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メタァな厨二病男子とチートなお節介系幼馴染は果たして純潔を守れるか!?  作者: アシタカ
第一章 人族領・商業都市ゾンネンブルーメ編
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第15話 覚悟

 先に言おう。できなかった。

 甘く見ていたのだ。狩りというものを。

 私とナイトがギブアップしたがために、今回の依頼は急遽中止となり、町に戻ってきた。


「お前ら、冒険に出るってはしゃいでたのに、舐めてんじゃねぇよ」


 チャドはそう言って私とナイトを睨むと、どこかに行ってしまった。私もナイトも、一言も発することができなかった。

 血抜きをすると言った時、ナイトは驚いたように叫んだ。


「戦闘が終わればアイテムドロップするんじゃないの!?」

「アイテムドロップ?」

「何だそれ?」


 必死の声に、ネイトやパーシヴァルも不思議そうな顔をする。


「戦闘が終わったら、お金とその魔物のアイテムがドロップされるっていうのは・・・」

「剥ぎもしないで、どうやって毛皮が手に入るんだよ」

「お金も換金してからだよ、ナイト」


 呆れた声のチャドと心配そうなディアナを見ながら、私も硬直したまま口を開けないでいた。

 だって、RPGをしたら、戦闘は適当にコマンドで選んで、アイテムは勝手にドロップされて、お金は自動的に増えて・・・そういうふうだった。だから、こんな当たり前のことに考えが及ばなかった。

 こんなファンタジーな世界だって、現実なのだ。現実に経験値上げができなければ、アイテムドロップだってできないことに考えが及ばなかったのだ。

 目の前でピーピー鳴いている魔物という名の生き物を、毛皮にするためには肉に刃を入れ血を抜き剥ぐしか方法がないのだ。私だってまさか本当にアイテムがドロップされるって思っていた訳ではない。でも、毛皮を剥ぐという作業に自分が関わるなんて、思いつきもしなかった。

 宿では重苦しい空気が流れた。それはそうだ。ご厚意で同伴してもらったこの世界では比較的に簡単な依頼に、私たちが音を上げたのだから。誰も喋らない部屋の中は居心地が悪くて、私は誰にも声をかけずひっそりと宿を出た。


 外は夕焼け空で、まだ店々も賑わっている。その中を歩きながら、己の浅ましさを深く反省した。

 魔法が楽しいってディアナに告白したこと。ちょっとくらい冒険に出てもいいかなって思っていたこと。全部が全部、恥かしかった。私は結局、これを生業にしている人たちとは向き合い方が違ったのだ。

 だって、私はちょっと試してみようかくらいの気持ちだったのだ。いつかは深淵の常闇で元の世界に帰る。だから、真剣になんてなれなかった。


「マーガレット?」


 落ち込みながら、どこを歩いているのかも分からないままフラフラしていると、名前を呼ばれた。振り返るとちょっと前までよく聞いていた彼の声だった。


「どうしたの、こんなとこで」


 僅かに首を傾げ、笑いかけてくれたのはジークベルトだった。外にいるのは、まだ店が開くには早い時間だからだろう。


「何かあった?」


 優しくそう聞かれて、私は思わず口ごもった。大ありだった。


「おいで。ちょっと休んだ方が良さそうだよ」


 ジークベルトは私の背中に手を回すと、ゆっくりと歩き出した。向かった先は見慣れた建物で、ここで働いている時は楽しかったなということを思い出した。

 獣キャバの2階は簡素な従業員用の控室になっていて、本棚やソファに簡易ベッドなんかも置いてあった。ジークベルトは私をソファに腰かけさせると、1階から飲み物を持ってきてくれた。


「何かあった?」


 今一度聞かれたけれど、返事はできなかった。自分で口にするには恥ずかしくて勇気がいる。私はしばらく飲み物にも口をつけないままじっとしていた。ジークベルトは何も言わずに近くのソファに自分も腰掛け待っていてくれた。


「恥ずかしくて・・・魔法がちょっと使えるからって思い上がってたんですよね、私」

「恥ずかしい?」

「はい。覚悟なんてこれっぽっちもないのに」


 やっと話す気持ちになって口に出したは良いが、顔は上げられなかった。今は誰の顔も見ることができそうにない。


「もともと、冒険者になりたいって言っていたのはナイトだし、私はちょっと魔法が使えるし、頼りないナイトを守らなきゃいけないからって冒険者になることを決めて。自分からやりたいなんて、思ってなかったんです」


 たまたま流れのまま冒険者になったに過ぎず、望んでなんていなかった。それでも、魔法が使えるお蔭で役に立てる気がしていた。全くの勘違いも甚だしい。


「自分は特別なんだって思い上がっちゃって、バカですよね。結局何もできないのに」


 自己嫌悪が激しい。いつの間にか調子に乗っていたのは私なのだ。「拓郎が、拓郎が」ってずっと思って来ていたが、我が身を顧みることもできていなかった。


「そんなこと無いよ」


 突如、手を取られた。驚いて顔を上げると、ジークベルトはソファから立ち、目の前にまるで童話の王子様のように片膝をついていた。優しく掌を包み込み、微笑んでいる。


「バカなんかじゃないよ。ちょっと疲れちゃったんだね」


 私は驚いて、でも拒否には見えないように包み込む手からそっと手を引き逃れた。ジークベルトも気づいたみたいだけれど、再度することはなかった。


「特別なんかじゃなくていいよ。できなくたって構わない」

「それじゃ冒険者やってられないですよ・・・」


 ひいては深淵の常闇に帰れない。


「冒険者なんてならなくていいよ」


 おや?

 ジークベルトは隣に腰掛けてきた。ちょっと距離が近い。その分移動すると、距離を離さないようにジークベルトも移動してきた。背もたれに腕を回して、ぐっと距離が近づく。


「俺のとこにおいで。生活の心配なんてしなくていいし、大事にするよ」

「いやいやいや、それには及びませんよ・・・」


 しまった、これじゃ本当にホストみたいじゃないか。逃げ場がない。再び手を取られて冷汗がドッと出てくる。日本人には信じられない距離感とコミュニケーションである。


「俺に全て任せて」

「わ、私にはナイトがいますから!」


 居たたまれなくなって、ソファから立ち上がり逃げた。ジークベルトは一瞬、ビックリした顔をしてからまた笑った。


「ナイトが好きなの?」

「ナイトには私がついていなきゃダメなんです!と言うか、ジークベルトも弱った女の子につけ込むなんてダメですよ!それでは!」


 着いてきたのは失敗だった。精一杯の拒否の姿勢を示し、扉に向かう。落ち込んでいたからと言って、気を抜きすぎていた自分に反省した。

 もうとにかく悩むのは止めよう。宿に帰ってパーシヴァルたちと話もしよう。そう決意して扉に手を掛けて、ノブを回してから違和感に気付く。


「・・・?鍵がかかってる・・・」

「俺が閉めたからね」


 背後からの壁ドン。

 鍵を閉めてるってどういう意図ですか?年頃の男女が密室に籠るって何ですかそれイヤラシイ。


「何考えてるの?ジークベルト」

「もっと簡単にオチてくれるかと思ったんだけど、やっぱり処女は身持ちが固いね」


 あん?


「誰が処女ですって?」

「そうだろ?じゃなきゃこっちの世界に来れないって話じゃないか」


 私は驚いてジークベルトの顔を睨みつけた。


「あなた誰なの?」

「俺はジークベルト。ただのボーイだよ」


 ジークベルトはいつもと同じ優し気な微笑みを見せた。

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