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メタァな厨二病男子とチートなお節介系幼馴染は果たして純潔を守れるか!?  作者: アシタカ
第七章 人族領・王都ダーリエ編
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第82話 エイブラハム邸2

再開します。

第81話も途中になっていたものを完成させました。

またよろしくお願いします。

 言いたいことと言われても…

 私はどうしたものかと悩んだ。それにイライラしながらニーニャは鍵穴をいじる。


「グラトナレドは貧しかった。言い訳じゃないけど本当に食べるものがなかったの。だから力無い獣人は飢えて死んだわ。私はそんなのまっぴらだったから、盗みに入ったのよ」


 ガチャガチャと乱暴にピンを差し込むニーニャはどんどんヒートアップしていく。ちょっとちょっと、誰かに気付かれちゃう。


「でも言っとくけどね、そんなことしてたのは私くらいで、ナンシーも、ましてやミラなんてそんなこと一回もしたことないんだからね。勘違いしないでよ」

「ニーニャ、分かったから…」

「分かったですって!?何が分かったのよ人族の癖に!」


 前から思ってたんだけど、ニーニャって…


「どうしてそんなに怯えてるの?」

「はぁっ!?」


 あ、しまった。思わず声に出てしまったけれど、ガチャリと鍵の開く音と共にニーニャがまた般若の形相で振り返った。

 だって、カリカリと声を荒げるニーニャは、人に警戒して威嚇する野良猫みたいな、そんな雰囲気があるのだ。だけど直接言ったのは失敗だった。


「誰が怯えてるですって!?」


 言葉を発するのと同時に、ヤケクソみたいにニーニャは扉を開けた。私もそれに対しての反応を返したいところだったのだが、思わぬものが目に飛び込んできてそれどころではなくなった。


「何よ…?」


 私の反応を訝しく思ったニーニャも、扉の中を見て思わず絶句。そこは予想外の部屋であった。

 キレイな布で誂えられたドレスを着た、端正な顔立ちの人形がズラリと揃っていた。金髪ツインテールに大きなリボンが揺れる幼い子供の人形で、どれも色とりどりのドレスを身に付けている。椅子に座っていたり、はたまた立ち話をしている様子だったり、それぞれにシチュエーションがありそうな配置をしているのがまた堪えるものがあった。

 思わぬ光景にヒートアップしていた気持ちも冷めたニーニャは、静かに扉を閉めた。


「とんでもない趣味してるわね、あの男」


 一旦、見なかったことにしようと暗黙の了解で決まった。

 私たちはとりあえず、エイブラハムの個室から見てみることにした。中に入り物色を始めるが、それらしき物もそれらしき隠し部屋もなかなか見つからない。


「怒鳴って悪かったわね」


 しばらく探していたら、ニーニャがボソリと口を開いた。驚き見てみれば、ばつの悪そうな顔で棚を探りながら話始めた。


「怯えてるっていうのは、合ってるかもしれない」

「何に怯えてるの?」

「何て言えば良いのかな…ミラに呆れられたり、失望されたりすることにかな」


 ニーニャはどうやら落ち着いたようで、もう怒鳴ってはこない。少しずつ私に教えてくれた。


「ミラはね、獣人たちにとって大切な姫巫女様だけど。私にとっても、本当に大切な姫巫女様なの。グラ兄が引き合わせてくれたんだけど、ミラは私に『狩りができないなら私がその分採ってくる』って、『だからもう盗みなんてやめて』って言いに来たのよ。私を助けようとしてくれる獣人はミラが初めてだった」

「ミラのことが大切なんだね」

「そうね…ねぇ、獣王様だけど、あれ嘘でしょ。人族に騙されて、秘め事を使ってしまったってやつ。グラ兄が知らずにそんなことしたりするはずないもの」


 どうやらニーニャはグラの強かさを知っているようだ。


「言わないでくれて、ありがとう。ミラは人族に騙されて、獣王は知らずに魔除け薬を取引してたって信じたみたいだから。本当に真っ直ぐなの、あの子。グラ兄は卑怯な真似は一切しないって思ってる」

