プロローグ
プロローグ
ある晴れた日。そして、その夜の事。
一人の男がゆっくりと、林の中を歩いていた。
ここは、ある工業地帯の裏のグリーンベルト。
幅は30メートル程あって、直ぐ横は国道なのだが、土手になっており、国道からは木の上の方しか見えない。
そして、夜は工場が稼働しておらず、特にその裏は、ひと一人としていない。
それ故に死角が多く、中に居ても目立たないのだ。
男は、あらかじめ、カー用品店で買って来た物を袋から取り出す。
―これを飲めばきっと死ねる。
そう思ってキャップを外し、口の中へ注ぎ込んだ。
「うげっ!苦っ・・・」
思わず声がでて、吐き出してしまう。
この時点で男は思った。これでは死ねないと。
この液体の事を知ったのは、スマフォでそのテの記事を探していての事だった。
いろいろと、方法を辿る内に見つけたのだ。
何でもこの液体、人体には猛毒で、ショート缶より少し多いくらい飲むと、内蔵の機能が低下し、死を招くという代物だが、元々、と言うか数十年前までは、この液体の成分が甘い味に感じるらしく、楽に飲めてしまい、この液体を使った自殺が増加した事があったそうだ。
今では、それを防ぐ為に、凄く苦くなる様に添加物が入っているのだ。
でも、男は再び口に流し込む。
無茶苦茶苦いのを堪えて、今度は飲み込んだ。
そしてその後、咳き込んだ。
余りの苦さに脂汗を掻きながら、その場に座り込み、寝そべった。
「これできっと、一時間後には」
男はそう、独り言をいうと、目を閉じた。
そして、今までの人生。そして、直前までいた職場の事を思い出していた。
今思えば、あんなクセの強い人ばかりの職場は初めてだった。
あんな事さえなければ、もう少しこの仕事も続いていたかも知れないのに。
・・・そうこう考えている内に、下腹部が痛み始めた。
その痛みが徐々に増してくる。
「ぐううっ!痛ててて」
下腹部の痛みが猛烈なものへと変化する。立っては居られない。
男は膝をつき、心臓の鼓動は激しさを増して脂汗をかき、下痢を引き起こし、そして地面をのたうち回った。
余りの痛みに苦しみ、意識が飛び始める。やはり、死する者に楽などは無い。
男は胸と腹を両手で抱え込み、苦しむ。
目の前が真っ暗になりそして、意識は漆黒の闇に包まれた。