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夏夜  作者: 水谷なっぱ
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三海の居場所

 三海は帰宅すると父親はまだ帰宅しておらず、母親だけが夕飯の支度をしていた。母親に帰りが遅いことを咎められつつも、理由を説明して謝って風呂に入る。三海はぼんやりと湯船に浮かぶアヒルを眺めた。

「はあ」

 ため息をつく。今日は本当に空き地に行ってよかったのだろうか? 夜と詩音の邪魔になっただけでは? ぶくぶくと泡を吐く。

 三海はここ数日、毎日同じことを考えている。昼過ぎには空き地に行くか行くまいか悩み、帰宅してからは行ってよかったのかどうか悩む。悩んでも仕方がないし、夜と詩音はそんな関係じゃないし、二人とも三海のことを邪険にしたりはしない。

 そう、思っているのに。

「三海――、そろそろお父さん帰ってくるからお風呂出なさい――」

「は――い」

 母親の声にはっとして、三海は風呂から上がる。最近はそうやって悩んでばかりで、ついつい長風呂してしまうのだ。

 リビングに行くとテーブルには夕飯が並び始めている。三海も母親に指示されて皿や箸を並べる。

「今日もトマト?」

「毎日トマトよ」

 三海がうんざりしたような声を出すと、母親もうんざりしたように返事をする。

「飽きた」

「私だって飽きたしレパートリー尽きるし困っているの。でもお義母さんが無限に送ってくるんだもの。食べないわけにいかないじゃない」

「全部お父さんが食べればいいのに」

「そうお父さんに言ってみなさいよ。たぶん泣くから」

 母親は諦めたような顔で言った。たぶんもう言ったことはあって、父親は「三海は喜んで食べているじゃないか」とかなんとか答えたに違いない。

 祖母と母親の複雑な関係にわたしを挟んでなあなあにするのは父親の悪い癖である。三海は母親と同じような顔で笑って見せた。


 夕飯を食べながら三海はぼんやりと考える。今頃夜は、詩音はなにをしているのだろうかと。

 夜は同じように家族と夕飯を食べているだろう。でもきっと全く同じではない。夜が夜の母親と仲が良くないことくらい三海は知っていた。なにせ田舎なので、そういった情報が夜からだけではなく、母親から聞かされたりもするのだ。

 そして詩音はどうしているだろうか。詩音も家族と仲が良くないようなことを前に言っていた気がする。だから帰りたくないのだと。夜と詩音はそういう意味で共通しているから仲がいいのだろうか。だからわたしは。

 そこまで考えて三海は止めた。きっとそれ以上考えても答えなどないし、自分が嫌なやつになりそうで、それが嫌だった。

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