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メタァな厨二病男子とチートなお節介系幼馴染は果たして純潔を守れるか!?  作者: アシタカ
第五章 ドワーフ領・スロテナント編
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第59話 恩返し

※4月28日 一話前の第58話内にて、イーラのセリフにある「カトライア大陸」を「マグノーリェ大陸」に訂正しました。行く場所が間違ってしまっているので、訂正についてお伝えさせていただきます。その箇所以外の訂正箇所はありません。

「もしかして、何だかんだ言って、まさか私たちの帰し方が分からないってことじゃないでしょうね?」


 ふと、もしかして帰さないんじゃなくて帰せないんじゃないかって疑問に辿り着いた。だって、私が着いていく意味なんて全然ない訳だし、方法くらい教えてくれたっていいのに全然話に出ないし。

 私が不信の目を向ければ、イーラは「とんでもない」と私の誤解を解こうと口を開く。


「そんな訳ないだろう。ちゃんと教えてやるさ」

「ウソ。そう言って、結局帰り方なんて少しも教えてくれないじゃない」


 私が挑発的に言えば、イーラはやれやれとでも言いたげにナイトへと声をかけた。


「ナイト、荷物をちょっと広げて見せよ」

「荷物?・・・全部出すのか?」

「ああ」


 ナイトの鞄からは色々なものが出てきた。折り畳み式ナイフ、マル秘ノート、半分に切られた視聴覚室のカーテン、それからこちらの世界で揃えた旅の物資などなど。

 イーラはその中から、あのマル秘ノートをひょいと取り上げた。


「これだ。この薄い書物。これがお前たちの言う『深淵の常闇』だ」

「は?」

「お前たち、あの魔法陣を転移魔法陣と思って供物を捧げたんだろう?それがそもそもの間違いなんだ。あれは確かに転移のために使われた魔法陣だが、所謂通り道ってだけで『深淵の常闇』本体ではない。これこそが供物を捧げるべき転移魔法陣なんだ」


 この、HPをガリガリ削っていく代物が?

 確かに、あの時ナイトはこのノートを持っていた。揉みあっていた時に、私の血がまさかこのノートにかかっていたの?それで、転移魔法が発動してしまったのか。


「このノート、ナイトが作っていたんだろう。夢で見たものを忘れないように。そうやってナイトは複雑な転移魔法陣をこのノートに幾重にも重ねて写してきた。その何年もの作業の成果が実り、転移魔法陣は発動し、2人をこの世界まで連れてきたんだ」


 イーラはそう言いながらマル秘ノートを懐へとしまってしまった。


「さぁ、教えてやったぞ。後はちょっとばかし獣人族の領土まで付き合ってくれればこれも返してやるから元の世界に戻れるぞ」

「あ!卑怯者!それ返しなさいよ!」


 私が手を伸ばすとイーラをガードするようにブルクハルトが遮った。いまだ真っ青で血の気の戻っていない顔だが、やはりイーラのことはお守りするようだ。本当、誰も当てになんない。当のナイトはノートよりも魔法の訓練に気持ちがいっているようだし、いつも味方のイザークもなぜかイーラの肩を持つようで。


「イーラはずっと魔女の秘め事を全て破壊することを信念としてきた。それは、俺も協力している。俺もマーガレットたちがいてくれたら助かる」

「助かるって言われても・・・」


 そりゃ確かにご高尚な信念と思う。でも、私たちがいて一体何の役に立つって言うのよ。イザークもイーラも、私とナイトと比べ物にならないくらい力を持っているって言うのに。


「おいおいマーガレット、随分冷たいんだな。お前、この世界に来てから親しくなった者たちがいるだろう?」


 そこで思い出されるのは冒険者のパーシヴァルたちや、エルフのルークスリアたち。彼、彼女らにはとてもお世話になった。それこそ何かお返しをしなくてはならないくらいに。


「魔女の秘め事を破壊する手助けはそいつらの未来を救う行いだぞ」

「もしかして私たちがこっちの世界に来てからの動向を、その『憤怒の義眼』とやらで見てたの?」


 だから私たちが恩義を感じる人たちがいるってことを知っているのか?しかしそれは見当違いだったようでイーラは首を横に振る。


「だから俺はもうずいぶん前に秘め事は破壊している。そんなもので見なくともお前たちがこの世界に来てそんなに日が浅い訳ではないことは知っているからな。生きる者は、どうしても誰かの助けなくしては生きられないものなんだよ」


