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死後管理局からのお知らせ

作者: ねむねつ
掲載日:2026/05/05

 彼は1度死んだ。薄給で忙しく働いている市立病院救急室の研修医が90秒後に蘇生させたので、さほど長い間死んでいたわけではない。


 だが、彼にとっては十分だった。

 なぜなら、死んでいるあいだに、彼は「とんでもないもの」を見てしまったからだ。


「……あの、名前は言えますか?」

 医師が問うと、彼はぼんやりと答えた。

「えっと……山田……山田……」

「山田さんですね。よかった、意識ははっきりしているようです」

「山田……太郎……?」

「自分の名前を疑問形で言う人は珍しいですが、大丈夫です」

 大丈夫ではなかった。

 彼は死んでいる間、天国でも地獄でもなく、市役所の待合室のような場所にいたのだ。

 番号札を渡され、

「お呼びするまでお待ちくださーい」

 と、妙に事務的な天使(?)に言われた。

 そして、彼の番号が呼ばれた瞬間、蘇生された。

 つまり、彼は死後の手続きの途中で現世に引き戻されたのだ。


 退院後、彼は会社に復帰した。

 総務部のデスクに座ると、同僚たちが心配そうに声をかける。

「山田さん、生き返ったって本当? すごいね!」

「すごいって……何が?」

「いや、なんか……レアじゃん?」

 レアと言われても困る。

 彼はただ、死後の窓口で順番待ちをしていただけだ。

 仕事に戻っても集中できない。

 書類の山を前にしても、頭の中ではあの天使(?)の声が響く。

「番号札は失くさないようにお願いしまーす」

 失くした。

 蘇生の衝撃で、どこかに落とした。

「……どうしよう」

 彼は深刻に悩んだ。

 死後の世界で番号札を失くすのは、たぶん相当まずい。

 その日の夜。

 彼が夕食を食べていると、スマホが震えた。

 画面には見慣れないアプリの通知が。


【死後管理局】

あなたの手続きが中断されています。

至急ご連絡ください。


「……え?」

 彼は震える指で通知を開いた。


【担当:天使補佐A-47】

番号札の再発行には本人確認が必要です。

近日中に夢の中で伺います。

よろしくお願いしまーす。


「よろしくお願いしまーす、じゃないよ……!」

 彼は叫んだ。


 その夜、彼は夢を見た。

 白いカウンター。

 番号札のディスペンサー。

 そして、あの天使(?)が現れた。


「山田太郎さーん。番号札、失くしましたね?」

「すみません……」

「すみませんじゃないんですよー。あれ、再発行めっちゃ面倒なんですから」

 天使はタブレットを操作しながら、ため息をついた。

「で、どうします? 今すぐ再発行します? それとも、次に死んだときにまとめてやります?」

「次って……」

「ええ。人間はだいたい数十年以内にまた来ますから」

「軽いな……!」

天使はにこにこしている。

「ちなみに、再発行には手数料がかかります」

「手数料?」

「はい。生前の善行ポイントで払えます」

「そんなのあったの?」

「ありますよー。あなた、ポイント残高……あ、ギリギリですね」

「ギリギリ!?」

「はい。あと、善行ポイントはコンビニ払いできませんので」

「できても困るよ!」


 翌朝、彼は決意した。

 善行ポイントを貯めよう。

 なぜなら、次に死んだとき、番号札の再発行で揉めたくない。

 彼は通勤途中、困っている人を探した。


・落とし物を拾って渡す

・お年寄りに席を譲る

・道に迷った外国人に英語で案内する(Google翻訳頼り)


 だが、どれもポイントがついた気がしない。

「どうすれば……」

 そのとき、スマホが震えた。


【死後管理局】

本日の善行:+0.5ポイント

(席を譲った件)


「0.5!? 少なっ!」

天使からメッセージが届く。


【A-47】

善行は“見返りを期待しない心”が大事でーす。

ポイント目的だと、減点対象になりまーす。


「じゃあどうすればいいんだよ!」


【A-47】

自然体で生きてくださーい。

そのうち貯まりまーす。


「自然体で貯まるか!」


 数週間後。

 彼はふと気づいた。

 善行ポイントのことを忘れて、普通に生活しているときのほうが、なぜか通知が増えている。


・同僚の愚痴を聞いた

・上司の忘れ物を届けた

・落ち込んでいる後輩にコーヒーを奢った


【本日の善行:+3ポイント】


「……あれ?」

 天使からメッセージ。


【A-47】

そういうことなんですよー。

“生きてるだけでポイント貯まる人”っているんです。

あなた、そっちタイプです。


「そっちタイプ……?」


【A-47】

はい。だから、次に死んだときは安心して来てくださーい。

番号札、ちゃんと用意しておきますね。


「次に死んだときって言うな!」


 彼は今日も生きている。

 善行ポイントのことは、もうあまり気にしていない。

 ただ、時々スマホに届く。


【死後管理局】

本日の善行:+1ポイント

(コンビニ店員への丁寧な対応)


「……そんなのもポイントになるのか」

 彼は笑った。

 死んだことは怖かった。

 だが、死後の世界は、案外ゆるくて、事務的で、そしてちょっとだけ優しい。

 だから彼は、今日も自然体で生きている。

 次に死んだとき、番号札をちゃんと受け取るために。

 そして、天使A-47に言うのだ。


「今度は失くしませんから」

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