第49話 隠れ里
陸地へと到着し下船すると、アケーディアたちに続いて歩いた。そうすると以前は全くたどり着けなかったのにアッサリとドワーフの里へとたどり着いてしまった。
「前も同じように歩いてたのに」
やはりこれも魔法の力なのか。竜を無事に追い払えでもしたらどんな仕組みなのか教えてもらおう。そのくらいのお願いは許されるはずだ。
里はこじんまりとしていて、いくつもの魔法道具で溢れていた。ドワーフのほとんどが職人であるようで、作業場がいくつも軒並み集っている。ロニーから聞いたところによると、食料もほとんど貿易で他種族からの輸入に頼っているようで、今は食糧不足が深刻なんだとか。
通りを進みながら色々なドワーフを眺めてみたが、ブレンダみたいな娘は見かけない。どのドワーフ女子もみな垢抜けない純朴そうな子ばかりである。また男も然りであった。
「今日は里にお泊めしよう。竜が居ついてしまった詳しい位置などもお伝えする。その後は明日からでもすぐに竜退治にとりかかってほしい」
なぜか追い払うから一転して退治になってますが。
アケーディアは里の寄合所へと私たちを案内した。ドワーフ族は全体的に身長が低く、従って全てのものが小さい。だから一番背の高いブルクハルトなんかは出入り口でも屈まなくては入れないし、建物の中に入ったら入ったで窮屈そうだった。
席に着けば早速地図を取り出してきてアケーディアは説明を始まる。
「私たちはこちらの鉱山の麓に集落を構えている。ここがスロテナントじゃ。そして、今回竜が居着いてしまったのはこの採石場を抜けた先、この付近で発見されておる」
アケーディアは地図を指さし今の場所と竜の位置を教えてくれた。ここスロテナントは主にこの鉱山からの資源を材料として魔法道具を生成して生計を立てているようだ。特に重要なのが魔素溜まりとなっている採石場で、ここでは魔素の詰まった石・・・つまり魔法石が掘り出されるらしい。
この魔法石はブレンダの店でもズラリと並んでいるのを見たことがある。自然界に魔素は無数に存在するが、それが石に凝縮されて留まるということはそう無いらしい。だからこそ、この鉱山の魔素溜まりは貴重であり、自然発生する魔法石が採掘できる数少ない土地の一つであるようだ。
「竜にとっても魔素溜まりは魅力的な場所らしい。だからたまに竜が飛んで来るんだが、そのせいで採石場に近づけないし、いつ下山して襲ってくるかも分からないから里を隠して俺たちはひっそりと暮らすはめになる。でも、いつもなら数日もすればいなくなるって言うのに、今回はいつになっても飛び立たない。これじゃ俺たちの商売も成り立たない」
ロニーが忌々し気に恨み言を連ねる。商売あがったりでドワーフも困っているのだ。ドワーフたちにとって竜の存在は恐ろしい捕食者という認識のようで、襲われては堪らないと接触をしないようにしているようだ。
しかしイザークに聞いたところによると、竜人族は魔物と違って意思の疎通のできる種族のようだ。しかし他種族からは野蛮で獰猛な魔物という認識で捉えている者も少なくなく、名前を聞いただけで震えあがる者もいるくらいだとか。
「戦争の時なんかは特に恐れられた。その名残があるのだろうな。竜一匹に対して千の兵士で挑んでも敵わないと言われていたくらいだからな」
ちょっと待ってほしい。そんなのとこれから対峙しなくてはいけないわけ?
「プライドは高いが話せない奴らではない。心配するな、いざとなれば2人だけでも逃がす」
心強いんだがそれではイザークだけ犠牲になってしまう物言いである。「助ける」でなくて「逃がす」と言っている以上、イザークとしても竜人族と戦っての勝算はあまりないのだということが分かった。これだけ強いはずのイザークに勝算が無いとなると、私やナイトなんて瞬殺物である。
「心配するな、マーガレット」
そんな不安な私を嘲笑うようにナイトが肩を叩く。本当にいつもなら震えあがっていそうな展開だと言うのに、この余裕は何なのか。ヘケトの小瓶の時に何か分かったようでもあったし、ナイトには勝算があるのだろうか。
「やっと俺のターンになってきたんだ。今まで活躍できず苦汁を舐めてきたが、ここから怒涛の快進撃の幕開けだ。なんせ俺は魔法が使えるように・・・」
「ナイトは暫く魔法は禁止だ」
ノリノリのナイトを止めたのはイザーク師匠だった。有無を言わさぬ物言いでナイトに釘をさす。
「魔王城を半壊させるほど暴発させたんだ。次もどうなるか分かったものじゃない。まずはしっかりと練習を積んでからでないと魔法を使うことは許可できない」
「そんな、でも、竜がいるのに・・・」
「竜と戦うことになったら俺に任せて2人には逃げてもらう。さすがに周りを気にしながらでは俺でも生きて帰れるか分からない」
撃沈であった。やる気満々だったナイトはしょんぼりとしてしまったが、すぐに復活を果たした。
「まあ、しかし。今回は戦闘になるか分からんがな。いや、俺の予想では戦闘にはならず終わるのではないかと思っているのだ」
「そうなの?戦わなくて済むんだったら、それほど良いことはないんだけど」
期待してしまいそうになるがナイトの言うことである。話半分に聞くのが一番だろう。
「その竜の状態を見ればすぐに分かるさ。マーガレットよ、絶対にヘケトの小瓶を忘れるな」
「まぁ、ナイトがそう言うんだったら気を付けるけど」
勿体ぶって結局何なのか教えてくれない。そんなに言うんだったらその俺の予想とやらを発表してもらいたいものなのだが。しかしいくら聞いても嬉しそうに「どうしようかなぁ」などと焦らしてくるナイトは鬱陶しいので、もうこれ以上構うのはよすことにした。
「さぁ、明日は早いぞ。みな備えて寝てしまえ」
そして、上機嫌なイーラに促され私たちは床に就くこととなった。




