第74話 ゴールデンイーグルの羽根2
食事を終わらせ、私たちはグラから客室まで借りることができた。やはりエルフの女王がいるのだからあまり不便な思いもさせられないのだろう。最も、昨日まで普通の宿屋に泊まっていたのだからもう遅いとも思うけど。
「それで、これはどうすれば良いの?」
そして私たちは一室に集まり、黄金に輝く羽根を前に首を傾げていた。
「確か忘れたことを1つ思い出させてくれるんだったか?」
ルークスリアが疑わしげな声でその羽根をしげしげと眺める。ハイノが皆がいなくなる前にゴールデンイーグルの羽根を試したいと言い出したからだ。
「どうなるんすかね?楽しみっす」
「獣王に聞いた話だと、思い出したい者はこの羽根に手をかざせばいいんだろう?」
「摩訶不思議なのだ。そんなことで記憶が甦るなど」
羽根を中心にして、皆で囲むように輪を作る。6人が輪を作るのだから、正直きつきつである。
「皆準備はできたか?」
ルークスリアが確認をとる。
私は正直半信半疑だった。だって異世界の摩訶不思議アイテムで思い出されるのは『ヘケトの小瓶』みたいな紛い物である。この世界、意外と不思議はないのだと思い知らされてきた。
だからこの羽根も、実は…みたいなガッカリパターンが用意されているのだろうと踏んでいたのだ。
「行くぞ」
ルークスリアの掛け声とともに、皆でいっせいに手を翳した。初めはじんわりと目眩のように意識がぼんやりとした。耳鳴りとともに視界が端から黒くジワジワと染まる。
近所の公園。近くには高校生たちがよく買い食いに立ち寄るタイ焼き屋さん。公園内には小学生くらいの子どもたちが何人かいる。熱い夏の日だったのか、そこまではよく分からない。小さな少年少女。少年は少女を気遣うように見やっている。少女が口を開く。
『たくちゃんは、私にとって特別だもん』
ハッと気づくと、それは一瞬のことだった。私の対面にいるイザークの驚いた顔が目に飛び込んできた。
「驚いたな…」
ルークスリアの声が聞こえる。彼女を見やると懐かし気で切なそうに目を細めながら呟いた。
「母の形見の短刀があったのだが、そうか、あんなところにしまいこんでいたのか。母との思い出は辛くて、無意識に思い出さないようにしていたのだな」
彼女の母は転落事故で亡くなったと聞いている。どうやら思い出の品の場所を思い出せたらしい。と言うことは、ゴールデンイーグルの羽根は本当に機能したのだ。
そうであるなら、さっきのは何?
『たくちゃんは、私にとって特別だもん』
そう言えば引っ越してきたばかりの頃は、彼はみんなに『たくちゃん』と呼ばれていた。確かに、そんなことがあったなと忘れたことが思い出された訳だけど。
しゃべっていたのは誰?
暗く、卑屈そうな見た目の女の子が、不機嫌そうにそう呟いていた。あの女の子は一体誰?
大事なところが思い出されない。ちょっと、何なのこの中途半端は!
「ルークスリアさん、ずるいっす。僕、何にも起こんないんすけど」
「ハイノは忘れていることがないのではないか?」
「そんなことがあるのか?それがしはほんの200年程前の祝いの席での詳しいメニューを思い出したのだ。全く忘れることがないなんて、ありえないのだ」
「ハイノは知識を欲する魔族だからな。知識の保管にかけて他の者たちよりも長けているのかもしれない」
それぞれ何を思い出したかの報告をし合う。しかしハイノはスゴいな、なんて感心することは私にはできなかった。ただひたすら心臓の鼓動が速まる。一体私は何を忘れているんだろう。
「マーガレットはどうだった?」
「私は…小さい時のこと、かな?」
「やはり皆何かしら思い出してるのだ。ハイノ、本当に何も思い出せなかったのか?」
「僕だってこんな摩訶不思議体験したかったっすよ」
わいわいと話は続く。私はそんな楽し気な雰囲気の中、誰にもバレないようにひっそりとしていた。嫌な感じがする。私が忘れていることは、あまり良くないことのような。
あの女の子は一体誰だろう?どうして見覚えがないんだろう。記憶ということは私が体験したことのはずなんだから、覚えがないなんておかしいのに。
***
一晩眠り、朝早くに起床した。身支度も整え、今日はもうそれぞれの目的地に向けて出発である。
グラやドロシー、キャシーだったり、祭りに参加していた獣人たちが見送りに来てくれた。その中に、スコットの姿はない。
「見送りにも来ないなんて。昨日の敵は今日の友って言うのに、スコットったらどうしたのかしら」
プリプリと怒るドロシーには申し訳ないが、私は何となく予想していた。私がこの場にいるのだから、スコットは来れないのだろう。いつか彼と和解できればいいのだけれど。
「マーガレット、大丈夫か」
イザークが心配してくれる。私が落ち込むのはお門違いだし、やっぱりみんなにこうやって心配かけてしまうのは良くない。だからきちんと笑って大丈夫だと伝えた。
そうしたら、イザークは安心したように「そうか」と笑った。今まで見たこともないくらの満面の笑みに見えた。
「・・・イザーク、どうしたの?」
「何がだ?」
「何か、いいことでもあった?」
感情の乏しいイザークの、こんな感情が駄々漏れな笑顔は初めて見た気がする。そりゃ、笑ってくれてるのはとっても嬉しいけれど、何だか調子が狂ってドギマギしてしまう。
「いいこと・・・そうだな。その通りだな」
ニコニコと笑うイザークに、私は普段通りにいられなくて戸惑ってしまった。それでも、イザークが嬉しそうにしているのだから、それは良しとしておこう。
私たちは改めて獣人たちとハイノに別れを告げてグラトナレドを発った。ハイノはキャシーと楽し気に話をしていたので、グラトナレドでもきっとすぐに馴染んでしまうことだろう。こうして私たちは、次の目的へと向かうのである。




