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メタァな厨二病男子とチートなお節介系幼馴染は果たして純潔を守れるか!?  作者: アシタカ
第六章 獣人領・グラトナレド編
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第60話 入国審査

 カルヴィンの背に乗れば、スロテナントの険しい山脈も軽々越えられる。

 私たちはドワーフ族の里からカルヴィンの背に乗り飛び立った。元々、山道が険しすぎて徒歩では越えるのが困難なため海路を使って移動したのだが、距離で言えば山を越える方がよっぽど近いのだ。


「でも、誰かに見られるとまずいのよね!?」

「ああ。竜人族もやはり未だ冒涜的生命と他種族に認識されている場合が多い。グラトナレドはエルフと同じく森の中に集落があるからな。少し遠くに降り立ち、あとは歩いていくのが良いだろう」


 カルヴィンの背中は風をよく受け喋るのも一苦労だ。しかしそれはイーラも同じはずなのに涼しい顔である・・・何か魔法でも使っているんだろうか。

 イーラが「冒涜的生命」の言葉を口にしたら、カルヴィンは鼻を鳴らし少しスピードを上げた。やはり、そう言われるのは許せないのだろう。さらにその背中にしがみつきながら、しかし私は少しだけワクワクする。


「うわぁ、イザーク、あれ!」


 私は思わず隣に乗るイザークに興奮気味に声を掛けた。眼下に広がる森の中でも、ご神木は大きく背が高い。上空から見ても一発で分かってしまう程巨大で生命力に溢れていた。

 下からは何度も見ていたが、上空から見るとその大きさは圧巻である。あの根元にエルフの集落があるのか。何だかちょっと感動的だった。


「ご神木は樹齢何千年の大木だからな」

「すっごいのねぇ。聖女とか魔女とかの話がなくっても、祀られる気がするわ」


 エルフたちはみんな元気だろうか。エスターは弓が撃てるようになっただろうか?何だか少し前のことだったのに、今はとても懐かしい気持ちになる。それほど旅は波瀾万丈で大変だったのだ。


「次に行くグラトナレドは、どんなところかしら」


 エルフはこちらに非がなければ友好的であった。ただし、一度怒れば有無を言わさず投獄というのもあったけれど。獣人たちは一体、どんな種族だろうか。獣キャバで会った子たちは、みんな元気で良い子たちばかりであったが。

 今私たちはかなり上空を飛んでいる。あまり低い位置だと誰かにすぐ見つかって騒ぎになってしまうかもしれないからだ。空高くから見下ろす森はご神木以外はどこも木々が生い茂ってるせいで集落なんて分からない。一体どの辺りに住んでいるのかも私には検討もつかなかった。

 カルヴィンはイーラの指示に従いご神木の方角とは別の方向に飛んでいた。


「獣人族は基本的に陽気で気の良い奴らだ。ただ、あまり頭を使わず拳で語る所があるからな。今回の話を分かってもらうのに、どのくらい掛かるかってとこだ」


 イーラが私のつぶやきを拾い答えてくれる。うーん。脳筋ってこと?

