第18話 障害
「どういうことなの!?」
障害なんてこれっぽっちも無いと、思ってました。
「何でネイトが2人をラスタリナまで送っていくの!?」
ディアナは真っ赤になって怒鳴った。部屋の中にはパーシヴァルたちも全員揃っていて、私たちの今後の計画を伝えたところだった。
計画とは、私たち2人は家に帰るため、元いた道を帰りたい。そのため、一度ラスタリナに向かうというものだった。ネイトは、何と弓の師匠がエルフらしく、ラスタリナに住んでいるそうなので付き添ってくれるのだ。イザークは乗っ取った相手の記憶・経験なんかが分かるらしい。
「エルフは作法にうるさいし、見知らぬ者に容赦ない。俺が着いていくのが一番良い」
「だって、依頼を1つ付き添ったらもう区切りだって決めたじゃない!どうしてそこまでネイトが面倒見ようとするのよ!」
ディアナがこんなに怒るところは初めて見た。事情を知っている私も申し訳なさで吐きそうだ。ディアナはネイトが体を乗っ取られていることを知らないのだから。
「ディアナ、落ち着いて。ネイト、俺からも聞きたいことがある」
こんな時でもリーダーとしての態度を崩さないパーシヴァルは、真っ直ぐに目線を合わせて聞いてきた。
「どうしてラスタリナなんだ?2人の故郷はどこだ?カトライア大陸は反対方向だし。ラスタリナの方に人族の住んでいるところなんて聞いたこともないぞ」
「そうよ、変じゃない!大体、ずっとおかしかったのよ、2人は!村の出って言う割には日焼けもしてないし掌も柔らかい!そんなの農作業に追われる村落ではありえないし!かと言えば文字は書けない読めないで学が物を言う貴族でもあり得ないし!誰でも知ってるような常識もとんちんかんだし!ネイトだってその話は何度もしてたでしょ!」
まさか知らないところでそんな話になっていたとは。そうか、途中でディアナは私の掌をまじまじと確認していたけれど、そういうことに疑問を抱かれていたのか。
「ディアナ、踏み込み過ぎだ。言えねぇことくらい誰にだってある」
「だってチャド!」
「とは言え、こっちもネイトは大事な戦力だ。俺らだってお遊びで冒険者やってるんじゃねえし。そのネイトを引っ張ってくって言うんなら、ある程度は納得のいく説明をしてもらえねぇと了承できねぇよ」
やはり一番大人なのはチャドだった。口も悪くてキャバクラ好きで金にケチ臭い男だけど、ちゃんと筋を通せと言ってくる。
「ラスタリナの近くに転移魔法陣があるらしい」
「え!?」
ネイトの発した言葉に3人は驚き声を上げた。イザークは元々この話をするつもりだったようだが、どうするつもりなのか。私はひたすら見守るしかない。
「転移魔法陣!?」
「そんなの空想上の産物だろ」
「そう言われてたけど、現に2人は転移魔法陣であの近くに移動してきたらしい」
どうやら魔法の存在する不思議世界でも転移魔法っていうのは特殊なようだ。魔法でなら簡単にできちゃいそうだけど、やっぱり物を別の場所に移動させるっていうのは相当難しいのだろう。
「近くに拠点を置けるのはラスタリナしかない。仮に野営にしても、エルフの縄張り近くでそんなことをしていたらいずれ衝突する。だからラスタリナの師匠を訪ねるんだ」
それでも納得のいかないディアナはなおも食い下がった。
「なら、みんなで行けば?そうすれば、ネイトが1人で行かなくて済むし。大体、2人を送った後、1人でラスタリナからグリーダッドまで帰ってくるのなんて、相当危険だよ」
「ディアナ、さっき言っただろう。俺たちはお遊びで冒険者してるんじゃないんだ。これ以上他所事して稼ぎが減ったら食い扶持すらなくなっちまう。私情を挟むな」
チャドの最後の一言を聞いた瞬間、ディアナの顔から血の気が引いた。口にしないだけで、彼らはディアナの気持ちに気付いていたのだろう。
「帰りが心配か。まぁ、ネイトが言い出したんだ。その辺の責任はきっちり自分で取ってもらう。それで良いだろう、リーダー」
最後にパーシヴァルに確認を取れば、彼はいつもの笑顔に戻っていた。
***
一応、パーティとしての結論は出たが、一晩経ってもディアナは一切口をきかなくなった。気まずすぎる。どうにかできないかイザークにそれとなく聞いてみたのだが、仕方ないの一点張り。ラスタリナの師匠を訪ねるにはネイトでないと伝手がなくなってしまうため、身体はどうしても返せないんだと。
女子の気持ちに疎いなんてモテないんだからね!モテてるのはあんた自身じゃなくてあんたの体なんだからな!バカめ!
やはり一緒に過ごすと気まずすぎて居ても立っても居られないので、準備があるとウソをついてまた宿屋を出た。出発は明日の明け方からと決まっている。それまでディアナとあんな状態で過ごすなんてやっぱり嫌だ。ディアナには魔法の使い方を教えてもらった。他にも、女子トークもしたし買い物もした。お別れがこんな形になってしまったのが残念で仕方がない。
「暗いわね。何かお悩み事?」
「ブレンダ」
今世紀一番の美少女ドワーフと出会った。相変わらずヒラヒラのドレスを着ていて、今は外出中のためかこちらもフリフリの日傘をさしている。
「お悩み事なら、解決には魔法道具が持ってこいよ」
「すみません、営業活動されても今日はちょっと元気がないので・・・」
「あら、何よ。うちの店が信用ならないって言うの?良いわ。今のあなたに必要な道具、必ず見つけてあげるから来なさいよ」
腕を引かれ、無理やり店まで連れてこられてしまった。でも、特に向かうべき場所もなかったし、時間潰しにはいいか。私はまた乱雑な店内を見て回った。
「元気がないなら、そうね・・・これなんてどう?刺占盤よ。ちょっとした占いができるの」
まずブレンダが出してきたのはダーツボードのようなものだった。そこには、なぜか目だとか腕だとかのイラストが描かれているけれど。
「この盤に嫌いな相手の一部を食わせて、この占針を投げて当てていくのよ。占針は全部で24本あるわ。盤にある的は嫌いな相手の体に直結するから、当たればその部位に苦痛を与えられるの。『今日は24本どこに当ててどこに苦痛を強・い・ら・れ・る・か・な』で、今日の自分の運勢が分かっちゃう」
「グロい。ヤバい。怖い」
可愛い顔してドン引きである。一体どんな魔法道具作っているんだか。
「我が儘ね。じゃ、もうちょっと優しいのはこっち。投回金貨。まず相手に要求する物事を決めるの。例えば『家族全員刺殺して来い』とか。で、投げた金貨の裏表を相手に見極めさせて。合ってたら要求は無効。外れたら強制執行よ。相手の了承さえ得られれば縛りは有効に・・・」
「なんで要求がそんなにヘビーでエグいの!?怖いから、早くしまって!」
趣味が悪い以前に頭が心配だ。ブレンダは不満げに元あった場所に戻した。
「他には何がいいかしら。気分が晴れるような私の自信作っていうと・・・」
「待って。自分で探してみる。ブレンダとは多分趣向が合わないから」
とりあえず何でも良いから過激でないものを一つくらい買ってすぐに店を出よう。でないと私の心臓が持たない。グルグルと狭い店の中を見回っていると、あるものに気付いた。
「これって・・・?」




