【StrayCAT】《三語即興文》
「あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛っっっ!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!」
荒れ果てた大地に、激しい慟哭が木霊する。
交差する影は白と黒。
かたや、真っ黒の戦闘機。
かたや、真っ白の戦車。
ときに、ガドリング砲で雷のような轟音を発し、
ときに、レーザー砲で光の矢をばら撒き、
ときに、ミサイルの雨霰で地面を火の海にしていった。
殺意の火線は交差して、やがてたがいに距離をとる。
いったんの戦闘終了。火の海に立つ白い重機めがけて、黒き怪鳥が大声をはり上げた。
《正気ですかっ!? アリス博士!》
電気音声まじりの――少女とおぼしき高めの声で、怪鳥は叫んでいた。
《こんなことして、機関から逃げられると本気で思ってるんですかっ!》
返事は――笑い声だった。
「もちろんよ【闇鴉】! 私に 歯向かう者は――大統領だろうと総統だろうと法王だろうと神様だろうと消し飛ばす!」
レイヴン、と呼ばれた戦闘機は歯がみする――ように唸った。
《機関への反逆は、重要な軍規違犯ですよ》
「ここにいるだけじゃ、口説くことができないもの」
言の葉とともに、機動兵器――白ウサギが起動する。
そのとき、レイヴンはたしかに見ていた。
高精度カメラが捕らえた――ホワイトラビットのコクピット。
そこに搭乗しているのは、操作しているとおぼしき金髪の女性と――となりで縛られて気を失っている、同じ髪の少年。
《イクス博士を返してくださいっ!》
叫び声とともに、超高速でホワイトラビットに吶喊する。
「無理よ。無理にして無駄にして無価値だわ、無力なあなた。だって私と彼は――」
いいながら、アリスは操作パネルをなで回す。それだけで迎撃システムが息吹をあげる。
開いたハッチから見えるのは、無数のミサイルポッド。
「運命の赤い糸で結ばれているんだからっ!」
吹けよ火花!
羽ばたけ鋼鉄の矢!
すべてや黒き鳥を落とすために!
数え切れないほどのミサイルが。白煙をからませ起動を交差させながら、レイヴン目がけて降りかかる!
《……くっ》
それをレイヴンはECMを最大出力で起動させてミサイルの追尾システムを殺して、
目標を見失ったミサイルとミサイルのあいだをくぐって、
躱しきれない分は20ミリ機関砲で破壊して、
そうやって、鋼鉄のナイフをよけて壊していくのだが、少しずつ数に押し負けていく。
これをよけるのは、もはや高速で旋回していくしかない。
しかしそうすれば、あまりにも高いGによって、中のパイロットに負担がかかるだろう。
昏倒とか骨折とかそういうレベルではない。――確実に潰れてしまう。
ならば、今なおも音速の壁を突き破って迫ってくるミサイルの嵐をどうやって避けるのか。
答えはひとつ。
超高速で旋回してすべて躱した。
数コンマ前の場所――レイブンの残像をミサイルが貫いていく。
ほんの少しでも時間にズレがあれば、ミサイルとレイブンが交差するだろう絶妙な綱渡り。
コクピットを、語源どおりの【棺桶】に変えてしまう超重圧。
それでもレイブンの回避運動は崩れない。
まるで子供がおもちゃを振り回すように、でたらめな動きで黒い鳥が舞い踊っているではないか。
太陽を背にして、怪鳥が羽ばたいた!
太陽黒点を思わせる存在――カラス。
その真下で影を浴びるの白は――月のウサギ。
「……やるじゃない」
この不可解な現象を、アリスは簡単に見抜いていた。
「やっぱりAI(人工頭脳)相手に、人間と同じ手は通じない、か」
そうなのだ。
レイヴンは、最新式陽電子頭脳を搭載した最新型無人電子兵装戦闘機。
もろい人間というデッドウェイトを排したことで、戦闘機としての性能を極限まで引き上げた最強の戦闘機。
さらには、ある特別な機能によって、飛行機としての概念を完全に一新した究極の存在。
それがレイヴンなのだ。
そしてその開発者は――
《イクス博士を返してもらいます!》
言霊とともに、多弾頭ロケットが火を吹いた。
空中で、そのロケットが軽くはじけた。
不発――否。
ガスとともにばら撒かれるのは――多数の爆弾。
重量20キログラムのブリリアント対装甲子爆弾が13発。空中を踊ってホワイトラビットに襲い掛かる!
むろん直撃にはさせない。
ホワイトラビットのキャタピラをや動力源を狙って無力化するのだ。
音響センサーを載せたモーションウィングが広がって、白い戦車へと喰らいつく!
