第67話 エルフの弓術
ゴールデンイーグルが巣を作っているのは森の奥深く、開けた草原の所に佇む巨木だそうな。
そこは隠れられるような草木がなく、巣に近づくためには身を晒して近づく他ないらしい。そして近づいている間に気付かれ、空中からの攻撃を受けることになるんだとか。
さらに隠れるところがないため、攻撃され逃げるには結構苦労することになるようだ。
「ちょっとズルいんじゃない?そんな情報全然教えてくれなくて、獣人だけ」
「別にズルじゃないもん。聞かれなかったから教えなかっただけだしー」
私の不満にキャシーはべっと舌を出す。自分の今の状況分かっているんだろうか。
私たちは必要なことを聞き出すと、キャシーとドロシーを近くの木に蔓延っていたツタでグルグルに巻いて動けないようにしていた。
「もう他の獣人たちは巣の近くまで行っているはず。残念だったわね」
「あんたたちのチームは優勝は良かったんすか?」
「仕方ないよ。おばあちゃんにあげたかったけど、エルフに優勝取られるよりはずっとマシ!」
どうやらキャシーたちの残りのチームメイトは先に進んでいたようだ。2人が行動不能となったことで他のチームメイトも強制的に脱落となるのだそう。この収穫祭は他チームへの妨害も平気であるし、何だか荒っぽい行事なんだなぁ。
「おばあちゃんにあげたかったって、優勝賞品のこと?」
「そう、ゴールデンイーグルの羽根よ。あれ、過去に忘れてしまったことを1つだけ思い出させてくれるのよ」
優勝賞品はこれから取りに行くゴールデンイーグルの羽根である。元々収穫祭は、目的の物を競って手に入れてこれを獣王に献上し、それを褒美として賜るのが習わしなんだとか。私たちはその献上の時に獣王と対面できることだけが目的だったので、その優勝賞品というのには興味を持っていなかった。
しかしそういうものが好きなのがうちのチームには一人いる。
「へー!すごいっすね。どういう仕組みなんすかね、その羽根!」
「知らないよ。おばあちゃん、畑仕事のクワをどっかに置き忘れてきちゃったらしいから、思い出させてあげたかったのに」
早速目を輝かせるのはハイノである。しかし待った待った。先ほども言っていたと思うが2人の獣人に詰め寄って話を聞いている場合ではない。私たちは後れを取っているのだ。
「現物を見て確かめれば良いでしょ。行くよ、ハイノ」
また質問攻撃をしようとしていたハイノを引き留めて、私たちはまた森の奥へと進みだす。その草原は日の沈む方角にあるようなので、太陽を確認しながら進む方角を定め、移動していく。
「まさかウソついてないと良いけど」
「力で捻じ伏せられたんだ。獣人はどれだけ憎まれ口を叩こうと強き者は認める。ウソはないだろう」
イザークに豆知識を教わりながら、私たちはまた進んでいった。様子がおかしく罠が張られている箇所は、基本的にルークスリアが違和感に気付いて対処してくれる。伊達に森で育っている訳ではないようだ。
「見ろ」
そして、暫く進んだ先でやっと開けた場所に出た。聞いていた件の巣がある草原である。腰を屈め、まだ草木の茂る場所からその巨木の方を窺い見てみると、鳩兵隊の新兵たちが隊列を成して巨木に近づいているところだった。
「やっぱりみんなもう着いてたんだ」
「だが、まだチャンスはあるようなのだ」
焦りも感じたが、観察していると近づいた鳩兵隊たちはみなゴールデンイーグルに威嚇され、近づいては散り散りに逃げてを繰り返しているようだった。
「さすが、この森の主の座についた魔法動物ね。一筋縄じゃいかないみたい」
