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メタァな厨二病男子とチートなお節介系幼馴染は果たして純潔を守れるか!?  作者: アシタカ
第四章 魔族領・ラースラッド編
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第44話 魔王イーラ

 私は城内を1人走っていた。探しているのはブルクハルトだ。

 嫌な気持ちでいっぱいだった。ジークベルトがナイトの魔素を開放すると言うから。


「たぶん人族式のゲート解放ができなかったのは、元々魔族に近い形で魔素の取り込みがなされていたからだ。恐らくの話だが、ブルクハルト様がお前の夢に干渉していた時に体の中がそういう構造でできあがっちまったんだろう」


 ジークベルトは魔法陣を床に描きながらそう説明していった。奇怪で、それでも深淵の常闇ほど複雑ではない魔法陣はスラスラと床にその形を露わにしていく。


「しかもかなり複雑な魔法陣の積み重なりが身体に構築されてる。これが例の転移魔法陣のための魔法陣か?それに反応してどんどん周りの魔素がナイトの中に入り込んでるんだ。でも、本人が分かってないみたいだから、吐き出し方も分からず取り込み続けてる状態ってこったな」

「ずっと魔素を吸収してたってことか?」

「いや。たぶん元凶のブルクハルト様の魔素に触れたから反応し始めたんだろう。たぶんそう時間は経ってない」


 ナイトは少し元気を取り戻し、興味津々にジークベルトの話を聞いていた。


「落ち着いて、ナイト。罠かもしれないのに、こんな話・・・」

「罠なんか仕掛けてないって。別に良いぜ、止めたって」

「いや」


 私が心配しているのも知らず、ナイトは真剣にその目をジークベルトへと向けた。


「頼む、やってくれ」


 私はそうして魔族式のゲート解放だかなんだかを始めようとするナイトに不快感を感じて、そっと逃げるように書庫を出てきたのだった。

 ナイトにそんなことをさせるくらいだったら、私があのブルクハルトを倒す。イザークと2人がかりで戦えば、もしかしたら勝機だって見つかるかもしれない。

 しかしどれほど走っても目的の場所は見つからなかった。元々、無茶苦茶に進んで逃げてきたのだから、こんな広い城の中じゃ迷子になってしまうのも仕方がない。


「どこにいるのよ、一体」


 早くしないとナイトのゲート解放が終わってしまうかもしれない。どれほど準備に時間がかかるものなのだろうか。できれば失敗でもしてくれたらいいのに。


「何をそんなに焦っているんだ?」


 不意に、聞いたこのない声が耳に聞こえ、私は足を止めた。

 その声は若く、少年のような声だった。声変わりをする前の幼さを残すその声は、どこから聞こえてきたか分からないがはっきりと耳に届いていた。


「・・・だれ?」

「こっちだ」


 その声とともに三つ先の重厚な扉が少し開いた。怖いという感情はなぜか湧かず、不思議とその扉に引き寄せられる。


「幼馴染が力を手に入れるのが怖いのか?」

「あなた、だれ?」


 そっと中を覗くと、豪奢な寝室のようだった。ふかふかのカーペットにいくつものクッション。精巧に作られた家具と天蓋付きのベッドで部屋の中は物に溢れているのに均衡が取られているようだった。


「お前は何をそんなに恐れているんだ?」


 そのベッドの上では、少年が眠そうに眼を擦りながらこちらを見ていた。

 歳の割りに色香の漂う不思議な少年だった。その笑みが何故だか年下とは思わせないような余裕を醸し出しているせいか、見た目と雰囲気がちぐはぐであった。


「あなたがイーラなの?」

「いかにも。第15第魔王、イーラだ」


 自分の口から飛び出た疑問符に自分で驚いた。それでも、答えをもらわなくても確信していた。この魔族は、間違いなく前代魔王イーラであると。


「魔王は死んだんじゃなかったの?」

「まさか。誰かそう言ってたか?歴代最強の俺が早々死ぬはずないじゃないか。さすがに力を失ってしまったが、命はまだある」


 大きな欠伸をしながら起き上がると、猫のようにイーラは体を伸ばした。


「どうやら寝ている間に随分と色々なことが起こっているようだな。ブルクハルトが暴走したのか。巻き込んで悪かったな、少女よ」

「マーガレットだけど・・・」


見た目少年に反して喋り方が大人びているから変な感じだ。たぶん、外見と生きてきた年数は一致しないのだろう。

 と言うか、そんなことよりも!


「ちょっと、魔王ならあなたブルクハルトのこと何とかしてよ!」

「ふむ。それじゃ今どうなってるか、見てみるか」


 イーラが姿見に向かってパチンと指を鳴らしてみせると、どういうことか鏡の中にブルクハルトとイザークが映りだした。どうやら場所は外へと移ったらしく、見る限り屋根の上で戦っているようだった。


「え!?」

「ほう。随分と派手に戦っているな」

「どういうこと?これも魔法?」


 まるでテレビみたいに映像が映し出されて、私は思わず疑問を口にした。するとイーラはさも可笑しそうに笑いながら説明してくれる。


「そうさ。光魔法の一つだ。反射を使って二人がいる場所の光を持ってきているんだ」

「でも、扉や壁で遮られてるのに・・・光を透過でもできるの?」

「隙間が少しでも開いていれば通せるんだよ。その場の光を量子レベルに分解して、その量子一つ一つを反射させるんだ。それをこの部屋まで持ってきて再度構築し直してこの鏡に映し込んでいるんだ」


 何それ?量子レベルに光を分解?再構築?

 しかも、無詠唱で魔法を使うのなんて、初めて見た。イザークとブルクハルトが鏡の中では激しく戦っているっていうのに、私はついつい疑問を口にしてしまう。


「それも簡単な話だ。名前って言うのは、理解を手伝う手段の一つと思ってもらえば分かりやすいかな。例えば『大気から水の滴が落下する自然現象が発生している』って言われるよりも『雨が降ってる』って言われた方がずっとそのものを理解しやすいだろう?」


 確かに。イーラが言うには名を付けること・名を知ることと言うのも、そのものを理解すること・支配することに繋がるんだそうだ。


「詠唱も、行おうとしている魔法が何なのかを明確にするための手段に過ぎない。だから、この程度の魔法なら俺には十分支配できる範囲だから詠唱も必要ないんだ」


 そういうものなのか。

 突然のお勉強タイムになってしまったが、イーラは丁寧な説明を終えるとまた鏡へと視線を移した。


「ちょうど面白いことが始まったみたいだぞ」

「え?」


 見れば、そこにはナイトが姿を現していた。


『観念するが良い、ブルクハルト!』


 自信に満ち溢れ、やる気満々でナイトは一際高い城壁塔で仁王立ちしていた。多分、というか絶対にだけれど、ゲート解放が成功したのだろう。


『俺様はナイト・ウル・ダークネス!弱気を助け、悪に抗う異界の勇者!この異世界の救世主となる男だ!』


 決めポーズを取り、ナイトはノリノリで口上を並べ立てる。今まで真剣に戦っていた2人は残念ながら突然の事態に呆然としてしまっていた。


『・・・ナイト、危険だ。離れていてくれ』

『イザーク、俺様が来たからにはもう心配いらない。俺様は変わったのだ!』

『愚かな。隠れていれば良かったものを』


 何とか持ち直したイザークの言葉も聞き流し、ナイトは恐る恐る塔から降りていく。さすがに正気を取り戻したブルクハルトがナイトを嘲笑い手を翳した。


「いや、確かにナイトとやらは変わったようだな」


 何を言ってるんだと思う私の横で、イーラだけが楽しそうに事の成り行きを見守っていた。

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