――が。
ホワイトラビットに当たるその直前。
爆弾がひとりでに砕け散ってしまったのだ。
まるで見えない壁にぶつかったかのように。
《エネルギーフィールド!?》
レイヴンが驚きの声を上げる。
不可視の絶対障壁。ホワイトラビットのバリアシステムだ。
くすくすくす、とアリスは笑う。
「これはイクスとの競作なのよ。彼の技術のすべてがこのホワイトラビットなんだから」
《……くっ》
さらにレイヴンは、AGM-84を発射した。
しかしその空対地ミサイルも、見えない壁にさえぎられてしまう。
しばしレイヴンは、空中姿勢制御システムによって、へリのホバリングみたいにその場に空中静止してみせる。
《あなたの目的は何ですか……。アリス博士》
その問いに、アリスはふんと鼻で笑ってみせた。何をいまさらと言わんばかりに。
「逃避行を邪魔するのがあなたの趣味なのかしら?」
《……それがあなたの弟でもですかっ!》
怒りまじりに、電子頭脳が咆哮を上げた。
「このまま研究を続ければ、彼は機関の奴隷として足を舐められ、機関の人柱として思う存分使い潰される。その前に――」
天を突く勢いでホワイトラビットから突き出した槍――荷電粒子砲。
先端が紫色のイオンを放出しはじめる。
大気圏内で打ち出せば、大量の放射線が放出されるにもかかわらず、彼女にはためらう気配がまるでない。
「そうなる前に――」
ターゲットを固定して、アリスはついに想いを叫ぶ。
「私は彼を抱きしめたい!」
《ついに狂ったんですか!? アリス博士っ!》
光の矢を、超高速でどうにか避けながらレイヴンは叫ぶ。
「それはどっちかしらね、レイヴン!」
《……どういう意味ですかっ!》
「考えてもみなさいよ。あなたは博士に造られ博士に育てられ博士に体を弄くられ博士に全てをゆだね――あなたの中で博士はどんな存在になっているのかしら?」
《何を言って、僕は……》
「僕という一人称は、男とごまかすためかしら? 私には分かる。匂いで分かる。あなたの中で芽生える雌の香りが!」
《違う、僕は……――っ!》
「被弾したわね。たいしたダメージじゃないけど、心のほうは大打撃みたいね」
《違う。僕はロボットだっ!》
「それこそ違う。嫉妬、怒り。意地……。そんな感情が渦巻く生き物を機械とは呼ばない。あなたはまさしく女神ヘラよ!」
《…………っ!》
なおも続く荷電粒子砲による攻撃。
カウンターざまにレイヴンは20ミリ機関砲を発射するが、溶鉱炉に水鉄砲を撃ちこむ程度のものでしかない。
「だけど彼にとってのあなたはどっちかしら? 輪っかが見える存在? それとも黒い羽が生えたヤツ? ……おそらくは後者ね!」
ホワイトラビットの側面から出てきたロボットアーム。
その先端のリニアレールガンが唸り声をあげた。
「私の力で――醜い悪魔を駆逐する!」
音速を凌駕する弾丸が、連続で黒い鳥に降りかかる!
「そして私は――イクスを導く。全力で彼をかどわかして調教して指と舌を這わせてはいつくばらせて服従させて堕として洗脳して――」
アリスの狂笑とリニアレールガンの咆哮が混ざり合う。
「彼のすべてを……私色に染め上げるっ!」
《そんなこと――させるもんかっ!》
ついに敬語を排して、レイヴンは叫んでいた。
そして――荷電粒子砲がついにレイヴンの真正面をとらえる。
高出力イオンが槍の穂先となって、鉄の鳥を呑みこまん!
瞬間――
戦闘機の一部が駆動する。
戦闘機から手が生える。
戦闘機から足が伸びる。
戦闘機から顔が現れる。
腿のスリットから伸びてきたロッドに手をのばして、それをつかみ取る。
《あああああああああああああああああああああああああああっ!!!!!》
粒子振動波を帯びたナイフを縦一文字に振るって、イオンの槍を掻っ捌け!
それはまさしく人の形。
人でありながら、人とまったくかけ離れた異形の存在。
鋼鉄の戦闘兵器――それがレイブン。
可変式人型機動兵器なのである。
「うわさには聞いてたけど……その姿は始めましてね、レイヴン!」
叫んで、アリスはホワイトラビットの全兵装を解禁した。
それを出迎えつつ、レイヴンはつぶやく。まるで自分を鼓舞するように。呪文のように。
《空を飛ぶことなら……ずっとずっと、博士に教えてもらってきたんだ》
向かってくるミサイルを斬って躱して――時に空中動転回し蹴りで跳ね返していく。
「博士の造ってくれたこのエンジンで……何十回も何百回も何万回も翔んできたんだ」
天雲を刺し貫いてレーザービームが乱射され、それをレイヴンは紙一重で避けて避けて避けて、アッパーカットのように真下から奇襲してくる光の矢をバック転の要領で飛んで、あふれる光の波をバレエのピルエットのように回って回って回って躱して……
「博士といっしょに、ずっとずっと……」
太陽をバックにしたその姿は――もはや嫉妬の女神ヘラにあらず。
「空を飛ぶことなら、僕は……誰にも負けないんだっ!!!!!」
太陽の神――イカロスだ!
輝く稲妻の剣を横に振るって、鋼鉄の巨人は背中のバーニアから、あらん限りの声で咆え上げるっ!
超音速で、真下に、全力で、そのまま自爆するような勢いでホワイトラビットに特攻していくっ!
それを出迎えるのはホワイトラビット――アリス!
「私の愛で押し通す!」
《僕の恋で押し返す!》
ミサイルがリニアレールガンが荷電粒子砲が襲いかかり、装甲が削れてフレームや駆動部分がむき出しになるも全て無視。勢いはまるで止まらない。
エネルギーフィールドに突きたてられるのは、一本のナイフ。
全エネルギーと超加速の運動エネルギーと電子頭脳に詰まった根性の一撃。
狂人は哭いた。
戦士は吼えた。
「おおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおっっ!!!!!!!!!!!!!!!!」
「ああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああっっ!!!!!!!!!!!!!!!!!」
機械の意地。
狂人の悪意。
太陽と月がぶつかり合う……。
(Fin)