第81話 エイブラハム邸1
仕事が忙しくなり更新が不安定となってしまっているため、誠に勝手ながら1月の2週目金曜頃まで更新を一時停止しようと思います。いつも遅い上に申し訳ございません。
次回更新時はこの81話の完成版の更新ともう1話くらいスタートさせられらばと思っています。中途半端にあげてしまい、重ねて申し訳ございません。よろしくお願いします。
ナンシーの長い耳がピクピクと動く。
「南に5匹くらい。東側に3匹」
壁の向こう側に耳を澄ませ、中の様子を探ってもらったのだ。それにニーニャが頷くと、高く私の背の2倍はあるかというその塀の上へ軽い身のこなしで飛び乗った。
私たちは準備を整えて集合し、今はエイブラハムの屋敷まで来ていた。予想通りエイブラハムは不在のようで、屋敷は使用人がいるとはいえ静かなものだった。
ニーニャは用意してきたらしい縄を近くの木に結びつけ、こちらに垂らしてくれる。手だけでクイクイと呼ばれ、まずナンシーがその縄を使い塀の上へと移動した。私、ミラ、ヒューバートもそれに続く。
ナンシーの言っていた南側を見てみるが、ここからでは番犬がどこにいるのか分からない。エイブラハム邸はとても大きく、庭も広々としていた。そこは庭師により手入れされた花々の咲く美しい庭園のようであったが、生憎こんな夜ではそれを楽しむことはできない。私がそんな庭に目を凝らしていると、その間にミラが中へと降りていった。
「待っててねぇ」
向こう側に降りたミラはこちらに振り返り手を振る。その緊張感のない様子にヒューバートが不安げにニーニャとナンシーを見た。
「見てなさいよ」
ニーニャがそう言った時だった。「グルルル…」と低いうなり声が聞こえてきた。もう侵入者に気付いてしまった犬がミラへと威嚇しながら近づいてくる。真正面から対峙してしまったミラと犬をドキドキしながら見ていると、すっかり囲まれてしまっている。しかしミラは臆することなく一番近くの犬をいきなり吹き飛ばした。
犬は「キャンッ」と一言発すると、そのまま気絶してしまう。それを見て、途端に他の犬たちは怯みだした。圧倒的力を見せつけるミラは犬たちへと告げる。
「逆らわないでねぇ。傷付けたくないからねぇ」
その優しげなのに恐ろしい声音に、犬たちは次々とひれ伏し腹を見せだした。本能的に危険を察知したのだろう。そうして簡単に制圧してしまうと、ミラは「大丈夫だよぉ」とこちらに手を振ってきた。
「さすが千年に1人現れる姫巫女様だね・・・」
「さ、塀と犬はちゃんとなんとかしてあげたんだから。中に行くわよ」
ニーニャがまるで自分のことのように得意げに胸を張る。私たちは屋敷へと近づいていった。屋敷はやはり大きく2階建ての構造だ。勝手口らしきところまで来てみたが、案の定鍵はかかっている状態だ。
「ミラ、犬を騒がせてくれる?」
「いいよぉ」
ヒューバートが開かない鍵を確認するとニーニャがミラへと声を掛ける。一体どうするのかと焦ったが、ニーニャは任せろと言う。ミラは腹を見せていた犬たちに指示を出し、騒がせた。途端に吠え始める犬たちを見て、ニーニャは全員隠れるように言う。
そうしていれば案の定、警備の男たちが2名走ってきた。番犬たちが吠えるのだから様子を見に来たのだろう。しかし侵入者や異常事態が見当たらないことに戸惑っていた。
「一体、何に騒いでいるんだ?」
「どうしたんだ?」
困惑気味の2人の背後にはニーニャから指示を受けたヒューバートとナンシーが忍び寄った。そして、手刀を繰り出すヒューバートと脳天にかかと落としを決めるナンシーにより、警備員の意識は失われることとなる。
ちょっと、思った以上にみんな頼もしいじゃないですか。一人役立たずな私は何だか焦りすら感じてしまうんですけど。
「あったぞ」
