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メタァな厨二病男子とチートなお節介系幼馴染は果たして純潔を守れるか!?  作者: アシタカ
第六章 獣人領・グラトナレド編
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第61話 収穫祭

「それにしても、久しぶりですね。助けてくれてありがとうございます」


 私は検問を抜け、助けてくれた獣人にお礼を述べる。


「良いよ、まさかこんなところで会うなんて思いもしなかったぜ」


 そう言って気さくに笑うのは、闘技大会で戦った狼獣人のスコットである。彼は私を見つけると仲間に取り成してくれて、難なく入国することができたのだ。

 そのまま一緒にグラトナレド内へと入ってきて、私は感謝の気持ちを伝える。


「本当、どこかの薄情な誰かと違って、スコットは本当にいい人ですね」

「そんなに怒るな、マーガレットよ」


 しかし私の嫌味も通用しないかのようにイーラは後をついてくる。もう一緒に行動なんてしたくもないんだが、イーラは相変わらずニヤニヤしながら「悪かったって」と軽く謝罪してくる。信用ならないなんてもんじゃない。


「イーラ、いくらなんでも先ほどはやりすぎだ」

「すまん、すまん。ちょっと焦ってしまってな。悪気はなかったんだ」


 イザークも窘めてくれるが、奴の言ってることは絶対にウソだ。初めから私を売ろうとして連れてきていたに違いない。だっておかしいと思っていたんだ。私なんかをどうして連れていきたがっていたのかと。人族だから魔族や竜人族のように差別対象として酷い扱いは受けないだろうって思惑なんだろうけれど、酷すぎる。


「とにかく俺の生まれ故郷にようこそ。観光だって?この時期にってことは、祭りを見に来たんだろう?まずは旅の疲れもあるだろうし、飯でも食おうぜ」


 スコットは気さくにそう声を掛けてくれて、私はイーラへの不満もあるがとにかく腹ごしらえとなった。スコットの連れて行ってくれたご飯処は大衆食堂みたいなところで、大勢の獣人たちが昼食を楽しんでいるところだった。


「そういや、あのナイトって奴はどうしたんだ?いないじゃないか」

「あぁ、ナイトはちょっと今は別行動で・・・」


 そう言えば、スコットとはトルペで出会ったのだが、あのライナルトの騒動の時は見ていないのだろうか。もちろん、あの現場を目撃していたら私たちにこんな友好的なはずがないけれど。


「スコットは、闘技大会で戦ったあの後はどうしてたの?」

「ああ、あの後トルペで魔族が出たんだろう?大変だったなぁ。俺は、あんたと戦った後はすぐにトルペを出てここに帰ってきたからな」


 スコットがそう答えた瞬間、どこからともなく愉快気な口調で「ウソつけ!」とヤジが飛んだ。


「すぐなんて、そんなはずないだろう?」

「そうそう。何隠してんだよ、スコット」

「いや確かに、すぐはすぐなんだろうさ。最も、目的地はここじゃねぇけどな」


 どうやら親しいらしい獣人族たちがニヤニヤしながらスコットへと声をかける。途端に少し焦ったようにスコットは応対した。


「うるせぇ。別にいいだろ」

「ま、気持ちは分かるけどな。こいつ、大会に負けたらすーぐにゾンネンブルーメに向かったんだぜ?」

「むしろ、一回戦で負けたのはそこに行きたくて気持ちが入ってなかったからじゃねぇか?」

「ゾンネンブルーメに?」


 一体、何の用事だったのかとキョトンとしていると、1人が教えてくれた。


「こいつ、姫巫女さまに会いに行ったんだよ」

「生意気だよな。俺らもみんな、全然会ってないって言うのに抜け駆けしやがって」


 どうやら獣人族には最近、千年に1人とも言える逸材の姫巫女が誕生したらしい。今は所要あってゾンネンブルーメに滞在しているようで、スコットはそこに会いに行ったんだとか。ゾンネンブルーメにいる獣人族ってまさか、と思ったら案の定。


