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メタァな厨二病男子とチートなお節介系幼馴染は果たして純潔を守れるか!?  作者: アシタカ
第四章 魔族領・ラースラッド編
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第46話 夜這い

 ともかく一旦休戦だとして、私たちはまだ残っている城の部屋へと向かうことにした。ちょうど書庫の辺りは何ともなかったので、その近くの執務室に移動することにした。


「そう言えば、ジークベルトはどうなったかしら?巻き込まれてないと良いけど」

「あいつはナイトの力が暴発したのを察した瞬間にここから逃げてる。安心して良いぞ」


 でもよく考えれば元々ナイトのゲート解放を唆した元凶が逃げ出したと言うことだ。あいつ、やっぱり今度会ったらどうにかしないといけない気がする。


「さて、みな楽にしてかけてくれ」


 執務室に入るとイーラは執務机の椅子に腰かけ、他は部屋の中央にある複数掛けのソファへと腰掛けた。私とナイトが隣り合って、向かいにイザークとブルクハルトが座っている。


「とりあえず、ブルクハルトだな。今回の件について話してもらおうか」

「今回の件、と申しますと・・・」


 先ほどまで威圧的だったはずのブルクハルトだが、イーラを前にすると途端に委縮したのか控えめで恐々と口を開いた。まるで叱られるのを予期して竦む子どものようだ。


「お前、俺を魔王にしたいのか?」

「当然です!イーラ様は歴代最強と謳われた魔王!あなたを差し置いて他にこの国を、魔族を救える者はいません」


 しかしイーラの具体的な質問に対しては信念を曲げることなく声高に叫んでいた。ブルクハルトの表情は期待に染まり、身を乗り出してイーラへとその期待を向けているのが分かった。


「俺にその気はないぞ」

「え?」

「俺は魔王に戻るつもりは無い。次の魔法候補を探せ」

「え?そんな・・・」

「よし、この件は片付いたな。次はナイト、お前だ」


 さも万事解決とばかりに満面の笑みで切り捨て、続いてナイトへと呼びかけた。まさか自分に矛先が向くと思っておらず驚いたナイトは数センチソファから浮き上がった。


「お、俺?」

「そう、お前だ。それでお前は、この魔王城をどうしてくれるんだ?」

「魔王城?」


 ナイトの顔から血の気が引いていき、青を通り越して白くなっていた。隣にいた私も同じくイーラの言いたいことを察して自分の体温が下がっていくのを感じている。


「こんな半壊させてくれて、何もなく帰れるとでも?今はまだ次代魔王が決まっておらず、この城の所有者は俺だ。この損害、きっちり請求させてもらうぞ」

「待ってくれ、イーラ」


 今まで、イーラが現れてから一度も口を開かなかったイザークが初めて口を開いた。イーラは意味深に目を細めイザークへと視線を注ぐ。


「そもそも2人は異界の者、ブルクハルトに無理やり連れて来られた哀れな迷い人だ。だから・・・」

「おい、おい。私はそんなに信用ないか?イザーク、そんなに怯えてくれるなよ」


 怯えてる?

 驚きでイザークを見ると、動揺のせいか僅かに瞳を揺らしていた。


「怯えてなど・・・」

「では、罪の意識にでも苛まれているのか?お前は相変わらず人が良い奴だな」


 イザークは目を伏せ話さなくなった。イーラはやれやれと大きく息を吐くと、またにっこりと笑って言うのだった。


「安心しろ。金を払えとか、命を差し出せと言うわけじゃない。瓦礫の撤去くらいはしてくれるんだろうな、と言っているだけだ」


 どうやらまたしても労働を余儀なくされたようである。私たちの瓦礫撤去作業は、明日より開始されることとなった。



 ***



 それぞれ寝室を割り振られ、私たちはとにかく眠ることとなった。一応の気遣いなのか「マーガレットはレディだからな」とイーラの次に大きい寝室を私は宛がってもらった。それでもやはりその部屋も掃除は行き届いておらず、少し埃っぽい。イザークが風の魔法を使ってシーツを一度払ってくれたが、それでも少しの不快感は残っている。

