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メタァな厨二病男子とチートなお節介系幼馴染は果たして純潔を守れるか!?  作者: アシタカ
第六章 獣人領・グラトナレド編
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第71話 心無き謝罪

 準備もあるので勝負は次の日となった。

 出場選手を話し合うことになり、弓勝負ということでまずはルークスリアが買って出た。あともう1人はどうするかが問題である。


「魔法で射抜けばいいってことだよね?」


 であれば私も『氷結矢フリーズアロウ』など撃てるので、志願させてもらった。視線は合わなかったけれど、何となくスコットは私が出てくることを望んでいる気がしたのだ。カルヴィンが不安そうにこちらを見ていたが、任せてもらえることになった。

 収穫祭はなあなあになって終わってしまったので、新たな催しに獣人たちは興奮冷めやらぬ様子である。


「ドロシーはとっても弓が上手いんだからね!」


 キャシーが得意げに挑発してきた。今はまだ準備の段階で、獣人は収穫祭が不発だった分を取り戻そうとするかのように準備に力を入れていた。キャシーは魔族と分かった後でもこちらに近づいてきて変わらない態度だ。


「魔族は何ともないの?」


 他の獣人と言い、わざわざ絡みに来たキャシーと言い、何だか人族の反応とは違う気がして聞いてみた。


「うーん…」


 キャシーは少し困った顔をして、周囲を確認してからコッソリしながら教えてくれた。


「実はね、獣人はエルフとか魔族とかみたいに寿命は長くないから、先の戦争をリアルタイムで知ってる獣人ってほとんどいないんだよね。だから魔族をきちんと見たことのある獣人って稀だし。私もおばあちゃんから話聞いただけだから実感が湧かないっていうのが正直な気持ちかな」


 キャシーは素直である。その表情に嘘はなさそうだ。収穫祭の時はあんな妨害までしてきたというのに…競い合うことから離れたら、途端にアッサリしたものだ。


「冒涜的なんちゃらってのも、実はちゃんと分かってないんだよね」

「人族の王の宣言すよ。『生きとし生ける者は創造主たる神より尊き身体を授かりこの世に生を得たものである。それは生命の神秘とも言える神聖なる領域である。しかし、神より与えられしこの神秘の領域を侵す冒涜的生命が存在する。我々はその冒涜的生命を「魔族」と呼び、断固たる信念を持って排除し神より与えられし神秘を守る』」

「すごーい。よく覚えてるんだね」


 ハイノがまたあの宣言をスラスラ暗唱すると、キャシーは本当に感心したようだった。その反応が予想外だったのか、ハイノはビックリした顔の後、照れくさそうに頬を掻いた。


「冒涜的生命も何ともと思わないの?」

「本物を見ちゃったら、どう思うかは分からないかも。正直貴方達が魔族だって聞いても、やっぱり見た目人族にしか見えないから」


 キャシーはあまり私たちと会話していてもまずいので、「負けないからね」と宣言すると去って行った。ハイノはその後ろ姿をじっと見つめていた。


「獣人は本当に大らかな種族っすね」

「そうだね」


 キャシーの意外な反応の余韻に浸るかのように、ハイノはずっとキャシーが去って行った方を見ていた。魔族にとって、ああいう反応は珍しいのだろう。

 その日は泊まっていた宿に再び泊まらせてもらえた。正直、魔族とバレたからには覚悟していたのだが、拍子抜けである。お金は払っているので魔族と言えど客でもあるということらしい。

 きちんと休養が取れて勝負を迎えることができた。私とルークスリアは会場となる広場へと向かった。会場は簡易的な出店などが並び、皆一様にお祭り騒ぎであった。


「それではこれより、エルフとの弓勝負といきましょう」


 皆の前に立ち、グラはルール説明を始める。


「リンゴを用意いたしましたので、選手はそれぞれ順番にこのリンゴを射ぬいてもらいます。全員が射ぬければ一歩後方に移動させ、再度順番に…これを繰り返し、最後まで射ぬけたチームの勝ちといたします」


 そこには山積みにされたリンゴが用意されていた。あれが的になるという訳だ。しかし私は説明を聞きながらも、ソワソワと落ち着かない気持ちだった。選手は全員前へと進み出たのだが、あの明るい気さくなスコットに表情はなく、近寄りがたい雰囲気を醸し出しているのだ。

 気まずい気持ちと、色々複雑な気持ちが渦巻く。何とか話しかけられないかとタイミングをはかってもいるのだが、スコット自体話しかけにくい雰囲気となっているので勇気がでなかった。


「ちょっとスコット」


 しかしそう思っているのは私だけなのかもしれない。ドロシーは何のためらいもなく話しかけていた。


「貴方、弓勝負で私に勝てたこと1度もないじゃない。これは、私ががんばるしかないってことね」


 ドロシーはなぜか味方のスコットにまで挑発的だった。しかしスコットは「あぁ」と返事するに留まり、ドロシーの期待した反応は返ってこなかったようだ。


「…どうしたのよ?」


 やっといつもと違うスコットに気付くが反応は返ってこない。そんな中、グラの話はまだまだ続いていた。


「勝者には褒美を与えましょう。獣人は好きなことを願い出てください。そちらは…もう決まっているんですよね?」


 突然話題を振られ、思わず動揺する。グラはこちらの返答を待っていて、答えざるを得ない状況だ。でも、こんな大勢の前であのこと言わせる気なの?


「我々は獣人の『暴食の甕』の放棄を要求する」


 私が答えなかったからか、ルークスリアが宣言してくれた。しかしそれにより獣人たちは騒然とする。


「『暴食の甕』って、あの水が出てくる甕のことだよな」

「エルフはまた我々の食い扶持を潰すつもりか?」

「森の独占では飽きたらず、やっと我々が見つけた稼ぎをダメにする気なんだ!」

「飢えて苦しむ獣人を見て喜んでいるに違いない」


 ざわざわと不穏な空気は蔓延し、やがて鋭い敵意がこちらに集中する。ルークスリアも反応が分かっていたとは言え、眉間にぎゅっとシワを寄せ唇を真一文字に結んだ。


「さぁ、勝負といきましょう。獣人よ、負けは許されない戦いですよ。我々の未来のためにも勝ちましょう」


 グラがそう述べて開会の宣言とすると、勝負は始まった。

 こんなアウェイな状況を作り出して、卑怯ではないか。私はキッとグラを睨み付けたがグラは変わらない笑みを浮かべたままだ。初めからこうするつもりだったんだ。

 順番はスコット、私、ドロシー、ルークスリアと決まった。リンゴが用意され、スコットが初めに構える。初手は問題なくクリアされた。私も他の選手も難なく射抜く。

 全員が射ち終わると一歩後方へ下がり、を繰り返す。しかし外したらそれでお仕舞いな勝負のため、緊張感があった。1つでも外せばリタイアなのである。手に汗も握ってしまう。

 何より私はスコットが気になって仕方がなかったのだから、もう感情としてはゴチャゴチャである。そうしてチラチラと見ていたら、ある時ふと目があった。スコットは視線を外そうとしたのだろうけれど、何か迷ったのか一瞬遅れた。

 それを見て私は今何か言わなくてはと焦って口を開いた。


「ごめんなさい…」


 何も言う言葉が見つからず、咄嗟に出たのはそんな謝罪の言葉だった。しかし、今まで無表情だったスコットの表情を崩すのはこれで十分だった。

 カッと目を開き、怒りに眉を吊り上げた。

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