第04話 異世界トリップ3
目の前には、干し肉と固いパンが用意された。焚火を起こして温かいスープも用意してくれるようだ。チョコ以外の食料を目の前に、私と拓郎はひどく感激し、泣いて喜び貪りついた。
腹の虫が鳴り、それを聞いた4人は笑いながら食料を分けてくれた。やっと動くことのできるようになった私と拓郎は、必死にお礼を伝えた。図々しいとか、初めて会った赤の他人にそこまでしてもらうのはとか、色々建前も浮かんだが空腹には勝つことができずお相伴に預かることとなった。この恩は必ず返さなければなるまい。
4人と私たちで焚火を囲むように座り、それぞれの自己紹介を開始した。
「僕たちは見ての通り、冒険者だ。僕がリーダーのパーシヴァル。あの弓を背負ってるのがネイト。でっかい大男がチャド。紅一点の魔法使いがディアナだよ」
全員をそうやって紹介してくれたのは、笑顔の良く似合う茶色い短髪の好青年だった。見た目10代後半から20代前半であろうか。剣士のようで、なかなか重そうな剣を背負っている。
ネイトと紹介された青年はパーシヴァルと同年代に見える。暗い藍色の髪色をして、無口で感情があまり豊かではなさそうだ。射手らしく弓を背負っているが、腰にも短剣をさしている。
チャドは拳闘士らしい。何と、驚くことに4人の中で唯一の獣人族だった。犬族とのことで、犬耳と尻尾をパタパタと振って見せてくれた。が、拓郎にとっては初の獣人が男ということでかなりガッカリしているようだ。パーティの中では最年長のようで、20代中盤ってところだろうか。
最後のディアナは魔術師とのことだ。杖とローブを装備した、見紛うことなき魔法を使う人である。赤いウェーブした髪なんて、まさに異世界魔術師の典型的外見をしている・・・気がする。彼女は10代後半と一番若いように見受けられる。
「俺の名前はナイト。この子の名前はマーガレットだ」
こちらの自己紹介については先手を打たれて拓郎を睨んだが、彼は素知らぬ顔でスルーした。拓郎に先を越されたことで、本名が名乗れなかった。ここから訂正してもいいんだが、その場合なぜ急に偽名を名乗ったのかと不審に思われる可能性がある。この世界でやっと掴んだ生き残るチャンスを無駄にしたくはない。
私は息を吸うように嘘を吐く幼馴染は無視することにして、また深々と頭を下げた。
「この度は、助けていただき食料まで分けていただいて、どうお礼を伝えればいいかもわかりません。本当に、ありがとうございました」
「旅先では困ったときはお互いさまさ。助け合うのが基本でしょう」
パーシヴァルがニコニコ笑いながら水筒を渡してくれた。彼らは本当に善良な冒険者のようだ。彼らに出会えたことは、本当に幸運であった。
「でも良かった。あと少し森の奥深くなら、ラスタリナに入るとこだ」
「ラスタリナ?」
ネイトの安堵した答えに、分からない単語が混じっていたので思わずオウム返ししてしまった。すると、チャドが訝しげに目を細めてくる。
「エルフの住処だろ。作法に厳しいから、変に近づかない方がいい」
「エルフ!?そうか、そんな場所にいたのか!」
もちろん喜んでいるのは拓郎である。エルフって、美男美女の耳の尖った種族ってイメージだけど、この世界でもそんな感じなんだろうか?
「そうよね、可哀想に。奴隷商人に捕まって必死に逃げてきたんだもの、現在地がどこかなんて分からないわよ。しかもこんな奇妙な衣装まで着せられたのね」
「ええ。間一髪のところで私がマーガレットを連れて、逃げてきたんです。迫りくる追手に、ナイフを振りかざし・・・」
拓郎の事情説明により、私たちの今の状況を不審なく説明することに成功した。私にはとてもできない芸当なので、今回は拓郎に全て丸投げし、固い干し肉をガジガジと噛みしめることにした。
ディアナの言う奇妙な服っていうのは、私たちが着ているこの制服のことだよね。私としては、どうしても彼らの防具とかを身に纏った姿の方が、よっぽど奇妙に見えるんだけれど。
「村の名前を教えてくれたら、役人に伝えて戻れるように手配してあげるよ」
「いえ、私もマーガレットも親に売られたのです。村に戻ったら結局また同じことが起きます。私たちは自立して生きていきたいんです」
パーシヴァルからの申し出に、拓郎がこうもスラスラと返せるところを見ると、そういう妄想でシミュレーションでもしていたのだろうか。あまりにも自然なので、逆に私からの不信感を買うことになったが、おかげでパーシヴァルたちに近くの町まで同行してもらえることになった。最も、チャドだけは「謝礼もでないのに」と渋っていたけれど。
食事が終わると食事の片付けを行った。どうやら今日はここでテントを組み立て野営をするらしく、ネイトは近くの川に水を汲みに行った。パーシヴァルが焚火に何かの粉を振りまいていたのでそれは何かを尋ねると、「魔除け薬だよ」と見せてくれた。どうやら最近では魔物が以前より凶暴化しているようで、火を焚いたときにはこうして魔除け薬を火にくべ煙をあげることで周囲にいる魔物が近寄ってこないようにするのが一般的な旅のコツらしい。
「じゃ、マーガレットだけ私と一緒に来てね」
ニコニコするディアナに連れられて、茂みに入った。ある程度みんなと離れたところで止まると、ディアナはニコリと笑った。正直、唯一心の知れた拓郎と離れたことで緊張していたが、彼女の申し出は非常にありがたいものだった。
「女の子だもん、身体、気持ち悪いわよね」
彼女は持ってきた器を置き、先ほどネイトが汲んできてくれた水を注ぎ入れた。ディアナは私に服を脱ぐよう指示すると、持ってきた布を水に浸して身体を拭いてくれる。
「服は我慢してね」
「ありがとうございます。何から何までスミマセン」
「大丈夫よ。それより、肌がキレイなのね。手も、全然荒れてないし」
「そうでしょうか?」
拭いた私の手を取り、じっと見つめるディアナの目が意味深に光った気がした。だがなぜなのか分からないため私は曖昧に返事をするより他なかった。
いったんスッキリできて気分も良くなった。元の場所に戻ると拓郎も少し身体を拭いたようでサッパリとしていた。それよりも、先ほどまで敬語で話していた拓郎だが、私がいない間に随分打ち解けたらしく、とても親し気に話していた。
「いやぁ、チャドさん!楽しみだなぁ。マーガレット、行先はゾンネンブルーメってとこらしいぞ!」
「ああ。ゾンネンブルーメだぜ。へっへっへ・・・」
今いる大陸で一番大きな国は、大きな川が中央を流れるグリーダッドと言うところらしい。このカリスという川に沿って西側に位置するのが商業的に発達したゾンネンブルーメという町のようだ。港からの物資はこの水路によって町に運ばれ、それにより栄えているらしい。
基本的にこの世界は、人族・獣人族・エルフ・・・などのように種族ごとに棲み分けがなされているらしい。しかし商業的に発達したゾンネンブルーメでは商業協会が発達、商いを担うものであればある程度の種族は関係なく混在して生活している、自由度の高い町のようだ。
しかし、意味深に喜ぶ2人には訳が分からず首を傾げることしかできなかった。ディアナは察したらしく「マーガレットは気にしなくて良いわよ」とため息交じりだった。