第64話 多種族混合チーム
「マーガレット!」
「ルークスリア!」
私たちは久しぶりの再会に喜び、思わず駆け寄り手を取った。ルークスリアは相変わらず美しく、凛としている。あの日、貝合わせにて報告をしてから3日後。ルークスリアはすぐにグラトナレドまで来てくれた。隣にはちゃっかりハイノが着いてきていて、どうやら本当に収穫祭を見に来たようだ。今は私が取っている宿の一室で全員顔合わせをしている。
「ごめんね、来てもらっちゃって」
「構わぬ。わらわも魔女の秘め事が気になるからな。それよりも・・・」
ルークスリアは微笑み、それからイーラたちへと視線を移した。
「そちらの紹介をしてもらえるか?貝合わせのときにも共にいた者だろう」
若干警戒した声音でルークスリアがそう言うと、明るいハイノの声がすぐに割って入ってきた。
「ルークスリアさん、僕知ってるっすよ。彼はイーラ、前代魔王っす!」
「やはり魔族か・・・いや、魔王!?あの歴代最強と謳われる前代魔王か!?」
魔族であることは予想していたようだが、まさかの魔王に流石のルークスリアも驚きを隠せなかった。まぁ、私たちは魔族領へと旅立っていったしある程度の予想はしていたのだろうが、さすがに魔王と行動を共にしているとまでは予想していなかったのだろう。
「いかにも。俺はイーラ、前代魔王様だ。よろしくな、エルフよ」
「・・・このような幼き者が魔王だと?」
「ちょっと魔力不足でな。見た目が小さくなってしまっただけで本物だぞ」
ルークスリアはそれを聞いた瞬間、嫌悪とも言える複雑な表情を見せた。しかしすぐに自らの態度に気付いたらしく「すまない」と謝罪を口にする。
「最近、魔族には少し慣れてきたつもりでいたが、やはり・・・」
「ま、価値観なんてすぐには変わらないものだ。俺は気にしていない」
多分、見た目が変化したことに対してルークスリアの中でも『冒涜的生命』としての相手への嫌悪感が湧いてきたのだろう。私は正直、身近な人のそんな態度を見てしまったことでかなりショックだった。しかし、私よりも過剰に反応したのはカルヴィンだった。
「不愉快なのだ!こんな者がエルフの女王とな?マーガレット、なぜこんな者を呼んだのだ?確かに祭りに参加するためにはあと1人必要とはいえ、エルフのような差別主義者などがいてはチームのためにもならないのだ。もっと別の誰かを呼ぶべきであった!」
「カルヴィン、落ち着け」
「・・・失礼な態度を取ったことは詫びよう。しかしそちらの都合で打診しておいて、その態度はなんだ?マーガレットの友人であるから今回は許すが、そのようにエルフを侮辱する発言を続けるようであれば容赦はせんぞ、魔族よ」
「それがしは魔族ではない!誇り高き竜人族なのだ!」
「竜人族?竜人が、なぜ魔族と共に行動を?」
一気に場は混乱してしまった。色々な種族が集まるとどうにも収集がつかなくなってしまうようだ。私は慌てて空気を変えようとハイノに声を掛ける。
「えーと、本当についてきたのね、ハイノ」
「もちろんすよ。知りたいことがあれば僕はどこへでも駆けつけるっす」
「これで収穫祭への参加もばっちりね!」
しかしながらハイノも来たので人数過多とも言える。収穫祭への参加は5人だ。私、イザーク、イーラ、カルヴィン、ルークスリアにハイノ・・・どうしたもんかと思っていたらイーラが手を挙げた。
「俺は不参加で良い。見ているからしっかりと優勝を掴んで来いよ」
「不参加って。力のある者こそ参加すべきでしょ?歴代最強が真っ先に出るべきじゃない」
「そうは言ってもな、今回俺は何の役にも立たん」
どういうことなの?そう思ったら、イザークが代わりに教えてくれた。
「収穫祭は、純粋な力比べだ。魔法は一切禁止されている」
「え!?」
魔法を使える者は稀だ、というのは獣人も一緒らしい。そう考えるとスコットは獣人の中では珍しい部類だったのだ。そして、魔法を使えない者たちが大多数参加する収穫祭は、魔法は禁止となっているようだ。
「元の姿の時ならまだしも、こんな幼い身体じゃ力も出せないからな」
イーラは「参加できなくて残念だ」と薄ら笑いだった。多分、絶対にそんなこと思っていない。力比べってのが面倒だったのだろう。
しかし、私も多少鍛えたとはいえ10代の少女である。純粋な力勝負って言われたら自信なんてない。しかも獣人は他の種族に比べて身体能力が高いことでも有名だ。
「こんなの、本当に優勝を狙えるの?」
私は一気に不穏になった先行きに、不安を隠すことができなかった。
***
私がどう思っていようとも日は過ぎる。そうしてついに、収穫祭の日がやってくることとなった。正直、悪あがきで腕立て伏せとか色々してみたけれど、焼け石に水ってやつだと思う。
グラトナレドの大広場にて、参加チームはそれぞれタスキのようなものを持って集まった。私たち5人も同じ色のタスキをかけて集合した。しかしながらこの数日間でも結局カルヴィンとルークスリアは仲直りができなくて、私たちのチームはいきなり険悪なムードである。
「おいおい、ちゃんと協力して挑めよ。これはチーム戦なんだからな」
高みの見物のイーラが観客用に用意されたベンチに陣取りながらこちらへヤジを飛ばしてくる。わたしだってできたらそうしたいのは山々なんだ。
だとしてもプライドの高いエルフと竜人はすっかりそっぽを向いてしまっていて取り付く島もなさそうだ。何だってこんな急にケンカができるやら。
「イザーク、とにかく私たちでフォローするしかないかも。がんばりましょう」
「ああ」
イザークは一応返事をしてくれたが、好奇心旺盛なハイノを抑え込むために気を取られていて生返事だった。これって、もう最低な状態なんじゃない?
「よう、マーガレット。今日はよろしくな」
「スコット。あなたたちも参加なのね」
「当たりめぇよ。収穫祭に参加しない野郎はいねぇよ」
スコット含めグラトナレドを訪れた初日、食事処で会話をした獣人たちがチームとなっていた。正直誰も彼も筋骨隆々って感じでがたいが良い。もうとんと勝てる気がしなくなってきた。
周りを見回してみれば老若男女様々な獣人のチームがいる。中にはあの鳩兵隊の軍団も見て取れた。鳩軍曹が新人たちに叱咤激励を贈っている。
「良いか!誇り高き鳩兵隊であるならば、敗北は許されない。諸君ら新兵の初任務は、この収穫祭の優勝をもぎ取ってくることである。経過は必要ない。結果で全てを示すように!」
「はい、軍曹!」
「声が小さい!」
・・・元気そうなものである。私は改めて自分のチームに目をやった。
竜人のカルヴィン、エルフのルークスリア、魔族のイザークとハイノ、人族の私の多種族混合チームである。
「わらわの足を引っ張るような真似はせぬようにな」
「こちらのセリフなのだ」
空気は、今の所最悪である。




