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第36話 闘技大会3

 私とナイトは結局その後、ナイトが三回戦敗退、私が二回戦敗退で終わった。

 しかし頼みの綱であるイザーク師匠はしっかりと目的を果たしてくれていた。彼はすでに準決勝も勝利をおさめ、決勝戦を控えていたのだ。


「これで、目的のものが手に入るのは確定なわけだ」

「むしろ、優勝しちゃったらどうするの?私たちが欲しいのは『乗船の権利』だよ」


 優勝したらお肌がツルツルになる珍しい薬が手に入ってしまう。そんなのは正直、ちょっと興味があるけれど今の私たちには不要だ。


「心配ないよ」

「あ・・・!」

「ヒューバートさん・・・」

「そう簡単に勝たせてやるつもりはないよ」


 イザークの決勝戦での相手は、あの王国騎士団大尉ヒューバート・モージズ・スローンであった。やはり相当な強者らしく、その戦闘も観戦したがどれも圧勝していた。

 もちろん、王様に献上する品を入手するために送られてきた人だ。相当の実力者であることは分かっていたのだが。それでも、魔族であるイザークが負ける気なんてしない。


「おーい、嬢ちゃん、嬢ちゃんたち!」


 ヒューバートが決勝に向けステージ近くまで移動していくのを見送ると、今度は違う人が声をかけてきた。漁師のフレドリックである。その手には大事そうに紙切れが一枚握られていた。


「大変だ、大変だよ」

「どうしたんですか、そんなに慌てて」

「ヤバいんだよ!」


 彼はその紙切れを目の前で振りかざしながら、ずっと「ヤバいヤバい」と繰り返す。とにかく落ち着いてもらって、話を聞いてみると興奮冷めやらぬ様子でフレドリックは語りかけてくる。


「イザークさんに、昨日の宣言通り賭けたんだよ。銀貨1枚。もちろん、誰もあの人のことは知らない無名の人だから、倍率が相当ヤバいことになってんだ・・・!」


 どうやらイザークはかなりの大穴らしく、準決勝でもすでに相当な金額の換金率になるようだ。


「それが、もし、もしも優勝なんかしちまったら、その時は・・・!」


 想像もできない金額に到達するらしく、フレドリックは言葉に詰まるとステージに熱い視線を送った。何だ、そんなことになってるんなら私たちも賭けておけば良かった。しかし、かなりの大金にちょっとおかしくなっているフレドリックを見たら、そうも言えなくなった。


「とにかく、観戦は一緒にさせてくれ。俺、このまま1人で見てたら、もう・・・!」


 どうにかなってしまいそうらしく、フレドリックはそう言ってからナイトの腕を掴むと、ギュッと握って離さなかった。イザークたちの決勝戦が、もうすぐ始まる。



 ***



 やはり決勝戦は観客の盛り上がりもピークを見せていた。イザークとヒューバートが向かい合うのを遠目から確認し、緊張で唇を舐める。


「試合、開始!」


 審判から開始の合図がなされるが、2人は動かなかった。ヒューバートは背負っていたあのバカでかい剣を構えているが、不敵な笑みを見せる。


「来ないのか?では、こちらから行かせてもらうぞ」

「好きにしろ」


 対するイザークは何も構えておらず、余裕すら感じるその態度は挑発的だった。しかし乱れることなくヒューバートは一息吐くと、「『付加雷電サンダーアディション』」と唱えた。

 途端、持っていた剣はバチバチと電気を纏う。かなりの電量が放電していて床のタイルが数カ所弾けるほどだった。


「グリーダッドが王国騎士団大尉、ヒューバート・モージズ・スローン。推して参る」


 ぐっと体勢が低くなったかと思ったら、ヒューバートは強く地を蹴り駆けだした。

 それほど広くもないステージ上では一瞬で、イザークの目の前まで移動するとその大きさにしては俊敏な動きで剣を振り下ろした。

 もちろんそれを想定していたイザークはムダのない動きで攻撃を避け、そのまま横からヒューバートを狙う。


「『毒射針ポイズンインジェクション』」


 虚空から紫色の細い針が出現して、雨の如くヒューバートへと降りかかる。しかしヒューバートも予想していたようで難なく躱してしまった。引いたことにより距離ができたため、攻撃の仕掛けられないヒューバートにイザークは畳みかけた。


「『氷結槍フリーズランス』」


 氷でできた槍を打ち込み、さらにヒューバートを追い込んでいく。ヒューバートは大剣でその氷結槍を打ち砕くと、また距離を詰めるべく走ってくる。


「『魔礫波グレベルサージ』」


 距離を詰めさせまいとイザークは今度は無数の瓦礫を出現させ、ヒューバートへと放った。ヒューバートは最小限の動きで全て躱し、またイザークの目の前へと迫る。瓦礫を放った後、イザークは地面に手をつき何か唱えていたようだった。イザークは地面から剣を作り取り出すと、また斬りかかってくるヒューバートの剣を魔法で作り出した剣で受けた。


「多彩だな。随分と色々な呪文を使いこなすものだ。感服だぞ」

「軽々と躱しながら、よく言う」

「本気じゃあるまい。そのセリフ、返させてもらうぞ」


 ギリギリと剣の刃を押し合いながら軽口を叩くと、勢いで返しまた激しく打ち合った。イザークは魔法専門かと思いきや剣術にも長けており、ヒューバートに引けを取らない。


「ああ・・・ダメだ・・・勝ってしまうかも・・・でも負けてほしくない・・・」

「フレドリックさん、うるさいですよ」


 息を飲むような激戦に、違う意味でも息を飲んでいるフレドリックが不安げにぼやいていた。ナイトは腕が痛いらしく、フレドリックの体を押しているが離れそうにない。


「『直下雷光斬ライトニングストライク』!」

「!」


 一際大きくヒューバートが叫んだとき、イザークの表情が変わった。構えていた剣を下げると『断障壁ブレイクシールド』を張る。

 莫大な量の放電をしながらヒューバートの大剣は打ち込まれた。寸前で張られた『断障壁ブレイクシールド』だが、数秒もすれば破壊され、イザークが吹き飛ばされてしまった。

 かなり強力な呪文だったようだ。イザークが倒れたところにヒューバートは隙を与えず剣の切っ先を突きつける。


「まさか人族でその呪文を使える者がいるなんてな」

「言っておくが、俺は魔族ではないからな。王国騎士団は伊達じゃないということだ」


 目の前に突きつけられた剣の切っ先を見ながらイザークは「降参だ」と宣言した。隣でフレドリックが気を失った。


 こうして決勝は終わり、優勝者は決まった。

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