第78話 再会
さて、やはり思った通り私は簡単に城から出してもらえた。人王はルークスリアしか用がないのだから当然とも言える。
とにかく私は王都に出て、エイブラハムの居所を掴み、彼がやっていることの証拠を掴んでくる必要がある。正直、本当にそんなことができるかどうか、自信はない。何だかラスタリナでのことを思い出す。エルフに身の潔白を示すために魔物の凶暴化について調べたのだ。でもその時はエスターやらイザークやら助けてもらえる協力者がいたのに。ここではまた一人放り出された状態だ。
また協力してもらえるような知り合いに出会えたらいいのに。
そう思っていたら、案外知り合いに会うことができた。
「マーガレット?」
そこには驚いた表情の獣キャバ3姉妹がいた。
「ニーニャ、ミラ、ナンシー。どうしてここに?」
「そっちこそ、どうして王都にいるのよ」
ニーニャが怪訝そうな表情で問うてくる。うん、そうね。グリーダッドで会ってた人たちだから、意外な場所で会うと必要以上に驚いてしまうんだが、相手もそうなのだろう。
「私たちはねぇ、人王に報告に来たんだよぉ」
「報告?」
「ほら、最近魔族が出没してるでしょ?本当は売り上げに響いちゃうから、うちの店に魔族が出たなんて外に漏らしたくないんだけど・・・こんなに頻繁に魔族が出てるとなると、情報提供しておかないといけないでしょ?もしかしたら、うちに出た魔族が他でも活動してるのかもしれないし」
なるほど。まぁ、別の魔族なんですけどね、それは。それでも危機感を持って、情報提供に来ていたなんて偉いな。
「マーガレットも。一緒に、王の元」
「ナンシーの言う通りね。一緒に来なさいよ、マーガレット。あんたも襲われたんだし」
「えっと・・・」
今、その王様の元から脱出してきたところなんですけどね。何と説明したものか。
でも、この3人を仲間にできたら心強いじゃないか。順番さえ間違えなければ助けになってもらえそう。私は慎重に考えていたが、それより先に「邪魔だ!」と怒鳴られた。
「どけ、騎士団である!道をあけよ!」
以前トルペで見かけた騎士団員と同じ服装の人が複数、歩いてきた。どうやら何か任務を終えて帰ってきたところらしく、偉そうに人を避けさせながら歩いてくる。
そうか、王都なら彼もいるのか・・・と、ぼんやりと考えていた時だった。その騎士団の集団の中にいる女の人と目が合った。知ってる人だ。彼女、なんで騎士団に連れられて王都になんて来たんだろう?
「あ・・・」
彼女も驚いた表情をしている。そこで、ふと気づいた。ニーニャたちは魔族の目撃証言をしに王城を目指していた。そう言えば、彼女も魔族を目の前で見た目撃者なのだから証言を求め王都に呼ばれても不思議ではない。
その考えに行きついた時には、もう遅かった。
「こ、こここ、この子!この子です!」
トルペのしがない料理屋の看板娘、ポリーは私を指さし大きな声で叫んだ。
「魔族と一緒にいるところを見ました!この子がその時の女の子です!」
私が何か行動する間もなく、ポリーは騎士団員たちに告げる。彼女はトルペでライナルトを追いかけていた時、イザークが目の前で姿を変え、私と一緒に逃げて行ったのを見ているのだ。
彼女の言った意味を理解すると、騎士団たちは私を取り囲み始めた。や、やばい・・・
「魔族と一緒にいた、とな。貴様も魔族か?少女よ」
「いや・・・ちが・・・」
どうしたもんか。何か、話ちゃんと聞いてもらえるのか?私があわあわしていると、騎士団たちは互いに視線を合わせ、頷き合う。何を通じ合ってるんでしょうかね?やっぱり私を捕まえるつもりですか?
私がただただ慌てている時だった。突然、ドーンと大きな音がした。
私も騎士団員もポリーも、みんな驚いてそちらを見る。そこには、家の壁を素手でぶち抜いているミラの姿があった。
家の壁を、素手で。
「魔族なのぉ?私たちを騙してたのぉ?」
「ミラ、待って」
ナンシーの声も聞こえておらず、ミラはいつものホンワカな雰囲気から一変、異様な雰囲気へと変貌していた。表情は笑っているが、目は全然笑っていない。ニーニャが一歩下がって逃げたのが見えた。
次の瞬間に、ミラは態勢を低くした。この感じ、見たことがある。ジークベルトと対峙した時のナンシーと一緒だ。ゾッとして、何か考える前に体が右に避けた。その瞬間には、態勢を低くしていたミラが、鳩兵隊の弾丸のような飛行よりも早く、突進してきた。
「い、いやー!」
こ、怖い!突進したミラは、そのまま私の後方にあった家の塀を粉々にぶち壊してしまった。その瓦礫の中から出てきたミラの顔は、やはりまだ笑顔だ。
「グラトナレドにも魔族が来たんだよねぇ?何しに来たのぉ?」
「待って、待って待って、ミラ聞いて!」
恐ろしい怪力だ。ミラは私を見据えると、また態勢を低くする。やっぱり突進攻撃は止めてはくれないんですね!?
「おい、街中で暴れるな獣人!」
「ここは我々に任せ・・・」
騎士団たちがそう声をかけるがミラは聞こえておらず、またすぐさま地面を蹴った。私はそれを必死に避けるしかない。また家屋が破壊されていった。
「ミラ、ちょっと待ちなさいよ!あんたがこんなとこで暴れちゃまずいでしょ!」
「壊す、ダメ」
家屋に突っ込んでいったミラにニーニャとナンシーも止めに入る。しかし仲の良い2人の声も今のミラの耳には届かないようだった。
「姫巫女の力は規格外なんだから!こんなの獣王に知れたら怒られる!」
ニーニャの悲鳴じみた声が聞こえた。なんと、ミラが姫巫女だったようだ。私はてっきりニーニャがそうなのかと思っていたんだが。主にでかい態度のせいで。
ミラは何とか思い直したのか突進は止めた。すっと腕を上げて構えてくる。これは、チャドの時に見たことがあった。ミラは深く息を吸い込むと、掌底を私目がけて繰り出してくる。
これは、やっぱりもう逃げるしかない!できるのか?
そう思っていた時だった。私の目の前にひらりと現れた影があった、その人はミラの掌底を逸らし間に入ってくれた。
「・・・っつ!さすがに獣人の力は半端ないな」
「ヒューバート!」
トルペで出会った騎士団大尉、ヒューバート・モージズ・スローンその人であった。彼は私を庇うように立ち、周囲に向かって宣言した。
「この娘は魔族ではない!それは一緒にトルペにて過ごした私が断言する。お嬢さん、少し落ち着いてもらえないか?」
ヒューバートに勢いを削がれ、ミラは「そうなのぉ?」と先ほどまでとは一変していつものホンワカな女の子に戻っていた。
「この場は騎士団少佐のヒューバート・モージズ・スローンに預けてくれ。お前たちも矛を収めろ!」
昇格したんだ、ヒューバート。彼はこちらの様子を窺い剣を抜いていた周りの騎士団たちにも命令し、この場を収めてくれた。よかった、騎士団たちは少佐の言うことは絶対のようで大人しく指示に従っている。
「ヒューバート少佐、恐れながら申し上げますが・・・その少女、魔族でないと言えど、魔族と共にいたんですよね?であれば、話は聞かねばならないかと・・・」
「分かってる。私が話を聞いておく」
ヒューバートは騎士団たちにポリーを連れて先に行けと促すと、やっと私へと向き合った。
「久しぶりだな、マーガレット」




