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メタァな厨二病男子とチートなお節介系幼馴染は果たして純潔を守れるか!?  作者: アシタカ
第七章 人族領・王都ダーリエ編
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第85話 逃走

 目の前で子供の手首ほどの太さはある杖が、呆気なく嚙み砕かれる。

 私はまたあの、ジャイアントウルフの牙を思い出していた。糸を引く歯列に、命の危機。心臓がヒヤリと冷たくなって、私は瞬きもできない。

 ワンテンポ遅れてイザークがその飛んできた顔を弾く。すると今度は胴体がカタカタと近寄ってきた。


「カルヴィン、マーガレットを連れて逃げろ!」

「わ、わかったのだ!」


 カルヴィンが私の手を取り、走り出した。私は引きずられるようにカルヴィンとパニックになる街中を走る。もう獣娘たちとも逸れてしまった。

 あの人形、なるほど『熱狂的執着君ストーカーマン』の名前だけある。首が取れても本当に私の命を奪うまで徹底的に追ってくるようだ。相変わらず趣味の悪い魔法道具マジックアイテムばかり作る子だ。


「カルヴィン、逃げるってどこに!?」

「知らないのだ!それがしに聞かないでほしいのだ!」


 カルヴィンも真っ青な顔のまま血の気が戻らない。そうだ、そういえば上空には魔女も竜王もいるんだった。私はそろりと空を見上げる。そうすると、あの大きな竜がこちらを見ているのだ。じっと、離すことなく私とカルヴィンを見ている・・・そんな気がする。

 でもこれ以上カルヴィンのパニックに拍車を掛けたくないので、私は唾と一緒にその言葉は飲み込んだ。竜はじっとこちらの様子を窺っているが、追ってくるようなことはなかった。


『逃げ惑いなさい、人族よ。平和な時代など、元々ありはしなかったのです。他者に奪われぬよう武器を取り、鎧で固めて、己と国を守りなさい』


 魔女の演説はまだ続いていた。この状況を楽しんでいることが声だけで分かる。でも彼女がこの演説をしている意味は次の言葉で分かった。


『ここに来てまだ日の浅い者よ。己の無力さを噛みしめるのです。お前が世界を救おうなんて、とんと烏滸がましい』


 私に忠告しに来たのだ。私の存在を知っていて、疎ましく思っているのだと。

 魔女って一体、何者なのよ。それに私無しで魔王が復活するんだったら、結局私がこの異世界に連れて来られた意味って何なのよ。竜王もなぜ魔女を連れて人族領の上を飛んでいるんだ?

 訳分からなくて、もうダメだ。私には分かりっこない話なんだから、とにかく今はここから逃げてしまうしかない。しかしあまりの人の多さに人通りを避け、路地裏に入ったときだった。

 目の前に長身の男が二人現れた。彼らが「待っていたぞ」と言えば、カルヴィンが私の手をつかむ力がぎゅっと強くなる。


「少女よ、お前が盗ってきたものを渡して大人しくついてこい。そうすれば命までは奪わんぞ」

「盗ってきたって…」

「竜王スペルディア様は未来を予知するお方。お前たちが何をするかを事前に知っていたのだ」


 この二人は竜王の手先か…

 でも折角手に入れた証拠をみすみす渡すわけにはいかない。これでこの大陸の魔物の凶暴化を止めなきゃいけないのだ。魔女は魔法道具(マジックアイテム)製作のため資金の確保をしたいのであれば、この事実は揉み消されてしまうかもしれない。