 思わず失礼なことを考えていたら、あの猫娘の怒った表情が思い出された。カッカしたら大変そうだな。


「よし、あの辺りにしよう。これ以上獣人領に近づくのは危険だ。慎重に降りろよ、カルヴィン。獣人族に見つかったら面倒だからな」

「承知したのだ」


 カルヴィンはイーラの示す下降地点に向けて、スーッと降りていく。そこはまだ山脈を越えて間もない場所で、深い森の中であった。


「イーラは獣人族の領土がどこにあるのか知ってるのね」

「少し前ではあるが、ライナルトに世界地図を持ってこさせたことがあるからな。一度地図を見ていればどの辺りにあるかは、大体分かるだろう」


 うーん、優秀ではあるけど嫌みな奴だ。小生意気な少年が特別でも何でもなく澄ましてそんなことを言えばモヤモヤしてしまうものである。


「マーガレット、気分は大丈夫か」

「うん。楽しかったし、ありがとねカルヴィン」

「誇り高き竜人族の背に乗れるなど、本来ならばなかなかあり得ないことだからな。しっかりとその有り難みを噛み締めるのだ」


 ああ、こっちも厄介な性格であった。カルヴィンはすでに黒髪の麗人の姿へと変身を遂げており、ミステリアスなその美貌で得意げにそう宣った。


「さ、みな歩くぞ。マーガレット、しっかりついて来いよ」



 ***



 一度野営をし、一晩越えた次の日には獣人族の領土へと着いた。そこは喉かながら活気のある町であった。しかし、その町のすぐ近くには農道があり、育てられている作物はどれも魔除け薬のようであった。

 あれのもたらす効力を聞いた後の私としては、おっかなくて仕方ない。


「マーガレット、急に『あの薬は危険だから栽培を止めろ』なんて民間人に声かけるなよ。それこそパニックになるからな」


 町の近くに来るとフードのついたマントを羽織り、イーラは顔を隠していた。やはり魔王であったイーラは顔を知られているらしい。最も今の少年サイズのイーラを知る者は近隣に住んでいたドワーフ族や竜人族くらいのものらしいのだが、それでも念のためということだった。


「分かってるよ、そんなことしないから」

「とにかくマーガレットはいてくれれば良い。俺に任せとけよ」


 イーラはそう念押しすると町へと向かった。グリーダッドの時と同じように入国には審査が必要なようで、入口の所で獣人に呼び止められた。


「お前さんたち、何のご用ですかな」

「観光だ。最近活気づいてるグラトナレドを見たいと思って来たぞ」


 イーラはその少年姿に似合わぬ不遜な物の言い方を改めることはなかった。私はハラハラしたんだけれど、まあ任せておけと言われたからには黙っていよう。


「お前たち、身分を証明できるものはあるか?最近、人族の領土に魔族が出没したらしいからな。今、グラトナレドでも魔族の取り締まりが強化されている」


 獣人は警戒心露わにこちらを注意深く観察してきた。

 それってもしかしてあのトルペ港でのライナルトとイザークのことだろうか。やはり、あの時あんなに派手に姿を現していたからか。ライナルトが途端に恨めしく感じるが、彼はきっと責めたとしてもどこ吹く風であろう。


「俺たちはもちろん、魔族じゃなくて人族さ。そんなに気になるならこの娘をやろう。存分に調べてくれて構わんぞ」

「え!?ちょ、ちょっと!?」


 私は急にイーラに押され、つんのめるように前へと出された。何とか踏みとどまりこけることは免れたが、そっと視線を上げれば目の前にはこちらを隙無く見下ろす豹の獣人が・・・


「ちょっと、何すんの!?」

「しかもその娘は冒険者の資格も持っている。身元はしっかりしてると言って良いだろう?俺は好奇心旺盛な少年だからな。早くグラトナレド領内を観光して回りたいんだ。入国審査に時間が掛かると言うのなら、その娘をやるから好きに調べてくれ。その間にでもゆっくり中を見回らせてもらうぞ」


 ちょっとどういう理屈!?

 私はイーラを睨んだが、彼がこちらに視線を寄越すことはなかった。それよりも、何となくイーラが私を強引にでも同行させた理由が分かった。イーラは獣人族から疑われるのを回避しようと私を初めから渡す算段だったのだろう。

 イザークもそれに気づいたようだったが、イーラに何か言おうとしたところで固まってしまった。何が起きたのか分からなかったが、どうやら本当に身動きが取れなくなってしまっているようだ。イザークは瞬きもできぬままピクリとも動かなくなった。またこれもイーラの魔法なのだろうか。


「好きに調べろ・・・ってか」

「そうさ。どうぞご自由にしてくれ」


 豹の獣人の表情が歪み、嫌な笑みが浮かべられる。ちょっと、好きに自由に、一体どんな調べ方をするつもりなのよ!

 イーラに売られ、もう怒りが爆発しそうになりながらも私はどうやって逃げるべきか考えている時だった。そんな時、私を救う1人の救世主の声が届いた。


「あれ、マーガレット。あんた何でここに?」

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