国保と消費税
失業者は思った。
この国は失業者を舐めてるのか。
国保は高い。年金も高い。そして消費税がアップした。でもってまだ上がる予定とか。
「…………何とは言わないが、爆発しろ」
低い声が、部屋に響いた。
国保にメールが入ってきた。消費税からだ。
こくほさん、元気? ボクまた知恵熱出たんだよ〜。アハハ。
アホ〜なテンションの、アホーなメール。国保よりも二つほど年下の消費税はお勉強はできるのだが、いかんせんいろいろな意味で頭が痛いコであった。
だがしかし、キャラクターの痛さでは国保も負けたもんじゃない。見た目はチャラ男そのままなのに、どこまでも生真面目で鬱でネガティブなのだ。
メールを受け取った彼は、スマホの画面に30秒ほど見入ったあと、速攻で電話をかけた。
『あれ〜。こくほさん。メール見てくれたのぉ? 電話しなくても返事メールでよかったのに〜』
間延びした少し高めの男性の声が国保の耳を打つ。
「だって、だって。だって……。また言われたんだ。無駄に高いお前は死ねくらいの勢いで。役所に乗り込まれたんだよ。なんていうかもう、包丁持参で殴り込むぞくらいの感じで! 役所は僕を捨てたい気持ちでいっぱいに違いないよ! 要らないコなんだ僕は。不要物で粗大ゴミでクズでカスで塵なんだ!」
国保はベッドに突っ伏した。くぐもった声で年下の男に泣き言を訴える。
『それはボクもだってば。税抜き価格と税込み価格の表示で混乱してるし、鉄道とかの料金がICカードと切符で変わるし、郵便切手は微妙な値上げで面倒くさい。って感じで方々から文句言われてんだよ。10パーセントになったら嫌でもきっちりするのにさ〜。計算で知恵熱も出るよぉ』
消費税の訴えはもっともだ。世間はいろいろ混乱した。
「でもそっちはちゃんと払ってもらえる。包丁持参で殴り込みとかされないし」
『買い物したら自動的に支払うシステムだからね〜こっちは。支払うごとにぶつぶつ言われてるけどさ〜』
「こっちは滞納されるんだ。減免の手続きや相談に来るのはまだいい方で、滞納して保険証の期間が短くなったり保険証の期日が切れたりして、それでまた乗り込まれたりしてるんだ。期日が切れる前に減免の相談来いよって思うんだ。未払いのままほっとかれても、こっちからは手の打ちようがないのに……」
だんだんと声が小さくなり、暗澹たる空気が国保を覆い尽くして行く。
『こくほさん。住民税さんも同じようなこと言ってたよ。滞納されるって。確定申告とか住民税の申告もサボってる人いるから、そんな気なくても脱税してる人がいて無茶苦茶になってるのもあってしんどいって。住民から高すぎて存在価値を疑うって言われたとかさぁ』
「あの人は僕の同士だ。心の友なんだ」
住民税も、基本的に高いと言われて滞納され、国保と同じような扱いを受けている。国民年金もそれは同じだ。
『ボクも仲間に入れてよ〜。ボクだってボクだってぇえ』
「……爆発しろ」
妄想を振り払って、失業者はベッドの上に倒れ込んだ。




