第7話 石の戦場
裂けた紙は布で包んで納屋の箱に入れた。箱の中は乾いている。壁板の隙間から風が通る。湿気は少ない。紙が湿ると字が滲む。母さんがそう言っていた。
昼になると、俺はまた納屋に入る。戸を半分だけ閉める。光が斜めに入る。床の上に細い帯の光ができる。埃がその中でゆっくり動く。
床に座る。箱を引き寄せる。布をほどく。紙束を取り出す。裂けた紙は別にしておく。破れていない紙を一枚開く。
線がある。
丘の形。
川の曲がり。
道の分かれ。
文字もある。
全部は読めない。
でも線は見える。
納屋の隅に小さい木片がある。薪を割ったときの欠片だ。丸い石もある。外の土から拾ったものだ。
俺はそれを床に並べる。
木片を四つ。
石を三つ。
紙を見る。
床を見る。
位置を合わせる。
木片を少し動かす。
石を一つ動かす。
紙の線の上に指を置く。
そのまま床の上に指を移す。
同じ形になるように石を置く。
納屋の外で風が鳴る。
板が揺れる音がする。
俺は石を動かす。
木片を一つ倒す。
別の場所に置く。
もしここから来たら。
もしここを回ったら。
床の上で形を作る。
また動かす。
しばらくしてから、俺は立ち上がった。紙を持って外へ出る。家の裏の空き地に行く。地面は踏み固められている。細かい砂がある。
足で線を引く。
円を作る。
道を作る。
丘を作る。
紙を地面に置く。
見比べる。
納屋から木片を持ってくる。
地面に並べる。
石も並べる。
風が吹く。
砂が少し動く。
俺はしゃがんで石を動かす。
木片を倒す。
また置く。
太陽が少し動く。
影の位置が変わる。
広場のほうから声が聞こえる。
子どもたちが木剣を振っている。
乾いた音が続く。
俺はその音を聞きながら、石を動かす。
さっきの戦い方を思い出す。
バドの足。
取り巻きの足。
地面の砂。
石を置く。
動かす。
もしここに石があれば。
もしここに段差があれば。
俺は地面に指で線を足す。
道を細くする。
丘を高くする。
形が変わる。
石の位置も変える。
母さんの声が家から聞こえた。
「レイン」
俺は立ち上がる。
地面の石をそのままにして家へ戻る。
母さんは戸口に立っていた。手に布を持っている。針が刺さったままだ。
「水、汲んできて」
「うん」
桶を持つ。井戸へ向かう。広場を通る。子どもたちがまだ木剣を振っている。バドもいる。
俺は井戸の縄を引く。桶を下ろす。水に当たる音が下から返る。少し待ってから引き上げる。縄が手に擦れる。指が赤くなる。
桶を持って戻る。
水が縁で揺れる。
家の裏へ回る。
地面を見る。
さっき置いた石の形がそのまま残っている。風で少しだけ動いている。でも形はわかる。
俺は桶を置く。
またしゃがむ。
石を一つ動かす。
木片を動かす。
そのとき、背後で足音がした。
振り返ると、母さんが立っていた。
母さんは地面を見た。
石の並びを見る。
木片を見る。
「何してるの」
母さんが聞いた。
俺は石を指さす。
「並べてる」
母さんは少し首をかしげた。
「村?」
俺はうなずく。
母さんは地面を見る。
森の形。
道の形。
丘の形。
しばらく黙って見ていた。
それから言った。
「……あんた、よく覚えてるね」
俺は石を動かした。
丘の横に置く。
「ここ弱い」
母さんはその場所を見る。
村の南側。
柵のところだ。
母さんは小さく息を吐いた。
「父さんと同じこと言うね」
風が吹いた。
地面の砂が動いた。
俺は石をもう一つ動かした。
森のほうに置く。
「ここから来る」
母さんは何も言わなかった。
少しだけ石の並びを見ていた。
それから言った。
「手、洗いな」
俺はうなずく。
井戸水の桶で手を洗う。砂が流れる。
母さんは家へ戻る。
俺はもう一度地面を見る。
石の並び。
木片の並び。
地面の線。
村の形と同じだった。
風が吹く。
石が少し動く。
俺はそれを元の位置に戻した。