 だとしても、この異世界に来て初めてのきちんとしたベッドにシーツである。嬉しくない訳がなく、私は荷物を放り出して倒れ込んだ。


「明日が憂鬱だな・・・」


 朝一番から瓦礫の撤去作業が待ち受けている。エルフの里での掘削作業も骨が折れた。むしろ、あの時は何とか3日かけて終わらせたが、今回の作業はどのくらいかかるのだろうか。

 でも、あの時は深淵の常闇のせいで魔法が使えなかったが、今回は魔法が使えるだろう。だとしたら、もしかして案外簡単に終わってくれるかもしれない。どんな魔法が効率的か、イザークと相談しなくては。

 うつらうつら考えながら、疲れがどっと押し寄せてくるのを感じた。心地よいベッドの感触の中、睡魔に襲われ夢へと誘われていく。


「・・・ん・・・?」


 どのくらい寝ていただろうか。記憶が途切れてからしばらく、何だかゴソゴソと蠢く気配を感じて目が覚めた。寝ぼけ眼で身を起こしてみて、驚愕に悲鳴が口から漏れ出る。


「・・・キャッ・・・むぐっ!」

「し。静かにしろ」


 私の悲鳴は途中、ブルクハルトの手のひらに阻まれた。

 なぜかレディの寝室に入り込んできたブルクハルトが目の前にいるのだ。私の脳内に危険への警鐘が鳴り響く中、口から手を外してもらうべく抵抗した。


「静かにしろ。分かった、騒がないならこの手を離す。いいな、絶対に騒ぐなよ」


 ブルクハルトは念入りに確認を取ってからゆっくりと手を外した。いきなり叫んだらまた押さえられるだろう。とりあえず、どういうつもりなのか確認すべく問いただすことにした。


「何?何しに来たの?」

「分からんのか?男が女の寝室に忍び込む目的など一つしかあるまい」


 このど変態野郎が!


「誰かー!ちょっと、イーラ!あんたの部下が・・・!」

「騒ぐなと言っている!」


 大声を上げた私の口を再度塞ぎ、ブルクハルトは苛立ちを滲ませながら怒ってくる。

 いや、騒がない方が無理だから!こっちだって怒りで睨んでみせると、ブルクハルトはやけっぱちに言い放った。


「お前を帰す訳にはいかん。とりあえず純潔を散らして帰る手段を奪ってしまえば、イーラ様の気持ちも変わるかも分からんからな」


 なんでもありかよ!

 私は手元にあった枕を手に取りとにかく殴りつけた。その反動で手が離れてくれたので、とにかく文句を言ってやらなきゃ治まらない。


「このど変態!最低!鬼畜!バカなんじゃないの!?」

「うるさい!お前に何が分かる!」

「お前の考えなんて分かってたまるか!」

「私は、魔族を再興させたいだけだ!」


 一際大声で叫ばれた言葉で思わず叩く手も止まった。同情ではない。ただ、とても気まずい気持ちではあった。


「想像できるか?自分の国が滅んでいくところを。他人に全てを奪われる屈辱を。勝手な正義を振りかざして存在を悪とされる理不尽さを」


 ブルクハルトは力なく項垂れ、動かなくなった。私はそんな彼の様子を窺いながら、どこかで聞いたこのあるセリフをそっと呟いてみた。


「復讐は悲しみしか生まない。復讐は連鎖していくのよ」

「それは、お前がこの屈辱を、理不尽さを感じたことがないから言えるんだ。お前がこの世界の者ではない他者だからそんなキレイ事を振りかざせるんだ」


 ブルクハルトはしばらく黙って、何かに耐えるようにその場にいた。それでも、その後襲ってこようとはせず、何も言わず静かに部屋から出て行ったのだった。

 真夜中の、ほんのひと時の出来事だった。

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