それよりも、気になることが。ゴールデンイーグルって名前だから、キンキラキンのピッカピカな鷲をイメージしていたのだが、どう見てもただの大きな鷲である。全然ゴールデンじゃない。
「もっとキラキラしてるのかと思ってたのに・・・」
「そんなこと気にしてる場合じゃないのだ。魔法も使えずこのように不利な地形。どうしたものか」
カルヴィンもさすがに飛ぶことも禁じられた状態で空中からの攻撃を受けるのはやり辛いようだ。きっと竜人になれたらどうってことないんだろうが、今は人族のフリをしている。
しかし悩む私たちを尻目にルークスリアは「任せよ」と頼りになる一言とともに、背負っていた弓を準備し始めた。
「このようなこと本意ではないが目的を果たすため止むをえまい。エルフの弓術、ご覧に入れよう」
取り出した弓は長年使っているのか年期がかっており、ルークスリアは大切そうにそのしなやかな曲線を指でなぞると矢筒から矢を一本抜きだし構えた。
「威嚇射撃する。こちらに飛んでこれば戦いようもあろう。来なかったとしても奴は遠距離攻撃できずこちらはできるという状況だ。向こうが不利なことに変わりはない」
ルークスリアは弓を構え、弦を引き絞る。静かに狙いを定め、鳩兵隊がまた散り散りに遠のきゴールデンイーグルが油断した瞬間で、矢を放った。矢は力強く飛び、ゴールデンイーグルの近くを抜け巣の作られている大木に刺さった。ゴールデンイーグルは驚き高く上昇し、上空を旋回し始める。
そこにさらに追い打ちをかけるようにまたルークスリアは矢を放った。今度は難なく避けられるものの、ゴールデンイーグルは自身に攻撃を仕掛けてくる我々の存在を認識したようだった。
「来た!飛んでくる!」
「よし、狙い通りなのだ。イザーク、行くぞ」
「ああ」
こちらを攻撃対象と認識したゴールデンイーグルは再びの攻撃を避けるためかなり高い上空を飛んでいるが、こちらへと近づいてきた。そして、何回か旋回した後、照準を合わせたのか勢いよく下降してくる。カルヴィンとイザークは声を掛け合うと近くの木をサッと登って行った。
勢いよく近づいてくるゴールデンイーグルの動きを止めるため、カルヴィンはある程度の高さまで登ると短刀を抜き、威嚇するように投げつけた。飛んでくる武器に怯み勢いを殺したゴールデンイーグルに、今度はイザークが飛びつき組み付く。さすがに大人の男性一人分の重さを支えることができず、ゴールデンイーグルは墜落してくる。これがほんのわずかの間に行われるのだから、私としては呆気にとられてしまう。
「何か打合せでもしていたの?」
「いや、即興っすね。さすが、戦いに慣れた人たちは違うっすね」
私の横で同じく見ているだけだったハイノが感心している。何だか私とハイノ、全然役に立っていないけれどいいのだろうか。それでも地面に押さえつけられたゴールデンイーグルを見て、これで獣王と対面することができると喜びかけた、その時だった。
「横取りは許さんぞ!」
「どけどけー!」
突如、白い塊がまたすごい勢いで飛んできた。忘れていた鳩兵隊である。
彼らは5羽全員、弾丸の如くイザークに向かい飛んできた。ルークスリアとカルヴィンが反応し、止めに入るが先頭を飛んでいた鳩兵隊の1羽はイザークの元へと辿り着き、その鋭い嘴で攻撃してくる。
避けようと咄嗟にイザークが身体を動かした隙をつかれ、ゴールデンイーグルは再び自由となり逃げてしまった。
一体何してくれてんのよ!
「どうもこうも、先にこの場に辿り着きゴールデンイーグルの羽根奪取の任務に取り組んでいたのは我々鳩兵隊である!横取りのような卑怯な真似は許さんぞ!」
「そうだそうだ!」
先頭を飛んでいた鳩兵隊はリーダーらしく、その鳩胸を張りながらこちらを威嚇してきた。