「安心せよ。スペルディア様は魔女の味方ではない。魔女にそれを奪われたくないのなら我々に降伏せよ」

「魔女と一緒にいるのに?信じられると思うの?」


 竜人は私の返事は分かっていたことのようで、私の返事が思わしくないとすぐにカルヴィンへと矛先を変えた。


「カルヴィンよ、よくやったな」

「え?」

「竜王様から聞いている。今回のためにそなたは追放されたフリをしていたのだと。竜人族はこの度の功績を認め、そなたを再びプライディアに迎え入れる準備がある」


 カルヴィンは体に緊張を纏わせながら、確かめるように呟いた。


「戻れるのか?プライディアに…?」


 その声は微かに震え、信じられないとでも言うようにカルヴィンの口からこぼれ落ちた。彼は寂しく辛い日々を過ごしていたのだ、あの鉱山で故郷を追われたことを憂いて。

 カルヴィンは小さく私を振り返った。その顔は複雑だったが、何を考えているかは察せられた。彼はキョロキョロと瞳を動かし一瞬考えると、唇をきゅっと噛んだ。


「すまないのだ…マーガレット…」


 捕まれた手のせいで逃げられず、首に強い衝撃を受けて私は意識を手放した。



 ***



 私は数日、1つの部屋の中にずっと閉じ込められていた。そこで会う人は限られていて、身の回りの世話をしてくれる女性1人しか行き来はなかった。

 気を失ってから、気づいたらここにいた。女性は身の回りの世話はしてくれるけれど状況を説明してはくれなかった。だからあの後どうなって、私がこれからどうなるかさっぱりなのだ。

 危害を加えるつもりはないらしいことは分かったけれど、何のアクションもないので不安ばかり募る。一度「せめてカルヴィンに会わせてほしい」と女性に頼んだら、驚いて食事もくれずに逃げられた。


「本当にどうなってるのよ…」


 部屋にはフカフカのベッドも着替えのたくさん入ったクローゼットも用意されている。いい加減監禁されてるのに不自由のない生活の理由を説明してほしいものだ。

 疑問の深まる私のもとへ、いつもの女性がひょっこり顔を出した。彼女は「鳩兵隊が」と私に伝えれば、懐かしの鳩上等兵とともに部屋の中へと入ってきた。


「久しぶりですね、その後いかがでしょうか。冒険者ギルドより全冒険者への通達が出たのでこの鳩上等兵が直々に伝えにきたのです。プライディアへの伝達など遂行できる隊員はなかなかいるものではなく、鳩参謀から直々の命令をいただき参上したのですそうなのです。これも一つ上官からの信頼の証と信じて疑いませんとも私」

「鳩上等兵!」


 ああ、この長ったらしい喋り方も懐かしい。やはりここはプライディアのようで、竜人族の領地なのだ。竜人も魔族と同じで他種族からは敬遠されている存在のようだが、鳩上等兵は赴いてくれたらしい。


「でもよく私への接触が許されたわね」


 私、捕まってる身なのに。しかし私の疑問を鳩上等兵は不思議そうにはね飛ばした。


「意味が分かりませんね。竜人族に嫁入りする予定の人族と接触が取れなくなる理由とは何なのでしょうか。我々獣人族には分からない慣習でもあるのでしょうか」

「嫁入りぃ!?」


 嫁入りって、誰がどこに!?

 一体いつどこでそんな話になっちゃったの?


「ちょっと鳩上等兵、誤解よ!」

「何が誤解でしょうか」

「嫁入りなんて私そんなの…」

「止してもらえますか!」


 私が誤解を解こうとすると、鳩上等兵に鋭い口調で止められた。


「それ以上何か言ってもらっては、私が生きて戻る確率が確実に減ってしまいます」

「え?」

「あなたは竜人族に嫁入りきた。竜王がそのように発表したのだから、それだけが事実なのです」


 鳩上等兵はチラリと後ろに目を向けた。そこにはいつも私の世話をしてくれる竜人族の女性が、何の感情も読めない表情で立っていた。もしかして監視も兼ねてそこに立っているのだろうか?


「とにかく冒険者ギルドからの通達です。私はそれを伝えにきただけなのですから、それ以上のことはしたくありません」

「そんな…」


 ちょっと冷たいんじゃない?確かに竜人族領から無事に帰還したいんだろうけどさ。

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