、猫さんにVサインを送る。猫さんはそれを一瞥すると、さっさと中に入っていってしまった。公園の中は、この街では全く見かけなかった緑でいっぱいだった。一面の低い草とささやかな花達。都会の中心に突如現れた秘境。私は丁寧に舗装された道を歩く。本当は芝に転がりたかったが、ぐっと抑えて一歩ずつ歩む。それが習わしのように感じたのだ。ここには法が無い。だからそれがある。だから皆ここを守り続けた。そう感じた。ここからでも目当ての灯台は見える。きっとこの公園の何処にいてもあの灯台は見えるのだろう。それは私に海から打ちあがり、過去の遺物を再び顕にしたできたての孤島を連想させる。 本当はその間逆なのに。 爽やかな風がそよぎ、草が海のようにのたうつ。それは私を歓迎する合図だと思った。日はすでに傾き掛けて、その光が灯台に重なる。赤く染まった世界が幻術のように映し出される。そして私は遂に、灯台に辿り着いた。ふと、後ろから声をかけられる。
「旅のお方。」
私が後ろを振り返ると、赤いシャツがはち切れんばかりに隆起した筋肉を持つ、青いつなぎを着た初老の男性が立っていた。
「俺は灯台守。お嬢さん、良ければここを案内しよう。」
究極の癒し系旅小説!…になる予定です!
「灯台の街」は全三部です。
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毎日1話以上の投稿を目指していて、今日で12日目、今日3個目の投稿です。