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メタァな厨二病男子とチートなお節介系幼馴染は果たして純潔を守れるか!?  作者: アシタカ
第四章 魔族領・ラースラッド編
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第41話 魔族の確執

 ブルクハルトが待ち構えているらしい。知られてしまっているのなら仕方ない。どんなつもりか分からないけれど招待しようって言うのなら受けてやろうじゃないか。

 私たちはジークベルトと共にラースラッドの魔王城へと向かうことにした。


「じゃ、悪いけどブルクハルト様の命令だから。通るな」


 ジークベルトがカエルに声をかければ、あからさまな舌打ちが返ってきたが特に文句は言われなかった。あのカエルは誰に対しても態度が悪いようだ。

 桟橋の先に括り付けてあった船に乗り込んで、私たちはついにドロデンドロン大陸へと向かうことになった。船には数人、あの受付にいたカエルと同じ姿の魔族が乗っていて、彼らが船を動かしてくれるようだ。どのカエルも不機嫌そうで誰も口を開かずむっつりと押し黙っている。


「ジークベルトは本当に魔族だったんだな」

「そうか。ナイトには挨拶せずに逃げたもんな。この姿で会うのは初めてか」


 ナイトがその腰に生える皮膜の翼を眺めると、ジークベルトはパタパタとその羽根を動かした。そう言えばあの時彼が変身したのを見たのは私とナンシーだけだった。一緒に仲良く働いていた人が実は魔族だったなんて、ナイトも実際に見ないと実感が湧かなかったのかもしれない。


「それにしても、マーガレットって結局処女のままなのか?」

「あぁ。本人が言うにはそうらしい」

「ちょっと、本当に純潔は守られてますけど?変なこと話題に出さないでもらえる?」


 ジークベルトが周りなんて気にもせず変なことを聞いてくるので腹が立つのだが、それに普通に返すナイトもナイトだ。


「なんだよ、結局ブルクハルト様のとこに来るんだったら俺が襲う必要なかったじゃん?マーガレットもよかったな、大切な純潔が守れてさ」


 明らかにバカにして笑うジークベルトは、あの仕事の時には気づかなかったが絶対に性格が悪い。きっと猫を被っていたのだろう。これが素であるだろう彼は、かなり失礼な男だった。


「でも、もし気が変わったらいつでも相手するから。俺も最近は全然食事が取れてなくて腹空いてるから、まあぁ相手がお子ちゃまマーガレットでも我慢するし」

「ジークベルト、女性に対して失礼だ」


 べらべらとうるさく喋るジークベルトもイザークが窘めてくれれば渋々とではあるが黙ってくれる。私はなるべくイザークの側を離れないようにした。

 船での移動は順調だった。ただし、あの髭の生えたカエルたちは終始不機嫌そうで、こちらを睨んでくる者もいる。


「いたっ」


 甲板にて、1人のカエルとぶつかってしまった。思わず声が出たが、カエルは舌打ちだけして去ろうとした。さすがにそれには怒りも湧いてくる。


「ちょっと、確かにぶつかったのは悪いけど!その態度はないんじゃない?」

「・・・ここは俺たちの仕事場だ。乗せてもらってる分際で偉そうにするな」


 カエルは目を細め、憎々し気に口を開いた。彼がそう言った途端、周りのカエルもこちらを一斉に睨んできた。怯みかけたが、納得いかないのだから反論するしかない。


「私が何したって言うのよ?ずっとそんな態度じゃない」

「お前、人族だろ。俺たちは魔族だ」


 カエルは静かにそう言うと、「そういうことだ」とこちらから視線を外し仕事に戻ってしまった。それを最初から見ていたらしいジークベルトが私の元へと来た。


「あいつらに友好さを求めようなんて、ムリムリ。やめときな」

「そんな・・・」

「あんたは異世界の住人だから分かんないんだよ。人族と魔族の確執をさ」


 確かに、大きな戦争があったらしいことは聞いている。それのせいで二つの種族はいがみ合っているのだろう。


「聞いたことないか?人族の宣言。先の戦争の原因にもなったやつ」

「もしかして、冒涜的生命ってやつのこと?」

「お。なんだ、知ってるんじゃないか。なら話が早い。要はさ、この世界では魔族って種族はいろんな種族から差別されて嫌われてんの。だから、魔族は魔族じゃない奴が嫌いなの」


 ジークベルトは「だから、あいつらを刺激すんな」と私に忠告すると船室の方へと戻っていった。私は何となく、間違った態度をとってしまったのかもしれないと後悔した。あのカエルも、きっと自分たちを差別する人族なんて船に乗せたくなかったのだろう。それなのに、何も知らずにそんな態度は止めろと言うのも失礼な態度だったかもしれない。

 この世界では、私の知らない色々な確執がたくさんある。私はドロデンドロン大陸に着くまで、極力カエルたちを刺激しないよう気を付けて行動した。



 * * *



 陸地に着くと、カエルたちはまたすぐに船を引き返していった。乗せてもらったお礼も伝えたが、こちらを一瞥するだけで特に反応は返してもらえなかった。結局、和解はできなかったけれど、そんな簡単な問題ではないんだろうことも理解できた。

 次に私たちを待っていたのは首なしの馬がひく馬車だった。御者も首のない身体だけの魔族だ。


「魔王城はそう遠くないし。このままこの馬車に乗って移動してくぞ」


 ジークベルトに促されて乗れば、馬車は軽快に進んでいく。窓から周囲の景色を見てみたが、荒れ果てて草木もあまり育たない痩せた土地のようだった。


「今の魔族の領土はどこもこんな感じだ。元々この大陸自体がやせ細った土地だったのに加えて、戦争に負けて対価を支払うために大分無理もしたしな」


 周りの様子を窺う私に気付いてジークベルトが解説を入れる。何だか、話に聞いていた戦争の凄まじさがやっと実感できてきた気がする。かなりの傷跡を残す、とても悲しいものだったのだ、きっと。それは終わった話ではなく、その影響が今もなお続いている。


「魔族はみんな、こんな状態だから人族を恨んでる奴も多い。でもだからって戦争を仕掛ける気なんてないし、そんな力も今のこの国には残っちゃいないさ」


 なんてことない顔して話すジークベルトだが、その心の内はどうなのか。船を動かしてくれたカエルのことも思い出して、何だか胸が苦しくなった。


「でもきっと、一番恨みが強くてこの国のことを嘆いているのがブルクハルト様だろうな。あの人ほど魔族を愛し国を愛している魔族はそういない」

「だからと言って、奴のしていることは間違っている」


 ブルクハルトの名前が出てきて、初めてイザークが反論した。今まで私に向かってしゃべっていたジークベルトもイザークに顔を向ける。


「イザークさんは、本当にブルクハルト様が嫌いだな」

「嫌いではない。奴のやり方に賛同できないだけだ」


 ジークベルトは探るようにイザークの表情を見つめる。イザークはいつものように表情を変えないまま、ジークベルトに向かって諭した。


「国を元に戻したいからって、異界の人間を無理やり連れてきて生贄に使おうなんて間違っている。そんなやり方で得たものに、何の意味があるんだ」

「あの人は誰よりも国のことを考えている。それが最善だって判断なんだろう」

「最善なんかじゃない。それが一番簡単な方法だったってだけだ」


 ジークベルトとイザークの間にピリッとした緊張感が一瞬走ったが、ジークベルトはふっと笑みを浮かべると、「なるほど、そうかもね」と窓の外へと視線を移した。

 しばらく無言で馬車は走り、そうして魔王城へと到着したのだった。

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