「グラ兄…?」

「昔はみんなそう呼んでたから」


 机の引き出しを一つ一つ見ながら私は話を聞く。ニーニャの話からすると、ミラは何も知らなかったようだ。グラトナレドではミラが魔除け薬を獣人たちに勧めていたって話だったけど、ミラは利用されただけってことか。


「私は昔、力が無くて一人でまともに狩りもできないから見捨てられてた。でもそれは仕方なかった。本当に食べるものが無くて、みんな自分の食い扶持を確保するので精一杯だったから、誰かを気にする余裕なんてなかった。でもミラは逆だった。あの子は力がありすぎたの。あの子、生まれ時は助産婦の親指握り潰したのよ」


 それは…怖いものがあるな。


「力あるものを持て囃す獣人でも、その規格外の強さは流石に恐れられたわ。でも、ある日グラ兄が古い本片手にみんなに言ったの」


『この子は千年に一度現れる姫巫女様だ。この子の力は獣人族を救うだろうってこの書物には記されてる』


 それまで恐れられていたミラは、一変して人気者になったそうだ。その強さに理由を見出だした獣人たちは、ミラを姫巫女として慕ったと言う。


「グラ兄はそういうことが上手い。本当は姫巫女様なんて存在しなかったし、そんな書物に書いてあるなんてのも全部ウソっぱち。でも読み書きができる獣人なんて、グラトナレドでは獣王様くらいだったから、みんなにそう思わせたの」

「じゃ、当時の獣王にはバレちゃったんじゃ」

「そうね。グラ兄は父さんに頭下げに来たわ。それで言ったのよ、『あんたのとこの末娘も、全部俺が生かす。だから獣王の座をいつか譲ってほしい』って」


 何とニーニャの父は前代の獣王だったようだ。末娘ってのはニーニャのことらしい。だからその場に居合わせたニーニャは事情を全て知っていたようだ。


「なんて、長話してる場合じゃないっての!この部屋は目ぼしいものがないわね。寝室にでも隠してんのかしら?」


 ニーニャは話しすぎたことを恥じて、誤魔化すように奥の扉に手をかけた。開けた瞬間、むわっと噎せかえるような甘い香りが広がる。


「え?」


 突然、耐えがたいほど瞼が重くなり、目眩に近いものを感じた。一瞬ぐっと目をつむり、開けたときには不思議なことが起きていた。

 目の前のニーニャが猫になっていたのだ。


「ニーニャ?どうしちゃったの?」


 いくら猫の獣人だからって、獣人は身体が変化したりしないはずだ。猫になったニーニャは私の足元にじゃれついてきた。


「一体どうなってるの?ニーニャ、喋れる?」


 猫は返事かのように一声鳴くと、軽やかな足取りで寝室から遠ざかり部屋を横切る。そして猫が目の前まで行くと、勝手に扉は開いてしまった。


「待って!」


 猫は廊下に出るとあの人形部屋へと一直線に向かい、また扉の前まで行けば招き入れるかのように扉は開いてしまった。そのあとを私も着いていく。


「どこに行くの?ねぇ、何してるの?」


 猫は喋らない。部屋の中に入ると猫は呼ぶように一声鳴きこちらを赤い目でじっと見つめるように振り返る。近づくとそこは、椅子に座ったツインテールの人形の足元だった。


『マイ』


 猫はまた私の足にじゃれつくと、その人形のドレスの下へと潜り込んでしまう。捕まえる間もなくあっという間だった。


「起きて、マーガレット!」


 そんな不思議な光景を見ていたら、ニーニャに呼び掛けられた。

 私が再び目を開くと、エイブラハムの個室の、寝室前に倒れ混んでいたことが分かった。まるで夢でも見ていたかのようだ。猫はどこにもいなくて、苦しそうなニーニャがそこにはいた。

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