通勤列車全般清掃にて。
今日は、列車の全般清掃だ。
全般清掃は、その列車に対してひと月に一度の頻度で行う。
ノルマは、6両を4人で2時間。
用意する道具は、スコッチブライト、ガムベラ、薬液、それを薄める水、桶、ウエス、コロコロ、ダンモップ、ほうき、塵取り等々。
先ず最初は、車両の内壁の部分を、薬液を水で薄めて桶に入れ、その液体を浸み込ませたスコッチブライトを使って、ほんの少し力を入れて、汚れた壁を擦り、落して行く。
車両によってはロングシートの端はパイプだったりするのだが、今日やる車両には、ABS樹脂で出来た仕切り板が、ロングシート端に付いている。
それの汚れも落としてゆく。
磨き方は、円を描く様に・・・じゃなくて、タテヨコに擦る。
それで、数は多いので、比較的綺麗な仕切り板は飛ばして、次のをやる。
「あー。毎回毎回、面倒くせえなー」
こんな事を言いながら、作業をしているのはシマウマだ。
この異世界ににきて高橋は、生前と変わらない日常に諦めかけていた。
もう、こんな事を言っている異世界の住人に、聞き耳を立てることなんてない。
気にする必要なんてない。見て見ぬふりをすれば良い。
ただ、自分に与えられた仕事を、もくもくとこなすだけだ。
さて、壁と仕切り板が終わった。
高橋たちが壁をやっている間、他では荷だなと窓、それから、連結部の幌(これが、かなり汚くなるんだけれど)は終わっているので、シートのコロコロと、広告を挟むパネルの隙間をガムべらとウエスを使って拭く。
この部分は結構埃が溜まりやすいのだ。
拭くと本当に綺麗になる。
そして、その後は、ダンモップとほうき塵取り、モップを掛けて終了だ。
そして、先頭の車両に戻り、終了だ。
そして、この日の昼休み。ある人がお弁当として、何かトンデモナイ物を持ってきた。
休憩室の向こうが何だか騒がしい。
皆がギャーギャー騒いでいる。
それを見た高橋が、
「向こうは一体何を騒いでいるんだ?」
と言うと、隣の人が小さな声で
「ホビロン・・・」
と言った。
「え?見たの?」
「ああ。見ちゃったよ」
そう。知っている人は知っている、あのアニメで使われた言葉である。
聞き覚えのある言葉に思わず、えっ?となった高橋。
高橋は、それの正体を調べたりして居なかったので、興味が湧いたのだ。
それを確かめようと、騒ぎの元の所へ足を運ぶ。
するとそこには、見た目がグロテスクな、アヒルの卵の孵化直前のを茹でたと言うあれが。
しかし、これを持ってきた本人は「バロット」だと、しきりに言っている。
でも高橋はそれをみて
「そーか。これがあのホビロンそのもの、本物であってその正体なんだね」
と、良く訳の分からない納得をした。
そのグロテクスクさ、見た目の悪さに、思わずこみ上げそうになったりはしたが。
ある謎が解けた事で、少しばかり心がスッキリした高橋であった。
そして午後の作業は「梨地」であった。
これは、特急列車の座席の後ろにあるテーブルを支えるアーム部分の汚れを水とメラミンスポンジを使って落とす。
それだけの作業だ。
こうして、その日一日が終わった。