第13話 ビギナーの依頼3
男の人から贈り物をされるのって初めてだ。こんなことがサラッとできるなんて、ジークベルトは大人だ。ソワソワしてしまう気持ちを紛らわすため、仕事まで時間があるので筋トレを行っていた。と言っても、毎日の日課のようになっているのだけれど。
深淵の常闇を探しに行くため、私は毎日体を鍛えていた。まあ、高が知れているのだけれど、それでも前よりも体が軽くなった気がするし、動けるような気もする。
「拓郎も一緒にやろうよ。冒険に出たいって言ってたのは拓郎の方でしょ」
「拓郎じゃない、ナイトだ。バカを言うな、マーガレット。異世界トリップした勇者っていうのはすでにカンストしたステータスを持っている物なんだ。鍛える必要なんてない」
「カンストって何?」
拓郎は起きてから仕事が始まるまで、大体ゴロゴロしている。いくら誘っても動こうとしないから諦めた。冒険に出ても私が拓郎を守ればそれで良いだろう。黙々と腹筋運動を繰り返していると、ドアがノックされた。
「ただいまー!ナイト、マーガレット、元気にしてた?」
ディアナたちが帰ってきたようだ。ボロボロの姿だが元気のようだ。
「お帰りなさい。依頼が終わったんだね」
「近くの村に出現するゴブリンの群れ退治だったからな」
「楽勝すぎて、ついでに村の囲いを直す作業とか手伝わされたんだぜ。やってらんねぇよ」
「別途で報酬もらったから、それは別に良いだろう」
4人は無事に依頼を終わらせたらしく、満足げな表情だった。ゴブリン退治と聞いて、拓郎が跳ね起きた。そういうのには興味があるんだな・・・
「マーガレットたちは今日合わせてあと4日だっけ?」
「そうなの。依頼内容は別に問題ないけど、ちょっと長いかな」
ディアナに洗って干した布を渡してあげながら、こちらの依頼の状況も伝える。4人はまた4日間は休息日とするらしい。
「それじゃ、今後の予定なんだけどな。ナイトとマーガレットがビギナーをクリアしたら、一緒に一個依頼をこなそう。それが終わったら、一度区切りだ」
区切り・・・つまり、面倒を見てもらっていたのも、そこを卒業にするのだ。確かにいつまでも頼っていてはいけない。ビギナーをクリアするということは、本格的な冒険者として登録されたということだ。むしろ一緒に依頼をこなしてくれると言うのだから、ありがたい話だ。
「それじゃ、2人ともビギナーあと少し頑張ってね」
「はい!」
***
「そっか。お友だちが依頼から帰って来たんだね」
「はい。ビギナーが終わったら、一度一緒に依頼をこなしてもらえることになってます」
「優しいね。大抵は手探りで自分の力だけでこなしていくものだけど。とはいっても、冒険者の中で死亡率が一番高いのって、ビギナー上がりで町の外に出る依頼を受けた時だからね」
この世界は普通のRPGのようなものとは違ってちゃんと現実だ。魔物と正面からエンカウントして戦い、経験値を稼いで強くなるというものではない。魔物は遠くから存在を察知し、身を隠しながら不意を突いて攻撃を仕掛けるのだ。そりゃHPなんて概念はないのだから、攻撃を一回でも受ければ血を流すし動きも悪くなる。下手すりゃ一撃もらって打ちどころ・当たりどころが悪ければ死亡だ。回復薬なんて万能なものもないので怪我を直すには時間がかかる。それに単純に何体も魔物を倒したからって、レベルアップをする訳ではない。自分で得るものがなければ強くはならないだろう。スライムを延々殴り殺してたって強くはならないのだ。
「良い先輩と巡り合えたんだね」
「自分でもそう思います」
この4日間も休息日と言いながら次の依頼のための準備をしてくれるようだ。過保護すぎる。よくチャドが爆発しないものだと思ったが、捻くれているだけで彼も案外情に厚い性格だ。
「でも、そっか・・・あと4日か」
ドキッとして思わず固まった。ここ数日の間に、ジークベルトのこんな声音を時たま耳にするようになった。自意識過剰だと自分に言い聞かせているが、恐る恐る彼の表情を窺えば「寂しくなるね」なんて笑っていて。
「なんて、ね。気にしないで」
どうしたって自意識過剰にならざるを得ない。勘弁してくれ。一体どういうことなの?まだ明日から3日も仕事は残っているのに、気まずすぎるわ。それとなく拓郎に持ち場を交代してくれと掛け合ったのだが、突っぱねられてしまった。
拓郎は私が他の男の人に誘惑されても良いって言うの!?
「あら、マーガレット。休憩?なんだか疲れてるわね」
休憩時間、裏で休んでいたらニーニャに気付かれる始末だ。ちょうど休憩が被ったらしい。
「疲れてるような、疲れてないような、ね・・・」
「だらしないわね。仕事なんだから頑張りなさいよ」
水を飲みながら雑誌を読みつつ、ニーニャは相変わらず毒を吐く。もう6日も一緒に過ごせば慣れたもので気にもならない。
「そう言えばマーガレット。聞きたいことがあるんだけど」
「え。なに?」
「2人ってエイブラハムの直々の依頼でここに来たんだよね。親しいの?」
雑誌から目を離してニーニャは突然尋ねてきた。予想だにしなかい名前が出てきたので、一瞬思考が停止してしまった。
「あの人って今、杖職人と商談進めてるのか連絡取り合ってるみたいなんだけど、どうなの?人柄と言うか、評判的にもどんな感じ?」
「ちょっと待って、待って。依頼を受けてきたって言っても、偶然受けることになっただけなんだよ。エイブラハムさんのことはよく知らないな・・・」
身を乗り出して聞いてくるニーニャに、私もしどろもどろに答える。すると一瞬考えた後、「そっか」と座りなおしてまた雑誌を読み始めた。なんだってニーニャはエイブラハムが気になるんだろうか。
しかし、雑誌を読むことに戻ってしまったニーニャには、もう話しかけることが阻まれできなかった。まぁ、他人のことに首を突っ込むのも無粋だし、良いか。