警備員の懐を探り、ヒューバートは鍵を見つけ出した。それはジャラジャラといくつか輪にくっ付けてあり、勝手口に合う鍵を一本ずつ確認しながら探していく。勝手口から中に入るとそこは厨房のようだった。入った途端、下っ端らしき青年とバッチリ目が合ってしまった。彼はりんごを拾うため屈んでいたらしく、こちらも気づくのに遅れてしまったのだ。
「あ…え?あれ?誰…?」
混乱しているらしい。すかさずニーニャが背後に回り込み羽交い締めにしながら口を塞いだ。可愛い女の子に抱きつかれても、こんな状況なので青年は暴れようとする。ヒューバートが腹に一発拳を入れれば青年も気を失うこととなった。
「大悪党の気分だねぇ」
まさにそれである。
気を失った青年は縛ってパントリーに寝かせ、やっと中に入った私たちは、周囲を警戒しながら中の様子を探る。厨房は他に2つの扉があって、それぞれダイニングと廊下に続いていた。廊下の方に出て少しすれば吹き抜けの玄関ホールで、2階へと続く階段が伸びていた。
ここから二手に別れることにして、1階はミラ、ナンシー、ヒューバートの3人で、2階は私とニーニャが見ることになった。
「さ、行くわよ。鍵はそっちが持っていきなさいよ」
もう完全にニーニャが仕切った状態で、鍵はヒューバートにそのまま持ってもらうことに。私たちは周囲を警戒しながら2階へと上がっていった。私は頼もしいニーニャに着いていくだけである。
2階もたくさんの部屋があるようだった。長い廊下の各所に扉が設置されていて、一体どこに研究室があるのかわかりゃしない。さぁ、ニーニャは一体どんな手段を考え付いたかなと期待して見やれば「片っ端から開けてくわよ」と何とも地道な方法を提案された。
「さすがに研究室を一発で見つけるような裏ワザはないわよ」
ニーニャに呆れられ、すぐ近くの扉から確認することにした。重厚な木でできた扉は頑丈だが、鍵は掛かっていないようですぐに開けることができた。そこは使用人室のようで簡素な作りの部屋だった。掃除道具だったりもここに置かれているようだ。
開けた瞬間、私たちは息を飲む。中に人がいたのだ。しかし緊張したのは一瞬のことで、中にいた4人のメイド服を着た使用人はみんな突っ伏して寝ていた。
「主人がいないからって、ここの使用人たちはみんなサボり?すごいわね」
「でもラッキーだね。寝てるなら今のうちに調べよう」
と言うことで、各部屋を調べていく。まずはいったんどこに何があるかを確認することになった。開けられる扉はいくつかあったが、鍵の掛かっている部屋もある。
「開けられない部屋はプライベートルームかしら。中見たいわね」
「でも鍵はヒューバートに渡しちゃったし」
寝ている使用人たちの誰かが合鍵持ってないかな。でもいくら寝てるとはいえ、探るのは危険よね。
私がうんうん悩んでいる時だった。ニーニャは一瞬迷うように視線を巡らせて、そして私に脅すように凄む。
「いい、今から見ることは誰かに絶対に言ったりしないでよね」
「え…?」
ニーニャはふんと鼻を鳴らすと、自分の髪を留めていたピンを抜き取った。そしてそれを鍵穴に差し込むと、何やらカチャカチャと動かし始める。
…この動作は、聞くまでもなく鍵を開けているのだろうけど…
「なんでそんなことできるの?」
「あんたの想像通りよ。今までにこういうことしたことあるから、できんのよ」
ドアがカチャリと音をたてて開いた。
中はエイブラハムの個室だ。机に椅子とセンスのいい家具類が置かれている。奥にも扉があるが、多分寝室に繋がるのではないだろうか。
「もう一部屋も開けるわよ」
ニーニャはまたピンを差し込み鍵を開け始めた。
私はその後ろ姿を複雑な気持ちで見ていた。すると鍵開けの途中だったニーニャが睨んでくる。
「何よ、言いたいことあるならハッキリ言いなさいよ」
仮になっていたもの完成させました。
第82話は以前記入通り2017年1月13日にアップします。
これからもどうぞよろしくお願いします。