「やめろよ、お前ら!」

「こいつ、ゾンネンブルーメの獣キャバに行ったんだよ。知ってる、お嬢ちゃん?」

「獣キャバ・・・」


 一体、どんな偶然なのやら。私が驚きに呆然としているのをどう捉えたのか、スコットは慌てたように訂正してきた。


「誤解しないでくれよ、マーガレット。キャバクラとは言っても、姫巫女さまがそこで働いているのにはちゃんと理由があるんだ」

「そうそう、出稼ぎとかそんな訳じゃないからな、そこは誤解しないでほしいとこだ」

「理由って言うと?」


 注文していた料理が到着した。私以外のメンバーで、主にイザークを中心に話よりも食事に意識がいってしまったようだが、私は知り合いの話が出てきて聞かずにはいられない。スコットは屈託のない笑顔で教えてくれた。


「ちょっと調査に出向いているんだ。キャバクラはそのカモフラージュさ」

「調査・・・カモフラージュってことは、潜入捜査みたいな、そんな感じってこと?」


 何だか危なげな雰囲気だ。ちょっと心配であったがスコットも周りの獣人たちも気にした様子はない。それどころか誇らしげに教えてくれた。


「護衛として腕の立つ獣人を2人つけているんだ。彼女たちは自分の使命を全うし、姫巫女さまを命がけでお守りするだろうさ」

「獣人として生まれたからには、我々は己の身を磨き、力を持っていなくてはならない。獣人族にとって力とはその人物を信頼するべく指標の一つでもある」


 なんだか魔族と少し似ているところがあるな。そう思ったけれど、それを言うのはちょっと地雷を踏んでしまう気がするので止めておくことにした。


「そうなんだ・・・それで、その調査って言うのは何なの?」


 私がそう質問を投げかけると、スコットたちは全員顔を見合わせ、「全く知らんな!」と一斉に笑いだした。表情などを見る限り、隠していたり誤魔化していたりするのではなく、本当に知らないのだろうことが分かる。

 ペラペラと重大そうなことを話してしまったり、一族で大事な姫巫女さまの任務を知らなくても全く平気だったり、獣人族っていうのは大らかと言うか大雑把と言うか豪快と言うか・・・

 私が呆れてしまい何も言えずにいると、食事をとっていたカルヴィンがふと顔を上げた。


「ところで、先ほど祭りと言っていたが、何のことなのだ?」

「お?何だよ、祭りを見に来たんじゃなかったのか?」

「なんだ、俺たち獣人族の祭りも有名になってきたもんだって思ったが、そうでもないのか?」


 そう言えば、食事処に来る前にスコットが言っていた。そのまま聞き流していたのだが、一体何があるのだろうか?


「ほら、あそこに貼ってあるだろう?」


 スコットが指さす先に貼られたポスターは、このグラトナレドに来てよく目にしていたものだった。いまだ文字は読めない私は隣に座るイザークに机の陰からこっそり肘で押して読んでほしいと合図を送った。


「『収穫祭』か・・・」

「ああ。グラトナレドは正直、あまり豊かじゃなかった。基本食料の調達は狩りだったが、この辺りの地域は土地が痩せていて作物が育ち辛く、獣もあまり多くはない。豊かな森の恵みがあるのはエルフの奴らが陣取っちまったご神木の辺りだが、あの辺で狩りをしようものなら森を荒らすなとかエルフに因縁つけられる始末だ」

「でも、最近人族のある人物が商談を持って来たんだ。奴はある植物を育てたらそれを高値で買い取り、世界に流通させようって言ってきた」


 ある植物?それってどう考えても・・・

 私がちらりとイーラに視線を送ると、イーラもこちらの視線に気づき、周りに気付かれない程度に小さく頷いてみせた。


「正直、獣王は初め疑って話を聞かなかった。でも、食料不足も問題が大きくなっていて、そんな中で姫巫女さまが仰ったんだ。『獣人族の皆が飢えずに暮らせる選択をしよう』ってな。その為には、新しいことも試してみるべきだと。そこで、獣王はその考えを改め人族と取引することにした」

「それが何とか軌道に乗って、今は食べ物に困ることがなくなった。それで、感謝と今後の収穫を祈って『収穫祭』を行うことにしたんだ」


 それが、今度行われる『収穫祭』の始まりらしい。

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