 そんなことを得意げに話されたって・・・

 何にせよ、パーシヴァルたちのためになるって言われると断り辛い。なんせ、彼らには本当に色々なことでお世話になっている。実際に、何か少しでも恩返ししなくてはと考えていたほどだ。私が、その魔女の秘め事の破壊に少しでも貢献すれば、彼らへの多少なりとも恩返しに繋がるんだろうか。


「・・・それじゃ、獣人族の領土まで。本当にそこまでだからね」

「よし、話は決まったな。出立の準備をするぞ」


 イーラは私の返事を聞くとすぐに行動を開始した。たぶん、また私がごね始める前にとでも思っているのだろう。私は近くにいるイザークにじろっと目線を向けた。


「いつもは助けてくれるのに、今回は何だって見捨てるのよ。イーラはやっぱり大事な王様だからなの?」

「いや、そんなことはない」


 いつも通りの表情一つ動かさないイザークだったが、私は納得いかない。もしかしたら私たちよりイーラの方が付き合い長いかもだし、それで向こうの肩持っちゃうっていうのは仕方ないかもしれないけれど。それでもやっぱり、この世界に来てずっと私たちの味方でいてくれたイザークの今回の対応に不満を持ってしまう。


「マーガレットたちとイーラを天秤にかけてイーラを取った訳ではない」

「そうは言ってもさ・・・」

「ただ、2人との旅を思い出していた」


 ねちっこく責めてやろうとグチグチしてみたのだが、イザークが淡々と訳を話してくれた。


「楽しかった。だから、もう少しそれが続くのも良いと思ってしまった。すまない」

「・・・」


 可愛すぎか!

 普段から感情のあまり見えない、特に喜びとかプラスの感情が分かりにくいイザークがこんなことを言うものだから、嬉しくないはずがない。

 思わず口角が上がってしまいそうになるのを耐えながらふと隣を見れば、ナイトがニマニマするのを抑えきれないままイザークのことをガン見していた。どうやら彼も聞いていて、喜んでいる模様。


「・・・まぁ、ナイトは魔王城で魔法の特訓なんですけどね」

「やっぱり、俺も一緒に旅を・・・!」

「いや、集中して魔法を覚えるのであればブルクハルトと城で訓練した方が良い。彼は俺よりも魔法に長けている」


 当のブルクハルトはイーラに付き従ってすでに寄合からは出てしまっていた。それでも、優しいイザークから、城にて攻撃をぶっ放してきていたあのブルクハルトに師匠がチェンジすることに今さら思い至ったナイトは固い表情でイザークに尋ねる。


「ちなみに、ブルクハルト・・・さんは、俺を殺そうなんてしたりは・・・?」

「心配ない。ブルクハルトはイーラの命令には絶対従う」


 イザークの言葉に全ての不安は払拭できないらしいが、ナイトはそれ以上言うことを止めた。ついでに、私は嫌味の一つでも言いたくて「獣娘にも会えないわね」なんて言ってやろうかと思ったのだが、これ以上またごねだしても面倒なので止めることにした。

 次の日には旅の支度をある程度揃え、今度は獣人族領グラトナレドへと赴くこととなった。こんなに早く移動ができるのは、カルヴィンがいるお蔭である。彼が竜化して背に乗せ運んでくれると言うのだ。旅支度はブルクハルトが魔族の資金源から何とか捻出して必要最低限を揃えてもらった。これでナイトとはしばしのお別れである。

 正直、ナイトと離れて過ごすのはちょっと不安もある。けれど、あとほんの少し付き合えば元の世界である。私は気を引き締めて、次の旅へと向かうことにした。

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